〜結華は俺が守る〜
おはようオタク Good Morning Nerd!(エコー)
ところでオタク、
ここに3つの選択肢があるじゃろ?どの選択肢を選ぶも君の自由。だからこそ自分で『答え』を選ぶのだ。ティンと来た選択肢を『自分自身』で選ぶ事が大切なのだ。人生の教科書と名高いイナイレでも「人生チョイスの連続」とBerryz工房が歌っている。ところで、音無小鳥と千川ちひろと七草はづきの歌う「青春バスガイド」はいつ配信されるのだろうか。もうTwitterで5回くらい呟いてるので、そろそろアイマス公式にも忖度して欲しい所である。話が逸れてしまった。閑話休題。
さぁ、選べ!キミ自身の『答え』を!
どうやら俺達は──
親友(ベストフレンド)だったようだな…
そんな素晴らしい性癖を持つ超親友(ブラザー)にオススメのアイドルが一人いる。その名は──
三 峰 結 華
彼女はシャニマスでもP間で最も解釈が難しいと言われている特級アイドルの一人。勿論、三峰のpSSRもpSRもTrue含め全てのコミュを観た自分も彼女を完全に理解しているとは言えない。否、決して完全に理解する事など出来やしない。
【チエルアルコは流星の】八宮めぐる
コミュ第2話『同調の水、されど』より
そう、人を完全に理解する事は出来ない。俺の担当は本当に思慮深い事を言うなぁ…かわいいね❤️
これから書き記していく三峰のコミュの解釈も、きっとそういう物だ。完全に理解が出来ないなりに断片的な彼女の本音と思わしき物を組み合わせて出来た不格好な自分の中の勝手な解釈でしかなく、正解には程遠い物かもしれない。それどころか、彼女が言葉に乗せた感情や想いを自分の想像で決め付ける『解釈』という行為自体がチエルアルコめぐるコミュの視点で見れば極めて無粋な物にすら思えてくる。
それでも書かずにはいられなかった。それほどにpSSR【NOT≠EQUAL】三峰結華コミュは衝撃的な物だったのだ。コミュの内容を簡単に画像一枚で説明すると、
こんな感じである。
「三峰はPラブじゃねぇんだよな〜!何でそれが分かんねぇかな〜!!国語エアプか????」とコミケ帰りの酒の席で延々と叫んでいた友人もきっと報われただろう。何せ、公式が率先してその幻想をブチ壊してくれたのだから。上条さんもビックリなイマジンブレイカーっぷりである。
幸い自分も三峰はPラブでは無いと解釈していたので特にダメージを受ける事はなかった。コレは重要な事なのでハム太郎OPのサビレベルに何度でも言う事なのだが、コミュを読めば「Pは自分の踏み込んで欲しくない所には絶対に踏み込む事はない、その一線を越える事はない」という強い信頼から境界線を引いた上で三峰はイチャついて来たり本音を語ったりするという事はしっかりと読み取れる。今回のコミュは、読み手を信頼して書かれたものなのだと『心』で理解出来た。
とはいえ正直、「こんなコミュをサービス開始一年半で出したのはすごいな…」と思う。まだサービスが始まってからそこまで時間が経ってない内にアイドルの解釈を明確に限定するような内容の話を出すのはとても危険な事に思えたから。
まぁコレは自分がモバマスという長い時間をかけてアイドルの方向性やら成長やら見守るコンテンツに身を置いているからという所もあるかもしれないが。
だが逆に言えば、初期からアイドルの方向性や性格が明確に決まっていて一貫してるからこそ出来る事だとも言える。この一貫性はシャニマスも強く意識している所らしく、そこかしこにアイドルの一貫した思想や哲学を感じる事が出来る。例えばめぐるは先程紹介したように「他人を完全に理解する事は出来ない」という思想を一貫して持っている事が複数のコミュから窺える。
イベント『Catch The Shiny Tale』
第6話『あのね、あるの、悩み事』より
めぐるが弱冠16歳にしてこの高尚な思想に辿り着いた理由は未だ明確に語られていない。過去に誰かを理解しようとしても完全な理解には至れなかった、そんな経験から来る言葉のように思える。チエルアルコめぐるコミュからは暗喩的表現ではあるものの、自分が金髪碧眼のハーフであり、他の子とは違っている事によって周りの子たちと仲良くしたくても上手く馴染めなかった事(考えすぎか?)が見て取れる。
【チエルアルコは流星の】八宮めぐる
『異邦の青、浮遊する』より
何か自分と重なる部分があったのだろうか?これもコミュの中では明確には語られていない。ただ悲しそうに「…やっぱりそう思う?」と返すだけだ。自分とは色の違う、形が違う…それだけで皆のように輪に入れない。理解されない。他人との違いがこのような無理解と断絶を生んだ。しかし、理解できないという事は、それを理解しようとその心に寄り添い続ける事も出来るのではないだろうか?断絶ではなく、繋がりで。違っているのが当たり前な人間に必要なのは、その違いに対する拒絶などではなく、理解という名の歩み寄りなのだ。彼女は幼ながらにそれに気付き、彼らの心を理解しようとした。それが彼女なりの皆の輪に入るための第一歩だったのだろう。だが完全には彼らの心、気持ちを理解できなかった──。そして彼女は気付く。分かり合えないという事は、何も悲しむべき事ではない。互いに分かり合えない『何か』がある事を知った上で、そのもどかしさを含めた上で、それでも相手のことを大切にする事ができる『奇跡』があるという事を。その経験が彼女に「他人の心を完全に理解する事は出来ないが、それに歩み寄り、寄り添う事は出来る」という思想を持つに至らせた…。
あっコレ私の妄想の話ね!
