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互いを「死なせない」ために共に生きる

朝日新聞デジタルの連載の頃から拝読していた。

壮絶だ。
回復記録なのかなと思って読んでいたが、びっくりするくらい話は暗転していく。「妻」さんは、自ら生死の境目に足を運び、その線の上を日々歩いている。
ありのままに描かれていて、そしてそれがとても壮絶だ。
でも、だからこそ、この本を必要としている人がたくさんいる。「妻」さんの「私みたいに苦しむ人を、もう出さないでほしい」との願いが叶うためには、1人でも多くの人に知ってほしい。
…でもそう思いながら、なかなか誰かに紹介する、ということができずにいた。だって、ただ「壮絶だから」というのは、私がこの本を紹介する理由じゃない。
著者が自身(と「妻」さんの)の問題として向き合っていった日本における精神医療の問題、貧困問題、患者家族の問題、いずれも切実に、かつ鋭く書かれている。…でも、何か引っかかる。
それは、なぜ著者は「妻」さんと離婚しなかったの?ということだった。

今回改めて書籍を手にとって、著者名で検索するとこの出版後のインタビューで、答えてくださっていた。


――20年間の闘病中、一度だけ永田さんから離婚を切り出したことがあるそうですね。
永田 過食嘔吐のための食材購入費のために「サラ金」に手を出すかどうかになった時の一回だけですね。
 以前、この本についてインタビューを受けたとき、「とっとと離婚すれば良かったのに。こいつはバカじゃないか」というようなことをネットに書かれました。
 たとえば夫のアルコール依存症に悩んでいる専業主婦の方など、経済的な理由や子どもの問題で別れたくても別れられない方がいる中で、私の場合、子どももいないし、稼ぎ手は私の方なので、容易に別れられるじゃないか、ということなんだろうと思うんですが。
――本を読んだ私も、なぜ大変な状況から逃げ出さなかったのか、不思議に思う部分はありました。
永田 依存症の患者に対しては、家族の援助などをすべて断ち切って「底つき」させることが必要という言説もありますが、それに従って離婚したら、きっと彼女は死んでしまうだろう、という思いがありました。実際、後日精神科医にも聞きましたが、きっぱりと「永田さんがいなかったら死んでたでしょう」と。

https://bunshun.jp/articles/-/62851?page=3
『妻はサバイバー』著者・永田豊隆さんインタビュー #1

自分が逃げ出してしまったら、目の前のこの人はこのまま死んでしまうだろう。
例えではなく本当に、実感をもってそう思ったとき、人が逃げ出すのは難しいことなのかもしれない。もちろん、これを美化するのは危ない。逃げ出せなくて、ギリギリまで頑張っての介護殺人や心中は今日もどこかで起きている。

一方、改めて、「結婚」ってそういう仕組みだったんだなと思った。著者と「妻」さんに限らず、多くの人にとって、多かれ少なかれお互いが「死なせない」ための仕組み。
そう思うと、本書のタイトルはそのまま、このことを言ってるんじゃないか、と思えてきた。
「妻はサバイバー」

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