法悦の詩〜読響 第584回 定期演奏会

2019年1月18日(金)読響 第584回 定期演奏会
於:サントリーホール/19時開演
指揮:山田和樹
ピアノ:小菅 優
コンサートマスター:長原幸太

諸井三郎 交響的断章
藤倉大 ピアノ協奏曲 第3番 〈インパルス〉
ワーグナー 舞台神聖祭典劇 〈パルジファル〉から第1幕への前奏曲
スクリャービン 交響曲 第4番 〈法悦の詩〉作品54

今年初めてのコンサート。
コンサートに行くこと自体久しぶりだったので、それだけでもワクワクし、会場に向かう間もニコニコが止まりませんでした。

一言で言えば、すごい演奏会だった。

上のプログラムを見ると、4つの作品が並んでいるだけですが、一つ一つの作品がその場で具現化されていた時間の流れを思い返すと、その時の時間がとても長く、重く、豊穣なものに感じられ、なんというコンサートだったんだろう、あの場にいられて演奏を聴けたことが只々幸せだったなと思います。

コンサートの最中、終了後はそのすごさに圧倒されましたが、今改めてその時空間を思い返すと、とても暖かな光輝く場だったと感じられ、時間の経過によって人の記憶が変わっていくことの不思議さを、面白いなと思いました。

 

諸井三郎の〈交響的断章〉は、まるで作曲者自身や当時のオーケストラが乗り移ったかのような演奏。アインザッツの不揃いさや弦の音色の荒さが当時の演奏を再現しているようだった。

低弦からヴァイオリンの高音まで一筆で繋がるようなグリッサンドの受け渡し。ヴァイオリンが旋律を奏でている時、その音色が紗幕がたなびく中で鳴っているように聴こえ、何もかもを剥き出しにしない日本らしさが表れているように感じました。中間部でクラリネットとオーボエだったか木管が鳴った時、その前の合図の手の動きから音がそのまま空中に取り出されたようで、魔法を見ているようだった。

後半部は半音階の下降がそこかしこに現れ、この後に演奏されたワーグナーやスクリャービンの作品の片鱗ともつながって、ヨーロッパの近現代の作曲家の影響が感じられました。あるモティーフを様々な楽器が調や音域を変えながら次々に演奏していき、まさしく絵巻物を見ているよう。西洋音楽のそれと似ているようでどこか異なる旋律が、とても美しかった。


藤倉大、ピアノ協奏曲第3番〈インパルス〉は、現代人の生の律動を表現しているような作品。面白かった!
オーケストラとピアノが本当の意味で同等となり、一緒に音楽を作り上げている感じ、どのパートが欠けても成立しない音楽だと思った。

小菅優さんのピアノは、最初少し音が硬かったけれど、中間からどんどん音色が多彩になってオーケストラの響きも刻々と変化し、それを追っていくのが楽しかった。ミスのほとんどない演奏で、僅かにミスタッチをしても次の同じようなフレーズでミスを恐れずそれ以上の勢いとエネルギーを持って思いっきり弾いていく姿勢が大好きです。

ヴァイオリンが高音域で細かく乾いた音を鳴らし、自然音でないのに自然音のような感じ—森や街の中で枯葉が舞っているような−−、その下でピアノが丸い音で複雑な音型のパッセージを弾いていく。ヴァイオリンの律動が次第に揃い、機械的なリズムになっていく。ピアノの高音のパルス、信号的な同音連打を受けて打楽器(シロフォン?)が鳴り出す。ピアノとオーケストラの間、オーケストラの各楽器間で音のやり取りが次々に行われ、目が離せませんでした。

指揮とピアノが一直線につながり、一つになって音楽を生み出していく感じ、本当に全身全霊で音楽を表現しているのだなあと思いました。
曲の最後の方で笙にとてもよく似ていながら、笙の響きとは違う和音が鳴り、そこから新しい世界が開かれたようで、とても不思議な感じがしました。
聴かせていただき、ありがとうございました。


ワーグナーの前奏曲、今回のプログラムの中ではこの作品が一番聴いていて安らぎを感じられる音楽で、響きと旋律の官能的な美しさに浸りました。弦の弓の返しを微妙にずらしていたのでしょうか、音の変わり目が少し重なるくらい途切れなく繋がって、重厚さ、特有の官能性が増幅されているようでした。

スクリャービンの交響曲は、大変な曲だった。最後にオーケストラの皆さんがカーテンコールで立った時、こんな大勢の人たちが一つになってさっきまでの曲を演奏していたのだと実感され、そのことのすごさに胸を打たれました。前半は聴いていて本当に気持ちが良い響きがそこかしこで柔らかく爆発する感じ、後半はとにかくトランペットの真っ直ぐな響きが印象的でした。またヴァイオリン・ソロは、ソロでありながらオーケストラの響きの中で調和して聴こえ、でもはっきりとソロパートとして成立していて、今まで聴いたことのないようなソロの演奏法だと思いました。他のパートをよく聴きながら演奏するとあんなソロになるのかなぁ。

今回のプログラムは、すべての作品がそれぞれ少しずつ関連しあって、半音階やモティーフの使い方、グリッサンドなどの音型や作曲法も似通っていたため、演奏会自体が一つの作品となっているように感じられました。

総じて官能的な、感覚に訴える曲目、演奏で、年明け早々すごいものを聴いてしまったなあ、今年もこれからどんな演奏が聴けるのか楽しみだな、と思いました。


聴かせていただきありがとうございました。また、最後まで読んでくださった方もありがとうございます。

皆様にとって2019年もますます良い年になりますように!


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