何にせよ聡明なめぐるはかわいいね❤️
このように、強い一貫性はアイドルの内面を強く際立たせる。そこがシャニマスの大きな魅力の一つとも言えるだろう。
さて、そろそろ三峰の話をしていきたいと思う。ただ、この話をするに当たって【NOT≠EQUAL】以外のコミュやTrue Endにも触れていくつもりなので、まだTrueを見てないなぁ、自力で見たいなぁという方はそっとブラウザを閉じてシャニマス を開こうね。それでは、今回のコミュを一つひとつ見直して行こう。
これが間違いなんだとしたら
物語は、三峰のモノローグから始まる。
三峰の消え入るような声と共に、砂嵐の背景が静かに黒く染まっていく。何だコレは?今まで三峰のコミュにこんな導入のコミュなんて無かった。況してや、彼女が自身の心中、つまり「本音」のような物を一つ目のコミュの、更に冒頭から吐露するなんて事はまず有り得ないのだ。何かがおかしい。結華の事を誰よりもずっと見守ってきた俺だからこそ分かる。分かってしまう。なぁ、どうしたんだ結華…?一体何があったんだ…?
結華の異変を察し、覗き込むようにスクリーンを眺める。このコミュは一瞬たりとも目を離してはいけない、そんな「予感」──いや、「確信」があった。次は一体彼女からどんな言葉が出てくるのだろうか?唾を飲み、画面をタッチした───。
その瞬間。歪む視界。激しい頭痛。耐えられずにその場に倒れ込む。薄れゆく意識の中、スマホのスクリーンの光が自分を誘うかのように静かに揺らめいていた。
目を開けると、どこかで見たような光景。半ドーナツ状に張り巡らされたガラス張りに都会の夜の情景が張り付いていた。そう、俺はいつの間にか夜の東京スカイツリーの展望台に立っていたのだ。未だに頭痛を引きずっており困惑する余裕すらも無かったせいか、この異常事態にも一周回って割と冷静に状況を把握していたのを覚えている。視界の端から端まで張り巡らされた窓の外では、星も満足に見れない都会の汚れた夜空を人々の営みが織りなす無数の光が星のように照らしていた。普段道路の脇道を歩いている時には特に気にも留めない車のヘッドライトも、空から見れば無秩序な星々を大きく分断する天の川のように、とても美しい物に見える。時々目の端を横切る東武線の列車から漏れる淡い光が建築物の陰から出たり隠れたりする様は、刹那に輝く流星のようだ。いつの間にか頭痛の事すらも忘れ、その景色にただ見惚れていた。嗚呼、本当に───
『『本当に──、綺麗』』
重なる聴き覚えのある声。反射的にその声のする方向に振り向くとそこには──
三峰結華が居た。
有り得ない。一体何が起こってるんだ?場も弁えず叫びそうになるのを必死に堪える。一向に落ち着かぬ心を落ち着かせるように深呼吸をする。シチュエーションが幸いしてか、結華には夜景の美しさに溜息を吐いただけにしか見えていないようだった。
そしてゆっくりと窓に映る自分を見る。清潔感のある整った顔立ち。さっきまで着ていたハズのもはや部屋着と化した一番くじB賞ナターリアTシャツとウエストが絶望的なまでに合わないダルダルスウェット(親父のお下がり)はいつの間にか格調高くシックなARMANIのビジネススーツに変わっていた。ウィンザーノットで確りと締められたネクタイからは誠実そうな印象を受ける。左腕には実用性を重視したROLEXのデイトナ…自分とは縁の無い物だけを組み合わせたロイヤル・ストレート・フラッシュがそこにはあった。
──全く状況が掴めない。大分引いていたハズの頭痛が再び酷くなるのを感じ、足下がグラついた拍子にポケットから何かが足下にヒラヒラと落ちる──前に、何とかキャッチする事が出来た。コレは…名刺?
株式会社 283プロダクション
プロデューサー 〇〇 〇〇
Tel ×××-△△△-□□□□
Mail shinycolors@283.com
俺「もしかして…」
シャニP「俺たち…」
『『入れ替わってる〜!?!?!?』』
(BGM『前前前世』─RADWIMPS)
心が身体を追い越してくるにも程がある。確かに幾度と無くシャニマスPの人間出来ている言動を見ては「カウイフモノニ ワタシハナリタイ(スクショ4枚貼り)」とTwitterに載せていたが、アレはTwitterにしか居場所の無い妖怪人間が早く人間になりた〜いって言ってるくらいの意味合いでしかなかったので実際になってしまうと困惑する他に無い。
そんな事よりどうすれば元に戻れ───
結華「──Pたん?」
結華の声でハッと我に帰る。長考に耽っていてずっと無言になっていた。今、自分の事を不審に思われるのはマズい。結華は何かと察しが良い。それは過去のコミュから窺い知る事が出来る。
【それなら目をつぶりましょう】三峰結華
『私だけは見逃してあげるから』より
このままでは何か取り返しのつかないボロを出してしまうかもしれない。俺がシャニPでない事に気付かれたら今後のプロデュースにも支障が生じるであろう事は想像に難くない。
何でも良い。早く何か言わなければ。この場を乗り切らなければ。だが、何と言うのが正解なんだ?脳内のRADWIMPSが俺に囁いている。
『遥か昔から知る その声に』
『生まれて初めて 何を言えばいい?』
RADWIMPSにも分からないのでは仕方がない。
もうどうなってもいい。この瞬間に賭ける、俺の21年の人生の全てを──感謝するぜ…結華と出会えた、これまでの全てに!飛ばすぜ、俺の最高にイカした会話の切り出しを!
