予測不可能の結末──『すべてがFになる』

『すべてがFになる THE PERFECT INSIDER』(講談社、1996)は、森博嗣のデビュー作であり、代表作である。これまでドラマ、アニメ、ゲームにも置き換えられ、幾度となく読み返されてきたミステリー小説の名作だ。

©︎講談社文庫

物語は、大学建築学科の准教授:犀川創平と、犀川の生徒で大金持ちのキレ者美少女:西之園萌絵の二人が、稀代の天才技術者:真賀田四季の謎の死の真相を巡って奔走する様子が描かれる。

あらすじはこうだ。

絶海の孤島にある研究所のさらに奥。15年間自由に部屋を出入りすることが許されず、研究だけをこなして生きてきた真賀田四季。しかしある日、強固なセキュリティにより中から開けられるはずのない扉から、彼女は突然姿を現した。純白のウエディングドレスで美しく着飾り、両手両足を切断された死体となって。

一人っきり閉じ込められた密室。部屋を監視するすべてのデータが、中からも外からも誰も入っていない事実を突きつける。真賀田博士は明らかに殺害されている。犯人は誰か? なぜ殺されたのか? どうやって強固なシステムをくぐりぬけたのか? ITの最先端技術の研究所というだけあって、プログラムや記録の緻密な捜査が行われるが、さらに謎は深まっていく。真相は一体──?

この小説の面白いところは、出てくる証拠をただ集めても、謎が深まるばかりで絶対に真相が見えてこないところにある。当たり前のことだが、基本に立ち返って発想を転換する、仮説を立てることが超重要なのだ。事実、最後まで読んで真相を知った時は、「そんなんありかい!」と心の中で突っ込みをいれた。

また、核となる登場人物の設定だけがかなり特殊であることも見逃せない。

事件の核となっている真賀田四季という人物は、第一線の研究者であった両親から余すことなく才能を受け継ぎ、幼い頃から発揮してきた稀代の天才技術者。しかし15歳の時、すでに天才の名をほしいままにしていた彼女は、両親を殺害するという大事件を引き起こし(多重人格症状による)、そのせいで研究所に閉じ込められている。というツッコミどころ満載の設定だ(主人公、西之園萌絵もかなり特殊な設定があるが、本作では解き明かされていない)。これが初期設定なのに、真賀田博士は開始早々に死んでしまうので、どう捉えたらいいのか全くわからない。重要なの? 関係あるの? と最後まで考え続けて、結局真相が語られるまではわからないのである。そこが面白い。

さらに、物語とは別で面白い点として、作中の最先端技術の描かれ方がある。本書は初版が1996年。執筆時期が80年代後半だとすると、当時はマイPCなんてとんでもない、プログラミング技術を要していない人はパソコンを使うことができなかった時代だったと思う。平成生まれの筆者にとって、作中のパソコン操作に関するやり取りのほとんどが「ナニソレ?食べられんの?」的な感じだったのが新鮮で面白かった。

さて、そんなこんなで読み進め、事件の真相が明かされた時はそうだったのか! と安堵するとともに、少しだけ困惑した。そして最後のページまで読み終わった時、その困惑はさらに濃いものとなって、ただただ次回作を早く読みたいという気持ちに変わっていたのでした。おわり。