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熱海旅行の終わりに。(熱海旅行へ 最終回)

熱海城内のファミリー向けなゲーセンで思いのほか楽しんでしまった後、外に出てみると相変わらず雨がひどかった。
徒歩でロイヤルウィングまで戻るのは諦めて、タクシーを拾うことにした。

雨の日の車の、シェルター感。乗るだけでほっとする。
駅に着き、昼食を取ることにした。
昼食は決まっていた。昨日の、ホテル行きのバスの中で運転手が怪しい80年代風の男におすすめだと語っていた「みやま」だ。

入口で少し待った後、二階の座敷の席に通された。昼だというのに杉くんも私もビールを飲んだ。修学旅行がそんなに楽しかった記憶はないのに「大人の修学旅行は最高!」って思ってしまうのはなんでなんだろう。

杉くんは奮発して金目鯛の煮つけを、私は刺身定食を食べた。美味しかった。観光客向けに留まらない、「また来たい」と思わせる、味と雰囲気。

しかしこのお店も含めて、熱海の空気は本当になんなんだろう。虚構のような、圧倒的な非日常のような気もするし、平凡な気もするし、穏やかな気もするし、絶望な気もするし、この「この雰囲気が永遠に続くだろう」だろうという予感を抱かせる。
世界が滅びた後も熱海だけは朽ち果てることもなく、すべてがこのままで続くのではないかという予感。


お店を出ても、やっぱり天気は回復しない。屋外で遊ぶことは諦めざるを得ないどしゃぶりだ。バスに乗って美術館へ行った。見終わってみると正直、展示の内容よりも一階から入口に辿り着くまでの長い長いエスカレーターの方がずっと印象に残っていた。
でも生活の中に美しいものがあるっていいなと思った。
展示の一つにあった、和食器のお皿のレプリカのおちょこがあった。いつも100均や300円ショップで食器を買うことがほとんどの私にはかなり高級なものだったけれど、「生活の中に美しいものがあるっていいな」という、その時の私の気持ちを嘘にしたくなくて、とはいえ散々迷った末にレジにそれを持って行った。

出口のところにちょっとしたカフェスペースがあって、そこで杉くんとお茶をした。

台風で足がなくなるのをおそれて早めに熱海駅に戻った。
私達が乗る予定の新幹線までまだ2時間ぐらい時間があったから、商店街をぶらぶらしたり、駅ビルの中を見てまわったりした。

商店街ではあんみつを食べた。
あんみつそのものの味がそんなに特別好きかというとそうではない気がするのに、あんみつにはいつもときめきを感じる。大正時代に女学生をやっていた誰かの記憶が私の遺伝子に刻まれているのか?
自分たちへのおみやげに、駅ビルでちょっとしたひとだかりができていた、さつまあげ?みたいなものを売っているお店で5個セットのものを買った。杉くんの分と、私の分。

ようやく乗れた帰りの新幹線では、疲れにまどろんで眠りこけていた。

東京にようやく帰り着いたらもう外は真っ暗で、おなかはぺこぺこだった。新宿の駅で食べたC&Cでカレーがおいしくて、杉くんがおごってくれて。そのカレーのおいしさが、この旅最後の思い出。

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