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不本意(Rhino)

Tool:高知麻紙、岩絵具、金箔、銀泥、墨
Size:F100(二分割の割パネル使用)

制作の動機
数年前にテレビのニュースで犀の絶滅危惧について知り、そこから興味が出て犀について調べてみることに。犀はアフリカ圏とアジア圏に大きく分けて5種生息し、その数はクロサイ約5千頭、シロサイ約2万頭、スマトラサイ約100頭、インドサイ約3千頭、ジャワサイ約67頭という数の減少が起きている(2018年12月現在)。この数も急速に変動しており、毎年1000頭の命が奪われているので意味のない数字ではあるが、いかに危険な常態かというのは明らかである。

頭数減少の理由は密漁にあり、理由はその象徴的な角の成分が漢方に使われるという人間のエゴが理由で乱獲される。この角はとても価値があり金よりも高く値がつくこともあるので生活に困っている人達が(家族を守るためといえば聞こえはいいが)殺戮するのである。
その角を薬として使用した効果については解熱作用があるとされているが、明確な根拠はないようだ。

犀の角は硬い皮膚でできており、人間で言うところの爪のようなもので、ほうっておくと徐々に伸びてくる。それならば殺さずとも角だけ採取すれば良いと考えるも、なぜ命を奪うまでに至ってしまうのか。犀は硬い皮膚で覆われており、麻酔をうまくかけることが困難であるため、うまく効かなかった時のリスクを避ける為、殺して動かなくしてから楽に作業を行うのだそう。

保護団体が予め一頭ずつ角を切り落とし密猟者に狙われないよう対策したり、繁殖の手助けをし数を増やすことで一時絶滅の危機は免れた。一方、頭数の減少を抑えるべく、現代の科学の力で犀角と全く同じ成分の偽物を模造し、安価で取引されるよう企ててもいる。しかしながら本物であるということの価値が下がることはなく、密漁により悲惨な死を遂げる犀は後を絶たない。

本作の意味合いは2つ。

1. 犀の怒りと悲しみと無念さを訴える作品。
2. 美しい地球であれという願いを込めた作品。

制作にあたって
メイン対象である犀はシロサイで、犀の中では一番カラダが大きく体重が重い。同じアフリカに生息するクロサイに比べ口元が横に広がっている特徴を持っている。角は二本縦に並んでおり、体の皮膚はインド犀のように鎧のようではなく、それでいても硬い皮膚で覆われている。

その犀が本当にそこに倒れているかのような絵にしたい。そうするためには輪郭線にこだわらず陰影を用いて表現することを前提とし、切断されてしまった角の部分や傷、血痕などを少々グロテスクに表現することで心に響く作品になるのではという思惑で制作する。

本作品は大きく分けて3つの構成でできており、上から空、犀、地面である。
空の部分には植物も含んだエリアで分けてあり、全体的に赤系で、葉の本当の色合いに引っ張られることなく彩色を施す(理由は後述する)。
中央の犀は重々しく、重量を感じられるように暗く、粗目の岩絵具でザラザラと表現する。
地面には金箔を大中小にちぎり置いて大地や石のゴツゴツ感を表現し奥行きを演出するために押す場所を選ぶ。
手前に配する植物は犀のこれからの理想を表し、背景の赤系の木々は無念に散った命の結末を表し、陰と陽で対照的にしている。

生息している植物については京都府立植物園の観覧温室「アフリカコーナー」で写生し、犀は大阪にある天王寺動物園でクロサイをスケッチし、特徴をシロサイに寄せている。

犀の皮膚の肌質や殺戮された印象を表現するための血や泥は現実的に表現できればと考えているため、実際にはアフリカ現地で観察というわけにはいかないので、写真を探し選定してそれに近づけるように色を重ねる。

絵全体の印象をただの絵画としてではなく、メッセージ性を込めた仕上がりになるよう、犀の頭部が空からの光に照らされている表現になっている。一目でそこに目が行くような仕掛けをし施しているが、逆に説明しすぎてはいないか少々不安が残る部分ではある。

このレポートを書いている今この瞬間もまだ制作途中ではあるが、これから更に厚塗りをしていき、少しでも長く美しい地球が続くように祈りながら描き続ける。
この「伝えたいこと」こそ藝術を学ぶ上で最も大切なことだと信じ、卒業制作後も自身で、また新たなテーマで制作を続けていきたいとそう鼓舞するところである。

有本匡志

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