第3のホーム

 私の大学生活は、ミスドでのアルバイトを通して出会った人たちに支えられた。
 私は東日本大震災が起きた3月に大学進学のため上京した。入学式やオリエンテーションは中止、初回授業もゴールデンウィーク明けに延期となり、友達どころか知り合いすらいない東京で、真っ白な1ヶ月をどう過ごすか悩んでいた。そんな時に駅前にあるミスドが目に留まり、地元で見慣れていた安心感から、アルバイトをしてみようと決めたのだった。
 まずはセールス(販売担当)になった。アルバイトが初めてだった私に、先輩方は優しく教えてくださった。また、常連のお客様は、慣れない私の接客を温かく見守ってくださった。しばらくすると名前で呼んでくださり、世間話ができるまでになった。
 働き始めて2年が過ぎた頃には、ベーカー(製造担当)との二刀流になった。授業と就職活動にアルバイト、忙しさで精神的につらい時には、そのことに気づいた主婦の先輩や同年代の仲間が、いつも明るく励ましてくれた。
 「アルバイトの仲間というものは、きっと上辺だけの関係に過ぎないのだろう」という私の予想は、良い意味で覆された。ご飯に出かけたり、飲み会をしたり、花火をしたり。ドライブに連れて行ってもらったりもした。
 退職の時には、たくさんのメッセージが書かれた色紙をもらった。私のことをあまり知らないはずの後輩も一生懸命書いてくれたようだった。ミスドの仲間のおかげで、静かに始まった私の東京生活も、もう一人じゃないと思えるようになった。卒業して5年が過ぎた今も、会える仲間がいる。
 当時の私にとってミスドは、家や大学とは別の「第3のホーム」となっていた。社会人になった今でも、時々ミスドを訪れるとほっとする。温かいコーヒーとおいしそうなドーナツを前にすると、当時の記憶が蘇るのだ。ミスドがくれた数々の出会いに感謝しながら、これからも私は東京で強く生きていきたい。

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