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それは、物語の一部でしかない。-または自律とモチベーションの話-


今年から弊社トライバルメディアハウスでは、価値体現の基準がアップデートされ、JUST(自律、動く、成果にこだわる、楽しむ)という標語が社内で大々的にフィーチャーされている。

全社合宿も「自律」がテーマになっていた。

合宿中に「自律的に成長しようとするならフィードバックも自分から取りに行きましょう(意訳)」という呼び掛けもあったので、早速休憩時間に社長にフィードバックをもらいにいったら「僕はもう自律的に動けてるのでこんな合宿いらないっすわー、っていう顔をしている(意訳)」と言われたので、なるほどフィードバックというのは気付きをうながされるものだと思いながら戻ってきた次第。

さて今回は、そんな「自律」と「モチベーション」のお話。
課題図書は以下の3冊だ。

タイトルを見てお気付きかと思うが、これらはいわば「部下に自律的に動いてもらう」ための、マネジャー向けの書籍たちである。


「部下を自律的に動かしたい!」という矛盾?

「従業員に『自律』的に自社のために考え、行動してほしい」と望む経営者、マネジャーは多いことと思う。

ところがこれは、一歩間違えるとなかなかダークサイドに陥りがちな考え方でもある。
「もっと自律的に自分の頭で考えろ!」と上司に怒鳴られる光景を想像していただければ、私の言わんとすることはおわかりいただけるかと思う。

企業がいかに従業員に「自律」してほしいと望んでも、その希望を権威・権力・同調圧力その他、外的な力をもって形にしようとした瞬間、それによるアウトプットは他律的なものにならざるを得ないのだ。


なぜ今、自律的な従業員が求められているのか

一応、そもそもなぜ自律的に働く従業員が求められているのかという基本的な前提をおさらいすると、それは社会の変化に対応するためである。

とても良く聞かれる言葉たちだが、あらためて今回の課題図書から引用しておこう。

現在のビジネスでは、顧客の個別性に応えるマーケットインの観点が不可欠になる。そうすると、顧客接点が今までにも増して重要になってくる。
顧客接点にいるのは、経営幹部や管理職ではなく、若手社員や現場などの従業員である。
もし、彼らの自律性が乏しく、言われたことしかしないのでは、高度化した顧客の要望にはとても応えられないし、環境の変化を察知することもできない。変化に気づいても情報を伝えないかもしれない。
:【「自律」と「モチベーション」の教科書】より

社会の変化は消費者の変化を促し、消費者の変化は産業構造の変化をもたらし、産業構造の変化はそれに属する企業組織に変化を迫る。


自律的な働き方を、労働者自身は求めているのか

企業の側が自律型人材を求めている理由は明らかになった。

一方で私たち、労働者と呼ばれる側は果たして「自律的な働き方」をしたいと考えているのだろうか。

定量的なデータを見つけられなかったが、例えばGoogleで「自律型人材」を検索したとする。

リンク先に目を通す限り、「自律型人材」は育成されるものであって、自らなるものだとはあまり思われていないようだ。

また、いくつか目に入った「自律型人材になろう!」系の検索結果も、なぜ自律型人材になる必要があるかと言えば「それが求められているから」とのことである。
人が「要求されたので、仕方なく」自律型人材になろうとする時それは自律的なのか、他律的なのか……

なんと言ったら良いものだろうか、ここまで書いてきたことを振り返っても全くワクワクしないしモチベートもされない。自律型人材の話なのに「やらされ感」が半端ない。

ここが、「自律」と「モチベーション」の話をする時の出発点ではないか。

今回3冊の書籍(いずれも良書だった!)が課題に指定され、そこにおいてメンバーをモチベートし自律を促すための様々な研究成果や事例が取り上げられている。

そこに書かれている自律とモチベーションを組織にもたらすために必要なことの大元は、シンプルに言うと

「メンバーの人間としての価値を尊重すること」であるように思えた。

この100年ほどで、企業が労働者に対して「差し出すこと」を望む労働の中身は、決まった時間サボらず真面目に単純労働をすることから、自身の価値観・思考・行動を自主・自律的に企業のために使うことへと変わった。

労働市場もマーケットの一種である以上、取り引き材料の片方が重くなるなら、秤の逆側の目方も釣り合わせなければならない。

そして「自律的に働く」ということは、多分お金で買えるほど安くないのだ。

だから、今企業に(そしてマネジャーに)求められているのは、一人ひとりのメンバーの様々な欲求を一緒に実現すること、企業とメンバーが共に手を携えて実現することだ。

それは妥協することではない。

同じ目的地を向いて、同じ速度で走るための一致点を常に探し続けることだと思っている。

あなたはこのように尋ねるかもしれない「それがどうしたと言うのです。我々がやっているのはビジネスなのです。社員が働く目的は、ビジネス・ニーズに応えることではないのですか」と。いずれの疑問にも、答えは同じ「まったくそのとおり」である。ただし、それは、物語の一部でしかない。
:【新版 動機づける力】より

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