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熱海で過ごす最終夜。(熱海旅行に 22)

電車に乗ると、暖かい車内の空気が睡魔を誘い、抗うことなく眠りに落ちた。
うたた寝しては眼を覚まし、を何度も繰り返しているともう熱海駅の近くまで来ていた。日が暮れかけている。周りには制服姿の男の子や女の子がたくさんいた。
眠気の晴れない頭でぼんやりと、私達は旅行者でだから私達にとって伊豆や熱海は非日常だけど、でもここはディズニーランドじゃないから、ここで毎日この電車で通学したり、塾へ通ったり生活して、ここで生まれ育ってゆく人が当たり前にいるのだという日常の温度がじわじわと身体に沁みわたってくるのを感じた。

熱海駅に着いた。学生たちが降りてゆき、私達も降りた。人は改札の方へ流れていく。ぼんやりとした頭が、ホームの冷たい空気で冷やされてゆく。

10分後が、駅からアカオへのシャトルバスの出発時間だった。少し待った後、出発時間より早めにバスが来て乗り込んだ。知らない町の夜で、このすっかり見慣れたこの車内の空間にほっとする。
バスはほとんど満員だった。
最後に、派手なスーツを着た50代ぐらいの男と、中東系の異国の女二人連れが乗り込んできた。男性は運転手と2,3何事か言葉を交わし、一番前の席に座った。
バスが発車した。

漏れ聞こえた話、男は女の話と金の話ばかりしていた。容貌も会話もあまりにもバブル的すぎて、なんだかフィクションにさえ思えてきた。
片言で喋る、男の隣に座る異国の女とは結婚しているというわけでも、恋人同士だというわけでもなさそうだった。踊り子なんだそうだ。
私的な関係というよりもどちらかというと雇用主と労働者、という印象を持った。

ゲスな会話が耳を通り過ぎて行く。バスに乗っていた十数分、唯一覚えているのはこのへんでおいしい飯屋はどこか、と男が運転手に聞いた時に
「駅前の、魚の定食屋さんが美味しくて人気ですよ」
と運転手が男に答えた言葉だけだった。

その謎の男女二人連れは、アカオで降りた。(新館のロイヤルウィングじゃなくてアカオで降りるのも『らしすぎる』と思った。)

ほどなくして、私達は再びロイヤルウィングに帰り着いた。
夕飯の前にお風呂へ入り、万全の体制で2日目、最終夜の夕食会場へと向かった。

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