言葉を失う結華。そりゃそうだ。急にこんなフワッフワした言葉を言われても困惑するしかないだろう。だが言ってしまったものは仕方がない。無理矢理にでも言葉を紡いでいかなければ…。
…我ながら結構上手く誤魔化せたのでは?少なくとも急拵えの返事にしては上出来だろう。会話としても違和感が無い。自分、カンペキだからな…。次は個握(※個別握手会)だな、この感謝を我が担当アイドル・我那覇響ちゃんに伝えなければ…というかこの世界でミリシタが存在するのかな等と思っていたら、何やら結華の様子がおかしい。困惑というよりかは、さっきまでの俺のように放心しているように見える。
──その後も何とか会話を繋げたが、どこか結華に元気が無かった。いつもの結華なら一瞬で気付くハズの作中のPとはかけ離れた、自分のたどたどしい会話に違和感を抱く余裕すらも無かったようだった。
仕事が長引いていたのか、夜も遅くになっていたのでそのまま車で結華の住むアパートまで送る事にしたが、結華の家の場所が全く分からないので、「てぃあーん!家まで案内してくれるってのはどうかなぁ?」という体で結華に案内して貰うという情けない事この上ない形になった。
無事送り届けホッと一息ついたのも束の間、自分の家、というよりPの家が何処にあるのかも全く分からないので途方に暮れかけるも、財布の中にあった保険証に記載されている住所を頼りに何とか辿り着けた。鍵を開け、靴を脱ぎ、ふらつく足取りでリビングのソファにそのまま倒れ込む。ダメだ、酷く疲れている。今日はあまりにも色々な事が有り過ぎた。
このまま気絶しそう、結華との会話もしどろもどろ、まともな精神が繋がらないと何もかにも放り出してGood-Sleep,Baby…しかけたが、どうにも結華の事が気になって眠りに就けなかった。何より最後に見せたあの悲しそうな表情が頭から離れない。
もしや、俺は何か大きな間違いを犯してしまったのでは?それならば、一体どこで間違えた?理解の範疇を超えた事ばかりが起こり、混乱する頭を必死に回し、結華との会話を思い返す。
──そうだ、俺が「いつもの結華じゃないみたいだな」と言ってから結華は様子がおかしかった。
しかし、何故?確かにフワッフワした要領を得ない言葉ではあったが、結華をあそこまで動揺させるような言葉では無かったハズ。純粋に「いつもとは違う」と感じたから、そのまま言葉にしただけだ。他意など無い。もしや、イメチェンした事に対して気を利かせた言葉ひとつも言えない俺に失望してしまったのでは?女心というものは複雑である。それを傷つけてしまったのだとしたら申し訳ない事この上ない。ならば俺はどうするべきか。そんなの、答えなど分かりきっている──。
謝る。🙇♂️コレに尽きる。
こんな風に誰かと会った後に家に帰って横になると「あの時こう言っとけば良かったな…」とか考える一人反省会を開いてしまうクセ何とかならんもんかなとも思うが、もはや日々のルーティンと化してしまった。しかもこの反省会、大体次に活かされる事も無いので本当に意味がない。辛い…。
とにかく、明日結華に顔を合わせたらすぐにその事を謝ろう。コレが今の俺に出せる最適解───
そうだ、咲耶さんの言う通りだ。
結華はそんな単純な子ではない。これまでのコミュでそんな事は幾度と無く見てきたではないか。
思い起こすは結華と過ごしたあの甘美なる日々。
何て事の無い日常を共にして、少しずつ、しかし着実に信頼という名の積み木を不器用な手つきでひとつずつ、ひとつずつ重ねていった。その積み木の形をまた一つずつ、ひとつずつゆっくりと思い出していく。
True Endコミュでの結華との会話が鮮明に脳裏に浮かび上がる。
【それなら目をつぶりましょう】三峰結華
True Endコミュより
『三峰の苦手なこと、「踏み込まれること」だったらどうするつもり?』
『……でもだめだよ、踏み込んじゃやだ』
『三峰が一番苦手なことは、多分──プロデューサーだったら絶対にやらないんだろうなって思うから』
『だってプロデューサー、三峰のことよく見ててくれてるもん ……だから、大丈夫』
これらの言葉から受け取れる情報をまとめると、
・『プロデューサーとアイドルという関係性の上に成り立つ信頼』
・『踏み込まれることを望んでいない』
・『プロデューサーなら絶対にしないこと』
この3つを念頭に置き、最初の結華のモノローグを思い出す。
『──私が私に見えないのなら』
【──私(三峰結華)が私(アイドル三峰結華)に見えないのなら。】
※三峰結華=他人に踏み込まない、踏み込ませない為に『三峰結華』という仮面を付けて、他人との間に境界線を引くための自分。
※アイドル三峰結華=上記の三峰結華としての振る舞いが完璧に出来ている、他人との境界線を適切に保てている状態の自分。
『あなたの隣にいる私は今、どんなふうに見えてるんだろう……?』
【あなたの隣にいる私は、三峰結華ではなく見えているの?】
↓
【もしかして、今の私は他人との境界線を上手く引けていない?】
『──なんて』
『こんなこと、気付かなければよかったのに』
つまり、結華は俺の余計な一言のせいで「アイドルとプロデューサーという関係性」が崩れてしまう事を危惧している?私が私(三峰結華)という仮面を着け「プロデューサーは踏み込んで来ない」という信頼の表れのつもりでやっていた、これまでの数々の振る舞いの累積がいつの間にか俺…いや、プロデューサーにはそう見えていなかった、踏み込ませるキッカケになってしまったと思わせてしまっているのでは…?
