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ひとめぼれ

ひとめぼれしました。

古ぼけたガラスを隔ててひっそり佇むあなた。
なんだか分からないけどもう、たまらなく愛おしい。

とても味わい深い木彫りの人形。ええと…狸さまですよね。

先日は狐さまに夢中になったりしてて、次は狸かよ!気が多いんじゃないのと呆れられても仕様がない。

意外と鼻筋がスッと高くていらっしゃる。お帽子がしっかりかぶれてなくて少し浮いているのも、憎めない。

魅惑的な垂れ目でぼんやりと、何を見、何を考えているのだろう。

ああ、ほしい!!

通いつめるうち我慢できなくなり、思い切ってお店の中に入って聞いてみた。いかにも硬派な経本の専門店だけど、出てきたのは髪を染めた若い女の人。

「あの、ショーウィンドウに飾られた狸の置物が気になって。。」

おずおずと訊ねると、あれは売り物じゃないんですとやんわり断られた。「どういう謂れの物なのでしょう。。作者とか。。」と食い下がるも、「先代の物なのでちょっと何も分からないです〜」と、あえなく撃沈。何も分からずじまいに終わった。

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お地蔵様や仏像でもなく、拝みたくなるほど好きでたまらない置物というのはそうそう出会えるものじゃない。そこまで人を魅了する作品を生み出した作者も尊敬するし、あらためて彫刻の素晴らしさを知ることとなった。

床の間に飾ってしみじみと眺めつつ、ちびちび日本酒を呑んだり。傍に置いて語りかけながらお月見したり、したいなぁ。

命を吹き込まれた彫刻は、道具のように役に立つことはないかもしれないけど、崇拝の対象になったり、大切に愛でられる可能性を秘めている。

すごいぞ、木彫り職人。

ありがたく使わせていただきます。