大車輪物語 ~俺たちの轍(わだち)~ ③(完)

今回はもうほぼ『花束みたいな恋をした』です。脳内でAwesome City Clubの『勿忘』を流して読んでいただけると嬉しいです。


(前回のあらすじ)

なんやかんやで人力舎に所属できた大車輪。しかし、プロの壁は甘くなく、苦戦の日々が続いていた。その一方で、有村は『白黒アンジャッシュ』に出演して軽くスベっていた。



いつか売れると信じてた。

客が二人の新宿ブリーカーで。


いつか。いつか。いつか。いつか……。


漫才中に目が合うことが減っていった。ネタ合わせ中の会話も減っていった。

大本「このネタ動画面白くない? ねえ、ずっとスマホ見て、話聞いとる?」

元島「息抜きにならないんだよ。頭に入らないんだよ。……パズドラしか、やる気しないの」


下北沢での観客投票制のライブ後、2人はファミレスにいた。

近くの席では養成所生と思われる2人が楽しそうにネタ作りをしていた。

大本「俺たちにも、あんな時あったのかなぁ」

元島「……俺、解散したくない」

大本「……次、そこの窓を横切る人が男だったら、解散しよう」


10秒後、有村が横切った。


そうやって、大車輪は解散した。


帰り道。

大本「俺さ、こういう時に思い出すようにしとることがあるんよ。2014年のワールドカップで、ブラジルがドイツに七点取られて負けたの。知っとる?」

元島「知っとるよ」

大本「あん時のブラジルに比べたら俺はマシやって思うん」

元島「あぁ(笑)。負けた後のブラジルのキャプテン、ジュリオ・セザールのインタビューは知っとる?」

大本「え、知らん」

元島「歴史的惨敗を喫した試合後のインタビューでジュリオ・セザールはこう言った。『我々のこれまでの道のりは美しかった。あと一歩だった』って」


その日のライブ結果が発表された。大車輪は1位だった。



数年後。都内某所:インタビュー

大本「あれから色んな漫才を作ってきましたけど、一番楽しかったのは、あの日養成所でやった元島との漫才ですね」


都内別場所:インタビュー

元島「あいつそんなん言うてたん? 恥ずかしいわぁ。(笑)」


密着取材を終え、2人はそれぞれの相方とタクシーでテレビ朝日に向かった。

そう、今日は夢が叶う日。あの日思い描いた形とは違うけれど、数年前に書いた、『2人でM-1決勝!』という夢が。


元島はタクシーの中で何気なくストリートビューを開いていた。下北沢の景色を見ると、そこには、ネタ合わせをする大車輪の姿が写っていた。



長年にわたるご愛読ありがとうございました。

次回からは普通のnoteを更新します。

またそのうちです。

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