その数々の振る舞いで生じるであろう感情。
こんな解釈は絶対にしたくなかった、決して認めたくなかったが、自分ではこの『答え』しか考えられない。それは────
見知らぬ天井を見つめ、深くため息を吐く。幾ら他の解を探そうとも、思い当たる物は悉く自分の出した解を補強するだけの検算にしかならない。『誤解』という名の『解』が、そこにはあった。
『なんか、いつもの結華じゃないみたいだな。』
自分のあの軽率な一言が心底恨めしい。何よりもあの一言が、少なくとも結華にとってのプロデューサーとアイドルという関係性を歪めてしまったと勘違いさせてしまうという事に気付かず、ヘラヘラとその場凌ぎの言葉を並べた、自分自身に腹が立って仕方が無い。結華を適当な言葉で誤解させて、あんな顔をさせてしまった自分自身に。
決めた。
俺は全身全霊を懸けて結華をプロデュースして、この『誤解』を解く。それは誤った解であると、結華に気付かせる。それが俺に出来る唯一の贖罪であり、この世界に召喚された俺の責任であり、使命なのだ。心の中のISSAが俺に語りかける。
(BGM 『Over "Quartzer"』─Shuta Sueyoshi feat.ISSA)
『正解は1つじゃない 闇夜に耳澄ませ』
そう、Now, Over "Producer"
俺は、シャニマスのプロデューサーを超える。
最高最善のプロデューサーになる。
漸く見慣れてきたこの天井に阻まれて見えない、だが確かにこの天井の先で強く輝きを放っている筈の星に手を伸ばし、強くそう誓った。
動点Pとの距離を求めよ
結華を正解へ導くと星に誓った後、伸ばした手はゆっくりと重力に引かれて力なく落ちていくと共に、自分の意識もそれにつられるように落ちていった。
眠るというよりかは、気を失うと言った方が正確かもしれない。
意識が真っ白なシーツにじわじわと溶け込んでいくのを取り残された身体で惜しみながら、夢現。いつもなら脈絡も結末も曖昧で、背景や人物、景色すらも定まらない支離滅裂な夢の展開に身を任せる所だが、その日だけは違った。自分の姿すらも確認出来ず、何も聞こえず、何も触れられない。五感全てが喪われたのかと錯覚する程に、一筋の光すらも差し込まない。まさに暗晦と呼ぶに相応しい場所に、聴き慣れた声が淡々と響く。
「…結華!?」
こんなにも近くで声が聴こえるのに、その姿は一切見えない。触れられもしない。
「結華!!どこに居るんだ!?」
俺の問いに結華が答える事はなく、その叫びはただ虚しく闇へと吸い込まれていく。
俺の声を気にかける事もなく続く結華の声。
その瞬間に理解した。俺の言葉は届かない。これは夢ではない。結華の内的世界…いわゆる、精神世界と呼ばれる物だと。それならば、全てに説明がつく。
何故この空間で、結華の姿が見えないのか。
何故この空間で、結華に触れられないのか。
何故この空間で、結華に俺の声が届かないのか。
その答えはただ1つ………
俺を、プロデューサーを『拒絶』しているから。
それでも。それでも俺は手を伸ばさずにはいられない。結華は今、確かに『勘違いはしたくない』と言ったのだ。それは『誤解』が解けるかもしれないという希望に他ならない。もしかしたら、この手が、この声が届くかもしれない。
『手が届くのに手を伸ばさなかったら、死ぬほど
後悔する。』
『仮面ライダーOOO』 第4話 火野映司のセリフより抜粋
映司もあの時、こんな気持ちだったのかも
しれない。
何故この手を伸ばすのか。
それは、俺が結華のプロデューサーだからだ…!
「結華!!!」
飛び起きた勢いで伸ばした手は虚空を舞い、そのまま身体ごとベッドから落ちた。鈍い音に反して感じる鋭い痛みが、これは現実だと如実に物語っていた。ていうかマジで死ぬほど痛い。助けて、なーちゃん…。
5分ほど痛みにアンアン悶えてから、数秒間の静止。昨夜から頭の中で渋滞する情報を整理する。
まず、元の世界への戻り方。これは何の根拠も無い勘でしか無いのだが、結華の誤解を解く事なのではないだろうか?大体、こんな精神世界を見せてくる時点で世界が俺に「結華の誤解を解け」と言ってるような物だ。オタクなのでそういう話の理解は早い。
そして目下一番の問題、結華の誤解の解き方だ。
『なんか、結華じゃないみたいだな』
この言葉が俺の最大の過ちにして全ての発端。
そしてその言葉を受けての結華の反応。
『私が私に見えないのなら あなたの隣にいる私はどんなふうに見えているんだろう…?』
つまり、結華自身は三峰結華として他人との境界線を上手く引けていない(と、結華は思い込み、誤解している)。
この誤解を解くには、「アイドルとプロデューサー」という境界線を、三峰ではなく、俺自身が引かなくてはならない。
何故ならば前述した通り、結華は「他人に踏み込ませない為の境界線を自分は上手く引けなくなっている」と思い込んでいるから。以前のように境界線を引こうにも、俺の言葉を受けて動揺し、上手い境界線の引き方を忘れてしまっている。だからこそ、俺からその境界線を提示する事により、俺…いや、プロデューサーは境界線を踏み越えていないし、「アイドルとプロデューサー」という関係性は今も保たれている、踏み込ませてもいないし、何も変わってなどいないと結華に気付かせる事で、この『誤解』に『正解』という名の終止符が打たれるのだ。
…えっ、我ながら頭が冴えに冴えてない?
もうコレ勝利の法則は決まったでしょ…天ッ才…と思ったのも束の間。
…えっ?メッチャ難しくない、この問題…?
途中式が分かっても答えの出し方が一切分かんないじゃん…。「踏み越えてませんよ」ってわざわざ言葉に出すのも不自然かつ逆効果だし、かと言って言葉以外でそれを伝えるというのも無理難題に等しい。
負ける気しかしねぇ…。どうすりゃいいんだ…。
嗚呼。もどかしい。
『正解』が分かってるのに、『正解』が回答欄にどうしても合ってくれない。
思考の迷路で行き止まりにぶつかっては身体を捩らせ、分かれ道に当たってはその分岐点で思惟して停止するのを繰り返す。何だろう…側から見たら死んだと思ったら実は生きてた虫みたいな動きをしている。虫だ。何も出来ねえ虫ケラだ俺は。異世界転生しようが、結局中身が俺じゃ意味が無いんだよなぁ…。
永遠に答えの出ない思慮に耽っていたら、時計の針は朝の8時ちょっと前を指していた。うわ、もうスッキリが始まる時間じゃ〜…
気付く。
ちょっと待て。
朝の8時。プロデューサーの仕事のタイムスケジュールが分からないので断言は出来ないが、一般的な普通の社会人はもう出勤しているべき時間帯なのでは…?
