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ヤマト イオリ「私の幸せな時間が長い理由」発売決定に寄せて

 先日行われたイベント「MF文庫J『夏の学園祭2019』」にて、12人のバーチャルYouTuberグループ「アイドル部」の一人、ヤマト イオリのエッセイ本「私の幸せな時間が長い理由」(イラスト担当は同じくアイドル部に所属するもこ田めめめ)の発売が発表された。自分はこの配信をリアルタイムで見ていたが、アイドル部のプロデューサーであるばあちゃるが告知を始めた時は順当に「電脳少女シロ生誕祭」辺りについて話すのだろうと思っていたので完全に不意を突かれ、「本気で言っているのか」という困惑の思いと「.LIVEがまたやってくれた」という快哉の思いがないまぜになった挙げ句、思わず画面の前で叫んでしまった。我ながら情緒が不安定過ぎる。

 自分は2018年11月辺りからアイドル部を見始めた新参だが、年が明けた頃からはイオリンが明確に「推し」となっている。ではイオリンのどこが好きかと問われるとその多面性故に意外とスラスラとは答えられないものだが、あえて取り上げられにくい点から挙げるとすれば「配信の組み立て方の巧さ」だろうか。


 上記の配信に特に顕著だが、イオリンは「OPトーク→本編→EDトーク(→アディショナルタイム)」という基本的なフォーマットは守りつつ、そこにアイキャッチや「相談の館」などの小コーナーを挿入することで配信にメリハリを付け、約1時間という配信時間の中にダレる箇所が出ないように気を配っている。そもそもVTuberを見ていると感覚が麻痺しがちだが、1時間は決して短い時間ではない。レコード時代のアルバムであれば二枚組でもない限り大抵は丸々聴き通せてしまうほどの長さだ。だからこそ、イオリンのこうした一手間かけた工夫にも意味が生まれてくるのである。


 また、彼女は先日初めてとなるラジオ企画を行っているが、全体的にはまだ手探り感溢れる内容ながら合間に自作のCMを流すという遊び心を発揮しており、見ていて非常に感銘を受けた。イオリンの配信頻度はあまり高くはないが、その分一回一回の配信で視聴者を楽しませようという思いがとても強く伝わってくるし、そうしたエンターテイナーとしての姿勢はリスペクトするに足るものだと思っている。イオリンの配信は彼女の独特なイメージからシャッグスめいてプリミティブさに価値が置かれているコンテンツだと思われがちだが、実際の所はそうではなく、毎回の配信が面白くなるように丁寧に構築されているのである。


 とはいえ、イオリンを語る上ではやはり「為」の要素は欠かせない。為という概念を生んだのは彼女の先輩にあたる電脳少女シロだが、3Dモデルのおひろめ生放送では馬を撃沈させた「ゆっくりハイペース」な雑談、概要欄の目まぐるしく話題が移り変わっていく独創的な文章など、まるで泉から湧き出るような思考の発露は彼女をも凌駕しているのではないかと思わされるほどで、自分も未だに翻弄されてしまう。しかし、今回のエッセイ本ではその思考の根幹を垣間見ることが出来るかもしれない。執筆は思索を深める機会にもなる。普段の為発言は考えたことがそのまま口をついた結果生まれるものだと思うが、それらをきちんと整理して文章に起こしていった先には、為のヴェールに覆われていない等身大の「ヤマト イオリ」が在るのではないか。

 そしてそれとはまた別に、イオリンが普段何を考えて生きているのかについても純粋に興味がある。イオリンは「性善説の擬人化」とも称される優しい性格の持ち主だが、それはどのような思想によって支えられているのか。大上段に構えるつもりはないが、そうしたバックボーンを共有することは少なくない人にとって有益に働くと考えている。

 また、個人的には.LIVEが「エッセイ」というジャンルに進出したことにもワクワクしている。アイドル部は今回が初めての出版経験ではなく、すでにカルロ・ピノ「ぴのらぼ」夜桜たま「たまーじゃん」を執筆している。しかし「ぴのらぼ」は「虫の生態をテーマに据えた児童書」、「たまーじゃん」は「麻雀の入門本」と、両者はコンセプトが明快であり、その内容はある程度予想出来ていた(実際にはどちらも予想を超えるクオリティだったが)。しかしエッセイというジャンルは定型を持たないが故に先の二冊と比べると遥かに「自由」であり、見方によってはとても挑戦的な試みといえる。もしもこの本が好意的に受け止められれば.LIVEの書籍展開の幅もさらに多方面へと広がっていく可能性があり(それこそシロちゃんの自伝なども出せるかもしれない)、そうした観点からも今回のエッセイ本は重要な意味合いを秘めているといえるのではないだろうか。

「私の幸せな時間が長い理由」は2019年11月10日、すなわちイオリンの誕生日に発売される。本を読んだ翌日には0が1になるように、自分に何らかの影響を及ぼしているような一冊であることを期待する気持ちもあるが、今はただ発売日を楽しみに待っていようと思う。

Listening to you I get the music
Gazing at you I get the heat
Following you I climb the mountain
I get excitement at your feet

- The Who「Listening To You」より

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Willie

名前はFrank Zappa「Willie The Pimp / ポン引きのウィリー」より。主にロックやVTuber等について紹介する記事や、Twitterには書き切れない雑記を書きます。

電脳テキスト集

バーチャルYouTuberについての記事集。大多数は.LIVE(電脳少女シロ/ばあちゃる/アイドル部/メリーミルク)周辺の話です。
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コメント2件

写真を使っていただきありがとうございます。
こちらこそヘッダーに使わせていただきありがとうございました。とても素敵なお写真だと思います。
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