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再び、持続的競争優位について

そんなわけで、次回はアートシンキングとイノベーションについての記事を書きたい。

とか前回の最後に書いたのだが、見事に1文字たりとも書けないままにTribal Professional Academyの課題について書く時期がやってきてしまった。

なので一旦アートシンキングは忘れて表題の通り、持続的な競争優位について再び考えてみたい。

今回、課題図書になった2冊が、いつ以来か思い出せないほどに素晴らしい良書だった。

そしてこの2冊はとてもとても似たことが書いてある。


「持続的競争優位」は実在しないと信じていた時期が僕にもありました

さて、私は前々回の記事で以下のように書いた。

私はこの「持続的競争優位は実在しない」という認識こそが21世紀の今、経営戦略について考える出発点となっているように思う。

ドヤ顔で上記のようなことを書いていたのだが、今回読んだ本たちに突っ込まれた。

~競争優位を長期的に持続するのはますます困難になるはずです。
しかし、現実を見ると、強い企業はかなりの長期に渡って強い。四方八方から戦略を注視され、模倣の脅威にさらされながらも、五年、十年、十五年と競争優位を持続しています。これはなぜでしょうか。なぜ企業間の差異が長期にわたって維持されるのでしょうか。:(ストーリーとしての競争戦略)

2冊を続けて読むと共通の事例も出てくるのだが、「ストーリーとしての競争戦略」だけに絞っても、サウスウェスト航空、トヨタ、マブチモーター、DELL、Amazon、アスクル、ガリバーインターナショナル、etc…

ぐぬぬ…確かに。

もちろん、それらの企業が全て現時点でもその競争優位を維持し続けているわけではないし、21世紀初頭にはその繁栄が終わってしまったかに見える企業も含まれていたりはするが、それでも今回の読書で私が思っていたよりも多くの企業が、私が思ってもいなかった形で、その競争優位を長期間に渡って維持していたことを思い知らされた。

なぜ、そのようなことが可能だったのか?


なぜ競争優位は持続しないのか

そもそも私はなぜ、前々回の記事で「持続的競争優位は実在しない」と考えたのだろうか?

・外部環境の変化速度がますます上がっており、企業の築き上げた成功モデルの賞味期限が短くなっているから

・資本主義の成熟/グローバル化により競合/新規参入企業による、成長市場への参入、ベストプラクティスのキャッチアップ、勝ちパターンやヒット商品の模倣、といったことの速度も爆上がりしているから

昔は1回ヒットを出せばしばらくの間、先行者利益を稼げたし、そのヒットを別の市場(違う国とか、違う製品とか)に横展開させることでホームランに育てることも今に比べれば容易だった。

しかし今はどこかしらの市場でヒットを出せば、たちまち「この市場は成長市場(かも)」くらいの段階で世界中の企業が殺到してくるし、「このモデルはうちの業界でも使えそう」とか言って自社で成功モデルを横展開する前にあらゆる業界でパクられ、ブラッシュアップされ、陳腐化されていく。

どう考えても「持続的競争優位」を築くことの難易度は上がり続けており、かつその流れは不可逆のように思える。

では実際に今、「持続的競争優位」を実現しているように見える企業が何故かくも多く存在しているのだろうか。
その答えが今回の2冊にある。


そもそも競争優位ってなんだっけ?

競争優位について語るために必要な前提がある。今回の2冊「ストーリーとしての競争戦略」と「マイケル・ポーターの競争戦略」はいずれもこの前提に則っている。

競争の主眼はライバルを負かすことにあるのではない。
肝心なのは利益を上げることだ。:(マイケル・ポーターの競争戦略)

そう。競争戦略の戦略目的は「利益」である。
そしてこの「利益」に影響を与える要因をフレームワーク化したのが、かの有名な「5つの競争要因」(ファイブフォース)だ。

偉大なるポーター教授が今を去ること40年前に発表されたこのフレームワークは今もなお健在である。

これらの五つの競争要因ー既存の競合企業同士の競争、書いて(業界にとっての顧客)の交渉力、サプライヤーの交渉力、代替品の脅威、新規参入者の脅威ーが業界の構造を決定する。:(マイケル・ポーターの競争戦略)