ピロン♪
時計の針が8時を指すと同時に鳴る不穏な通知音。
恐る恐るスマホを手にする。
『9時から◯◯にて結華のドラマの打ち合わせ』
「アアアアアア!?!?!?!?!?」
──────────────────
打ち合わせは何とか無事に終えられ、そのまま事務所へと戻った。死ぬかと思った…。
今日のリマインダーを見る限り、打ち合わせ以降は事務仕事しか残っていないらしい。これなら結華と話す時間の余裕もありそうだ。
とにかく、誤解を解く為の糸口を見つけなくては…。
あの結華と交わしているとは思えない程にぎこちない会話。ダメだ。やはり『三峰結華』というペルソナが剥がれかかっている。
このまま、ぎこちない会話を続けても埒があかない。荒療治だとは分かっているが、少しメスを入れてみる。
どうしたもこうしたも、全て理解しているが。
結華自身から、言葉を聞きたかった。
…やはり、結華の精神世界で見た通りだ。
他人の踏み込みを拒絶し、自分だけでこの問題を抱え込もうとしている。
この光景には見覚えがある。アンティーカ感謝祭コミュでの咲耶さんとそっくりだ。ひょんな事からアンティーカが解散すると勘違いして、アンティーカの皆と離れてしまう事が嫌だという本心をひたすらに隠し、それぞれの行く道を応援しようとしていた、咲耶さんに。
だが一番最初に咲耶さんの様子がおかしいという事に気付いたのは何を隠そう、結華だった。
アンティーカ感謝祭 第6話
『ねぇ、アンティーカ』より
人には悩みを抱え込む事は許さないくせに、自分の悩みは自分の中で抱え込む。まさに結華は、「なんて優しくてずるい人」なのだ。
だがその優しさが、自分を追い込んでしまうのでは意味が無い。そしてこの問題は結華自身だけでは解決が出来ない。他人との境界線を確認するには、どうしたって他人が必要だ。
だからこそ俺が何とかしなければ。
次に言うべき言葉を慎重に探すが、適当な言葉が中々見つからず、焦燥だけが募っていく。
いつまでも続くかに思えたその静寂を破ったのは、結華の一言だった。
時が止まる。呼吸すらも忘れていた。
何を言っているのか。理解できない。
落ち着け。落ち着け。落ち着け。
何も分かっちゃいない。
いや違う、分かっていた。
境界線の引き方が分からなくなったのならば、
更に自分から遠くに大きな境界線を
引くしかない。
それは境界線というより、拒絶。
そして、それは俺の思い描いていた『正解』は、
決して成され得ないという事を意味していた。
これまでに自然と受け入れていたはずの呼び名まで禁じなくてはいけない程に、結華は追い詰められていたのだ。
そして何よりも。
結華に面と向かって拒絶されたという事実が、
深く、何よりも深く、心を抉っていた。
もう俺に打てる手は一切無いのだと気付くのには十分だった。
その後の事は記憶があまり無い。何言か結華と言葉を交わし、そのまま事務仕事に戻ったような気がする。椅子にもたれ掛かった拍子に見えた窓の外では、一筋の光すらも通す事の無い分厚い曇雲が空の全てを覆っていた。
雨の中、(2度目の)正解をくれた
あの日から、雨は止まない。
曇雲のカーテンから漏れた薄明かりが部屋を照らし、窓に張り付いた水滴がレンズになりその先の景色を丸く切り取る。切り取られた景色たちは他の景色たちと混ざり合う事を繰り返しては、自分の重さに耐えられずに下へ、下へと流れ落ちて行き、その軌跡だけが残っていた。
何となくTVを点けると、見慣れないアナウンサーによる毎年の風物詩と呼べる程に聞き慣れた「例年にない異常気象」の解説。
「昨年の9月に上陸した台風19号は…」
ああ、そういえばそんな事もあったなぁ。
断片的に聴こえてくる言葉に、誰に聞かせる訳でもない、誰にも届かない独り言。
蒼白く、薄暗い陰のスクリーンが掛かった、心なしか味気の無いように感じる朝食を口に運ぶ。
…雨は、嫌いじゃなかったのに。
景色は変わらない。
あの日から、雨は止まない。
283プロはアニメ版アイドルマスターやアニメ版SideMと同じように、1人のプロデューサーがアイドル全員のプロデュースを担当する業務態勢を取っている。そのお陰、と言うと語弊があるかもしれないが、結華と顔を合わせる機会もそこまで多くはなく助かった。結華に会っても掛けるべき言葉が見つからないから。ただただ空虚で、ぎこちない会話を交わす事が怖くて怖くて仕方が無かったのだ。
これ以上何か行動を起こしたら、何かを壊してしまうのではないか?
そんな漠然とした恐怖がずっと心に蟠っている。
あの日以来、自分の中にあったはずの『正解』すらも見失っていた。
嗚呼、本当に───────
突如襲う気を失いそうになる程の激しい頭痛と共に脳幹に響く結華の声。
その場に倒れ込みながらも、懸命に意識を落とさない事に集中した。結華の声を、言葉を…聞き逃してなるものか───!その想いだけが張り詰めた意識の糸を保ち続けさせていた。
…俺は何をしているんだ?
目の前の事から逃げている場合じゃないだろ。
こんな所で立ち止まってる場合じゃないだろ。
何が『答え』だ。何が『正解』だ。
理屈なんかどうだっていい。
俺自身の傷心なんかどうだっていい。
結華が苦しんでいるのだ。俺のせいで。
だから俺がそれを何とかしなくちゃならない。
そして、何とか出来るのは俺しかいない。
つまり…………
そう、結華を救えるのはただ一人!俺だ!!!
仮面ライダーゼロワン 第1話
『オレが社長で仮面ライダー』より
俺が新しい時代を感じさせるポーズを取ったその刹那。
「…あんた、何やってんの?」
「エッ!?!?!?」
ふ、冬優子!?!?!?
