現代美術のスーパースターの成功と失敗と自由

『空をゆく巨人』の主人公のひとりは、現代美術のスーパースターともいわれ蔡國強さんである。蔡さんは、中国福建省で生まれ、苛烈な中国文化大革命を経験し、29歳で全く無名のままに日本にやってきた。ちょうどその頃、彼が自分の表現として始めていたのが、「火薬」を自分のアートに取り入れることだった。キャンバスの上で火薬を爆発させ、それで絵を描くのだ。

しかし、自由を求めてやってきた国の日本は、当時の中国とは違い、火薬の取り扱いは花火職人などに限られていた。仕方がないので、蔡さんはおもちゃの花火をお風呂場でバラして、爆発させていたという。当時の蔡さんはまだ日本語も上手に話せなかった。

そんななかで「火薬でアート」をする中国人の怪しさはきっとなかなかのものだったのではないだろうか。いまや各地の芸術祭でディレクターを勤めるP3の芹沢高志さんも、蔡さんに出会った当時は、「火薬でアートなんていうものはすぐに(自分たちが)手を出すものではない」と感じていたそうだ。しかし、実際にスタッフの女性がその爆発作品を見ると、全てが変わった。「P3は絶対に蔡さんの作品をやらねばなりません」とスタッフの説得を受け、蔡さんと会うことに。その日、蔡さんはプレゼン資料を持ってきたのだが、全ての説明を終えたのは8時間後くらいだったとう。

その時、ヘトヘトになりながら芹沢さんが思ったのは、「このひと、なんかすごいかもしれない」

こうして、蔡さんと芹沢さんのタッグが生まれた。そうしてふたりは、あるとき、中国の万里の長城の終わり、嘉峪関に導火線を引き、爆発させることで作品を作る「万里の長城を1万メートル延長させるプロジェクト」を実行に移すことを決める。

ちょっと一度話はそれるが、横浜美術館のサイト(スクロールして下の方)に実際の蔡さんの「火薬でアート」の作品が見られるので、ぜひ少しだけでも見て欲しい。

https://yokohama.art.museum/special/2015/caiguoqiang/

私が好きなのは、one night standというパリのセーヌ川で発表された作品だ。セーヌ川に客船を浮かべ、その中にテントを貼り、100組みの「熱いカップル」になかに入ってもらう。テントの中にはスイッチがあり、カップルが絶好調盛り上がった瞬間にスイッチを押すとドカン!!ドカン!!ドカン!! 川岸で見る方は、いまみんな盛り上がってんだなー、いいなあ!とわかる仕組みだ。これは、本当にパリでしかできないユーモアとセンス溢れる企画だろう。

もちろん、ここまで進化させるには長い時間がかかる。スーパースターは1日にして生まれるわけではない。おもちゃの花火をバラしていたあの頃から、気の遠くなるようなトライアンドエラーを繰り返して、たくさんの作品を生見続けてきた。実際に蔡さん自身は、かなりたくさんの失敗もしてきている。

そういったトライアンドエラーや信じがたいスケールの大失敗を目撃してきた芹沢高志さん。彼をインタビューしたのは、去年の夏頃だった。2時間以上にもわたる長いインタビューだったが、爆笑の連続だった。ここまで人は自由になっていいのかー!!と思えた。

ほとんど誰の支援も受けないままに、二人が一緒に突き進んだ「万里の長城を1万メートル延長するプロジェクト」のクレイジーさ、突き抜け感といったら。正直、本には聞いた話の5分の1ほどしか書けなかった。だから、ぜひ今回の対談トーク (11/24 東京)を聞きにきてもらえたら嬉しいなと思うし、もちろん本を読んでもらえたら嬉しい。

本もトークも現代美術に全く興味がない人でも、十分にワクワクできる内容だと思う。たぶんそれは、人間の魂の自由さに触れられるからだ。普段自分たちを取り巻いているたくさんの不自由なものから、本を開いている一瞬だけでもぱーん!と解放してくれる、そんな作品になったと思う。(amazonでも予約が始まっています!)



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