ファイブフォースによって、ある企業が競争優位性を持っているかどうかをその業界の生み出す平均的な利益との乖離に注目して確かめることができるようになった。
突き詰めれば乖離の理由は2つだけ。
持続的な高価格または低コスト(またはその両方!)のどれかでしかない。

そしてその乖離の原因をさらに分解して解明させるのが、こちらもおなじみ「バリューチェーン」。

第一に、一つひとうの活動を、単なるコストとしてではなく、最終製品・サービスに何らかの価値を加えるべき段階としてとらえるようになる。
:(マイケル・ポーターの競争戦略)
~二つめの大きな影響は、自社の組織と活動の向こうに目を向け、自社が他の企業を含むより大きなバリューシステムの一部だという認識をもつようになることだ。:(マイケル・ポーターの競争戦略)

そしてバリューチェーンは活動の連鎖である。
つまり、バリューチェーンを用いた分析は「どの活動がどのような価値を生み出しているか」を明らかにする。

これらを踏まえた「競争優位」の定義が以下である。

競争優位とは、企業が実行する活動の違いから生じる、相対的価格または相対的コストの違いをいう。:(マイケル・ポーターの競争戦略)


Activity System(活動システム)と戦略ストーリー

前提の話が終わって、ここが「持続的競争優位」の肝になるところだ。
何十年かに渡って業界における競争優位を保ち続けている企業たちは他の企業と何が違うのだろうか。

ポーター教授は持続的競争優位の条件として、以下を上げている。

第一の条件:特徴ある価値提案
第二の条件:特別に調整されたバリューチェーン
第三の条件:トレードオフ
第四の条件:適合性
第五の条件:継続性

第一と第二の条件ー独自の価値提案と特別に調整されたバリューチェーンーは、戦略の核にあたる。第三の条件のトレードオフは、戦略を経済的に結びつけるかすがいとして、価格とコストにおける優位性を実現し、持続させる。第四の条件の適合性は増幅装置として、競争優位の真髄であるコストと価格の優位性を強化し、ライバル企業に戦略を模倣されにくくする。そして第五の条件である継続性は、戦略の実現要因だ。
:(マイケル・ポーターの競争戦略)

第一と第二の条件はつまり、「独自の価値提案とそれを形にするための独自の活動」という「競争優位」の部分の条件である。

そして注目すべき「持続的」を実現するための条件が、第三のトレードオフ、第四の適合性だ。

※ちなみに「トレードオフ」を「ストーリーとしての競争戦略」では「クリティカル・コア」と名付けられた概念に内包させている。

「競合他社からは一見して非合理で、模倣をするべきではないことに見える」要素であり、それを模倣することが競合他社自身の特別に調整されたバリューチェーンや、諸活動の関連を強化する適合性を破壊してしまうがゆえに模倣し難い要素である。

この「トレードオフ」(クリティカル・コア)を中心にバリューチェーン内の活動が相互に連携を強めながら外部環境の変化に適応し続けていくことで「持続的競争優位」が構築される。

具体的な事例についてはぜひこの2冊のどちらかでも良いので読んで確かめてほしい。事業を立ち上げたくなること請け合いである。


結局、「持続的な競争優位」は実在するのか!?

そんなわけで、どうやら「持続的競争優位」は実在したようだ。

では、前々回に学んだことは間違いだったのだろうか。
否。

そもそもリタ・マグレイスの「一時的競争優位」は事業ポートフォリオの存在を前提とする「全社戦略」だ。

今回学んだ「事業戦略」とはレイヤーが異なる。

「事業」における時間軸においては「持続的」と言える期間であっても、ゴーイング・コンサーンを旨とする企業の時間軸でも同様であるとは言い難いのではないだろうか。

事業戦略における「持続的競争優位」は構築しうる。
しかし、事業戦略において美しい戦略が描ければ描けるほどに、その戦略のためにチューニングされ、適合性を増した競争優位の終わりに、企業が受ける苦しみは深まるように思われてならない。

事業の持続的競争優位と企業のゴーイング・コンサーンをつなぐ答えは果たしてるあるのか。

経営戦略を巡る(私の)謎は深まるばかりである…



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