そういえば今日は冬優子のレッスンが予定に入っていた。目の端に映るホワイトボードにも確りと書いてある。ヤバい。冬優子から見れば俺は唐突に腕組んでキメ始めたイケメンで優しくて非がなくてすいません、ユーモアも身長も持って生まれてすいませんって感じの不審者だ。
「そんな驚かなくてもいいでしょ、こっちが驚くじゃない」
「あ、ああ、すまん…」
ヤバい、ヤバすぎる。(十万石饅頭)
冬優子を前にした時のプロデューサーは、霧子を前にした時のプロデューサーと違ってそこまではっちゃけたりはしない。こんな下らない事でプロデューサーのイメージを損ねたら笑い話にすらならない。考えろ。どうすればこの局面を乗り越えられる…?脳内で伊奘冉一二三が俺に囁く。
流石の一二三もモウマンタイになる方法は教えてくれなかった。
だが、そんな考えは次の瞬間に全て消し飛ぶ事となる。
「…ずっと言うかどうか迷ってたけど、
言わせてもらうわ」
「あんたはあいつ…、いや────」
心臓が跳ねた。
何故バレた?今の不審な行動のせいか?
いや、冬優子は「ずっと」という言葉を使った。
それは何か致命的なミスを過去に犯している
という証左。
だが、結華の時とは違い、
肝心の心当たりが全く無い。
担任教師からの電話に「はい〜❤️はい〜❤️」と無駄に甲高い声で対応する母親が「はい…はい…」と声のトーンが段々と下がっていく時の「俺…またなんかやっちゃいました?」みたいな恐怖を3段階ほど進化させた感覚が俺を襲っていた。
平静を装って言葉を捻り出す。
「…何を言ってるんだ冬優子?俺は──」
「その名前で呼ばないでくれる?」
続けようとした言葉は、
今一番聞きたくない言葉で遮られた。
「あいつにしか、その呼び方は
許してないから。」
「…ふゆ、って呼びなさい。」
WING編 黛冬優子
『まるで陳腐なハッピーエンド!』より
「あんたの目的は分からないけど…でも、ふゆ達のために一生懸命になってた事だけは分かる…だから教えて。」
「…あんたは誰?」
もう、誤魔化せないな───。
「…なんで、分かったんだ?」
「まず普段の所作ね。あいつっぽくない動きが多すぎ。細かい所を挙げればキリが無いわ。」
「えっ、そんなレベルから…?」
結構気を遣ってプロデューサーらしくしていたつもりだったのだが、冷静に考えてみれば俺はプロデューサーの所作なんか知りようが無い。そもそも作中でそんな描写は殆ど為されていない。せいぜいカードに映り込む程度でしかプロデューサーの姿を確認出来ていないのだから、そんな違和感が生じてもおかしくはない。
「まぁそれも結局は違和感止まりね、決定的だったのが…」
「オタク趣味…というか、そういうグッズに対するあんたの反応よ」
「あ、あぁ〜…」
なるほどね〜…心当たりが源泉掛け流しのように
溢れてくる。
「あんたは知らないんだろうけど、ふゆはあいつと一緒に秋葉原のアニメショップに缶バッジを買いに行った事があるのよ」
知っている。【ザ・冬優子イズム】のコミュでの事を言っているのだろう。
「その時のあいつの反応から見て、あいつはそこまでアニメに興味は無いって分かるわ」
「だけどあんたは違った。帰り道の途中で見かけたのよ、事務所の近くにホビーショップがあるわよね?」
「あぁ…あの店ね…」
「あんた、ショーウィンドウに飾ってあるロボットを見てテンション上がってたじゃない。あの作品は未だに派生作品が製作されている程の人気を誇っているわ。あの315プロのアイドルが主題歌を歌うレベルにね。何ならあいつと一緒に行った時のアニメショップでも、大々的に広告が打たれていたし。」
ここまで言われればいつの事か分かる。熱血のリーズナーのフィギュアを見つけた時の話だろう。
アイドルマスターSideM 雑誌 通常号 Jupiter特集
天ヶ瀬冬馬 『息抜きの時間』前編・後編より
アイドルマスターSideM 雑誌 増刊号
「熱血のリーズナー TALK & LIVE」
天ヶ瀬冬馬 『アイドルでありファン』より
冬馬が夢中になったあのリーズナーの機体のフィギュアが今、目の前にあるという感動。そして何よりも。それぞれの事務所での話は、しっかりと繋がっていたのだと知れたのが、本当に嬉しかった。俺は喜びのまま、リーズナーのフィギュアを買おうとしてしまったのだ。
「でもあんた、財布を掴んだ途端に動きを止めて、そのままトボトボと帰っていったじゃない。あの時は意味分からなかったけど、今なら分かる───。」
「ああ、あの財布の中の金は俺の金じゃあなくてプロデューサーの金だからな。俺が勝手に使っていい物じゃない。」
そう、結局買えなかった。悲しいねバナージ…。
「バレバレだったんだな…」
「そりゃあね」
「じゃあ次は…俺が話す番だな。」
冬優子にこれまでの経緯を事細かに説明する。
だがその説明にはフェイクや意図的に話さなかった事を織り交ぜてある。
そのフェイクとは、自分は異世界の住人ではなく、この世界に元々いた人間で、ひょんな事からプロデューサーと入れ替わったというもの。
コレは無駄な混乱を起こさせずに説明を円滑に行う為のフェイク。
唐突に「俺は現実世界の人間であり、冬優子をはじめとするこの世界の住人や、この世界は誰かが作り出したゲームの中の世界なんだ」なんて馬鹿正直に説明したところで目の前で話を聞いてくれている人間が冬優子からいつの間にか精神科医に変わっている事は想像に難くない。無論、この荒唐無稽な話を冬優子に信じさせる方法が無い訳では無い。冬優子とプロデューサーの間だけで交わされた会話を俺が復唱するだけで十二分に証明する事も可能だろう。だが、「この世界は虚構の産物」である事を真正面から受け止めさせられる冬優子の気持ちを考えれば、その方法は憚られた。
自分の人生が、想いが、全てが。誰かの娯楽として不特定多数の人間に消費されているのだ。
そんな事を、誰が受け止めきれるというのか。
自分たちの世界が虚構だと知る事の辛さは、仮面ライダージオウ 平成ジェネレーションズForeverで考えさせられた事だ。自分達が虚構の存在である事を知っても自らの信念を貫き通した平成ライダー達の勇姿をオタクには是非観て欲しい。
