クソゲーを作ろう!  ―『エルダア・クエスト』リメイク計画― 第三話

 獣人の集落を立ち去った戦士は森を下り、麓にあるロッソの村に向かっていた。
 彼らの涙ながらの訴えを無下に断るのは心苦しかったが、実際に己一人の力でどうにかなる問題ではなかった。
 夕陽が森の向こうに沈もうとしている。
「日暮れまでに村に着くか……? まあいい」
 獣人の集落に呼び立てられて特に得るものはなかったが、別段無駄足だったとは思わなかった。そもそも今の彼には大きな欲も使命もない。
 ただ浮草の如き流れるがままの暮らしだ。

 誰かつけてきている。彼の戦闘勘〈センス〉が告げていた。集落を出たときから薄々感じていた。
「誰だ?」答える声は当然無い。ゆるりと辺りを見回すが人影は見えない。
(揺さぶってみるか)
 彼はとっさに走り出した。それにつられて追う足音が二つ。
 手近な茂みに隠れ、様子を伺うと人影二つが肩で息をしながら駆けてくる。見失ったのか辺りを忙しなく見回している。

「おい」
 そのうちの一人の背後に回り、背中に剣を押し当てた。
「ひっ」
「妙な真似はよせ、俺に何の用か正直に話すんだ」
「ギン!」
「そっちのお前も動くんじゃあねえ」
 予想通り、後をつけてきた二人は獣人であった。狼と人間のハーフ。剣を突きつけられている方は若々しい銀毛。もう一方は茶褐色の毛。

「さあ、早くしろ」
「……」
「ホラ、どうした」
「……お前の武器だ」
 黙ったままの銀毛の代わりに茶毛が答えた。
「隙を見てお前のその剣を盗んでしまおうと思った。お前が味方にならなくても、勇者の使っていた武器さえあれば勇者に勝てるかもしれない」
 それを聞いて戦士は呆れたように軽い笑みを浮かべた。
「ハハハ」
「チクショウ! 好きなだけ笑いやがれ! 力尽くでも奪って――グエッ」
 ツバを飛ばしながら凄む銀毛を剣の柄で殴りいなした。

「面白い、気が変わった。勇者を撃退するというお前らの企み、俺も協力しよう」
「エッ――」
 あからさまに浮足立つ獣人を手で制する。

「ただし俺一人じゃない
 ――あと四人仲間を集め、元勇者五人とお前達で敵を迎え撃つ」

【続く】

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