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2017年5月の記事一覧
Poem-) 悲しみを載せる舟は…
悲しみを載せて
舟は一双、また一双と
人々が寝静まった時間
月夜の晩に
海の彼方に
流れて行きます
夜の闇は
水平線を隠してしまうので
その舟が
海の向こうにくだって行ったのか
空へのぼって行ったのか
確かめようがないのですが
月の光が
海の上に踊りだすのです
舟の航路を示すように
その場所だけが
明るく輝きだし
一双、一双
流れ出す舟は、どんどん増えて行くのです
悲しみを載せる舟は一双では足
Poem-) 風の輪
名前を聴かせてほしいのですが。
街の古びた店の角を曲がろうとすると
背ろから、呼び止められた
私ですか。
振り向きながら声の主を
探すのだが
誰が発した言葉なのかわからない
声は流れている時間の秒針のように
どこかで同じ時間をめぐり続ける
風は螺旋を描き
葉っぱをぐるぐる回転させている
追いついてきた風に吹かれながら
この街にしばらく留まろうか
どうしようかと
鳥が、横を通りすぎる
Arim
Poem-) 雨のなかを
雨のなかを
あるいていく
雨はひかるもの
を見つけては
降りてくる
雨が輪郭を
濡らし
世界は生まれていく
肩を肘をつま先を
濡らし
私は生まれる
種撒くように
触れて
通り過ぎる
雨
雨は木々の葉を
揺らし
鳥は嘴を鮮やかに濡らす
空高く
交わされた約束のように
柔らかな花びらに止まり
花に光の言葉を置いていく雨
雨のなかをあるきたい
眠るものを起こし
時の中に生まれようとする夢の
Poem-) 紫煙(しえん)の街
遥か昔に。その土地に、年月を数えるための方法を、もう見つけることができなくなるほど昔。
紫水晶売りの商人が、ここを宿場町にしていたという。大きな風呂敷に、ゴツゴツとした原石を包み背に背負い、両手にはそれぞれ4つほどの荷物を抱えて、街道を行き来していた。
鋭角に割れた原石は時々風呂敷の布を破り出て、その隙間からは、小さな水晶の塊や紫の粉が滑り落ちていた。おかげで、町の数本ある通りは、いつしかすべて、
Poem-)猫のしょぼり
猫のしょぼりが 歩いてきた
いつもの路地から 歩いてきた
しょぼり しょぼり
淋しそうなしょぼり
何で、そんなに悲しそうに歩いているの?
今日は聞いてみることにした
別に、淋しくなんてないよ、
悲しくなんてないよ、
しょぼりにとっては
これがふつうだった
では、こうしよう
足音が淋しいのだから
変えてみようよ
前足をちょっとだけ高くあげて
ショッぼり、はどうだろう
ショッぼり ショッ
Poem-) 水色の川
その街には
水色の川がある
水色の光を
手に掬うことが
できれば
2つの願いが
叶うという
あなたと私の願い
そこから
世界はやさしく
始まればいい
今日も
この街に
水色の川を
探しに行く
(Arim)
※前橋ポエトリー・フェスティバル2017
【『水』の詩と写真 街なか展覧会】参加作品 小林万利子