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「…そんな話を信じろっての?」
「俺自身も信じられないんだよなぁ…」
「…まぁ、そうでもなければ有り得ないか」
流石オタクだ、こういう話の理解が早い。
「まるで『Youの名は。』みたいな話ね」
「そうそうYouの名は…Youの名は!?!?」
「…何?あんたも知ってんでしょ、『Youの名は。』くらい。あんだけ話題になったんだから。」
「あ、あぁ…そうだな…」
いや、全く知りませんけど…何そのジャニー喜多川社長と入れ替わってそうな映画は…。
「ま、そんな事はどうでもいいわね…本当に聞きたい事は他にあるから」
そして意図的に話さなかった事。
「じゃあ質問よ、あんた…」
「結華ちゃんと何があったの?」
それは結華との問題。
「…やっぱり、変に見えてたんだな」
手垢のついた言葉だが、言っていい事と悪い事がこの世にはある。
結華との問題を話そうとすれば、結華とプロデューサーの間に紡がれてきた信頼の物語も話さなくてはならない。2人の間にある信頼は、その2人だけの物であって、おいそれと口外するような物ではない。信頼したからこそ、言えた本音。それを話すのは結華とプロデューサー2人の想いを蔑ろにするような事に思えたのだ。
アニメSideM 第11話と第12話の事を思い出す。
桜庭薫の過去を頑なに語ろうとしなかった石川Pの姿が鮮やかに蘇る。
桜庭薫は、とある病により姉を失った過去を持つ元医者アイドル。アイマスの世界では医者よりもアイドルの方が稼げるらしく、彼は、姉の命を奪った病気の研究機関に研究費を投資する為にアイドルになった。そして、この理由が石川Pと桜庭を繋ぐ信頼の重要なファクターとなる。
そしてアニメSideM第11話。天道輝・桜庭薫・柏木翼の3人組ユニット・ドラマチックスターズとしての仕事も、ソロの仕事も各人共に順風満帆、大規模なライブも控えている重要な時期。ここで桜庭に大きな仕事が舞い込んでくる。
桜庭「ミュージカルの仕事…僕にか?」
P「はい。主役の方が降板したらしく急遽代役を探しているそうです。何人か候補者がいるようで今回、桜庭さんにも声が掛かりました。」
桜庭「この演出家…かなり有名だな。話題にもなっていた舞台だ…稽古はいつからだ?」
石川P「その件でご報告というか…
念のためお伝えしておこうと思いまして。
公演は年始からですが、
稽古は既に始まっています」
石川P「ライブも近い中で稽古の時間を取るのは正直…難しいです」
薫「まさか断ったのか?」
「まだ交渉中ですが…そのつもりです。」
P「主演ともなれば相当なセリフ量です。歌やダンスもありますし…負担が大き過ぎます」
薫「だがやる価値はある!多少の無理など
覚悟の上だ!」
P「これ以上は桜庭さんが保ちません…ライブにも支障が出ます」
石川Pにも桜庭が無理矢理にでも仕事を受けようとする事は予想出来ていたはずなのだ。桜庭に仕事が入って来た事を伝えず、黙って仕事を握り潰す事だって出来たはずなのに。
それでも、石川Pは純粋な善意から桜庭にミュージカルの仕事を断る事を伝えた。桜庭への誠意が見て取れる印象的な場面である。
だが、桜庭にとってその善意は自分が進むべき道の妨げにしか感じられなかった。
石川P「またチャンスはあります。
僕も精一杯営業を掛けます。
ですからまずはライブに向けて──」
桜庭「こんな大きなチャンスを逃してか!?」
桜庭「このチャンスを棒に振るなんて
気は確かか!?次を保証できるのか!
この業界はそんなに甘くないはずだ!」
石川P「…………」
どんなに桜庭が激昂しようとも、石川Pはその姿勢を崩そうとはしなかった。絶対に譲ろうとはしなかった。
そして。
その優しさは、桜庭には届かなかった。
桜庭「君は───君が僕の夢を遮るのか…
僕をここに導いた君が!」
石川P「待ってください!」
桜庭「…わかった。僕には…君は必要ない」
この後、桜庭は事務所を通さず勝手に仕事を受けるようになる。そして目に見えて疲弊していく。
そんな桜庭の自暴自棄とも言える姿を見た天道は石川Pに問う。
天道「あいつがトップアイドルを
目指してるのは…金のためなんだよな?」
天道「あんなに必死になるほど必要なのか?」
石川P「詳しくは僕が話す事では…」
桜庭が石川Pを信頼したからこそ話した、アイドルを志した理由。
桜庭がアイドルになった理由を話せばユニット間の相互理解が円滑に進む事は明確なのに、決してそのことを口外しようとはしなかった。
桜庭の身勝手な行動でライブ前という貴重な時間を削られながらも、決して桜庭との間にあった『信頼』には背かなかったのだ。
だから俺はこう答える。
「…分からない。」
分かっているのに。
「唯一分かるのは、俺のせいって事だ。」
分かり切っているのに。
「だから俺は…結華に償わなければならないんだ」
「そうじゃないと、結華だけじゃなく入れ替わったプロデューサーにも合わせる顔がない。」
「これは、俺が決着をつけなくちゃならない事なんだ。」
あの日の誓いを思い出す。最高最善のプロデューサーになんて、一生かかってもなれる気がしない。だけど。
「もう…結華にあんな顔を、させたくないから。」
「ハァ…かっこつけてんじゃないわよ」
「要するに、あんたが何かヘマをしただけって事でしょ」
まぁ平たく言えばそういう事ですね…。
「それで、どうすればこの状況…あんたとあいつは元に戻るのよ。」
「多分、結華とのすれ違いを正せば、元に戻る…と思う。」
「…なるほど、元に戻るには自分以外の人間との関係性…自分の周りの環境に出来るだけ整合性を持たせる、限りなく入れ替わる前の元の状態に近付けておくなんてのは定石よね。」
何?理解早すぎない?平成ゲートを何の説明も無かったのに一瞬で「平成生まれだけを吸い込んでいる」と看破した詩島剛レベルの理解力でしょ…。頭MENSAだね…最強大天才…。
劇場版仮面ライダージオウ Over Quartzerより
「まぁそんな所かな…。」
「そ。大体分かったわ。」
ディケイドかな?
「あんたの目的も分かったし、元に戻る方法も分かってるならそれでいいわ。」
「早く、結華ちゃんとのすれ違いを正しなさいよ…結華ちゃん、ふゆから見ても分かるくらいに、いつもとは違うから。」
「ああ、任せてくれ。」
決意を新たにする。俺はもう逃げない。
服の乱れを正し、結華のいる場所に向かうためにドアノブに手を掛ける。
「ありがとう、冬…ふゆ」
「誰かに話すだけでも、結構心が楽になるもんなんだな…本当に助かった。」
今まで一人で抱え込んでいた重荷が降りたようなそんな気がする。
それだけでもこんなに違うものなのか。
あの時の結華もこんな気持ちだったのだろうか。
「…バカね」
閉めたドアの向こうから聞こえる親の声より聞いた罵倒が、優しく背中を押した。
─────────────────────
礼なんて、言われる資格は無い。
心のどこかで結華ちゃんとの事よりも、あいつが戻ってくる事の方を優先させようとしていた。
心のどこかであいつが戻ってくるんだったら、何でもいいと思ってしまった。
…本当に、最低。
本当のふゆを、好きになる人間なんていない。
…本当に、最低。
─────────────────────
ドアの先には玄関がある。まるでタイミングでも合わせたかのように、結華が外に出ようとしている所だった。
情けない。実際に結華の前に立つと、上手く言葉が出せない。いつもいつも、何と言うのが正しいのかが分からない。
まただ、行ってしまう。
雨の中に、結華が消えてしまう。
まだ何も伝えてない。まだ何も伝えてない。
なのに、何故か足が動かない。ただ結華が、何処かへ行ってしまうのを見ている事しか出来ない。
動け!動け!動け!動け!動いてよ!
今動かなきゃ、今やらなきゃダメなんだ!
新世紀エヴァンゲリオン 碇シンジ
第拾九話『男の戦い』より
シンジくんの声に呼応するように動き出す足。その勢いで玄関のドアを開く。そこには結華の姿はもう無かった。
足を止めてしまった自分を心底恨む。冬優子に「任せてくれ」なんて言ったのはどこの誰だ?
とにかく探すしかない。自分が思いつく限りの結華が行きそうな場所を。
居ない。
居ない。
居ない。
居ない。
居ない。
居ない。
思い当たる場所を走り回る中、また頭に痛みが走る。結華の声が聞こえる。
そうだ、その枠は間違ってなんかいない。
違う、その枠は未だに保たれている。
結華、『誤解』なんだよ、それは。
一瞬だけ映る、結華の周りの光景。
そうか、あの場所か──!
「待っててくれ、結華…!」
色々な場所を走り回っていた中で、
ずっと考え続けていた事がある。
無意味な仮定だとは分かっているけれど。
俺なんかじゃなくて、
本当のプロデューサーだったら。
こんな事にはなってなかっただろうに。
結華の居場所なんて、
こんなヒントが無くたって
一発で分かっただろうに。
何がNow, Over "Producer"だ。
何が最高最善のプロデューサーだ。
283プロのプロデューサーの足下にも
及ばないじゃないか、俺は。
こんな時も、他人と自分を比べてしまう。
俺なんかじゃ真乃に、
あの答えを提示する資格すらも無いのだろう。
イベント『Catch the shiny tale』第5話
「私の場所」より
そんな俺でも今、唯一出来る事がある。
この足を、結華と出会うまで
この足を絶対に止めない。
それが今の俺に出来る事───!
そして、遂にその時は来る。
やっと見つけた。膝に手を置き、肩で息をする。
本当のプロデューサーだったら違ったかもしれないけど、と心の中で付け足す。
結局最後まで本当のプロデューサーを超える事は出来なかった。
ぜえぜえと息を乱しながら、輝きの向こう側へ!でも雨の中でアイドルを探す場面があったな…なんて場違いな考えが浮かび、何となく運命みたいな物を感じたりしたのを覚えている。
劇場版アイドルマスター 輝きの向こう側へ!より
そして結華は問う。
その問いに対する『答え』は。
『正解』は、もう知っている。
雨の中で、(2つ目の)正解を。
本当のプロデューサーと違ってぎこちなくて、
本当のプロデューサーと違って格好つけても
不格好だけど。
これが俺の、『正解』だ。
そう、約束する。
この信頼を、裏切ったりはしないと。
どうやら、正しく正解を提示出来たらしい。
結華の『誤解』は無事に解けた。
そう自覚した瞬間、緊張が解けて。
身体中の力がスッと抜けていくのを感じた。
そのせいか、つい。
結華、と呼んでしまった。
そんなの知ってる、か───。
いい言葉だなぁ。
信頼という不定形な物が
そのまま言葉になったような。
嗚呼、やっぱり結華には一番似合っている。
笑顔が。
答え:アイドル三峰結華編に続く…
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