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遠隔医療市場外観: 遠隔医療ってどんな市場?

2019年の令和の時代になり、生活のあらゆる面が便利になっていくことがますます期待されていますが、その中でも特に便利さやサービス体験の向上が望まれる分野の一つに医療があると思います。

私自身は、どっぷりとITヘルスケア業界に浸かっているために、遠隔医療市場とは大体どんな市場なのかを分かっているつもりですが、まだまだ一般的には知名度が低い市場です。

特に、遠隔医療と遠隔診療を混同している方が大半なのではないかなと思います。実際に中にいる人間からして、本当はこれだけサービスの種類とか違う事をやっているんだよという事を知ってもらえたらという気持ちで本記事は書かせて頂きます。

また、本記事を皮切りに、遠隔医療市場をより深掘りしていく為の記事を今後数日間に分けて、複数公開していく予定です。今回は、遠隔医療市場の外観を簡単に説明させてもらいます。

遠隔医療とは?

始めに定義を行います。簡単に説明すると、現在の医療サービスのうちリモート化出来るようなサービスを総じて遠隔医療と呼んでいます。

遠隔医療を大まかに分類すると以下のような4分野に分類する事が出来ます。

1. 遠隔医療画像診断
放射線画像の読影とレポートの作成サービスを遠隔で行います。地方中核病院や専門医と、クリニックなどの医療機関との間でDtoDの形で提供されています。

2. 遠隔病理診断
病理専門医が遠隔で病理標本を撮影したデジタル病理画像を元に病理診断・レポート作成を行います。病理専門医は数が少なく、特に地方では人材不足が起こりやすい分野です。ガンの確定診断などで用いられています。

3. 遠隔診療
いわゆる一般の人が想像する遠隔医療です。スマートフォンやPCを介して遠隔で医師の診察を受ける事が出来ます。

4. 遠隔健康管理
特に市場理解が難しい領域です。医師やその他医療従事者に相談が出来る遠隔医療相談サービスや、健康保険組合が実施する特定保健指導や重症化予防指導などのサービス、オンラインでの服薬指導、健康経営推進をサポートする為の運動・食事指導など様々な形態のサービスがあります。それぞれがニッチな分野になりますが、今後の遠隔医療市場を理解する上で重要な領域です。

遠隔医療国内市場規模予測

少し古い資料ですが、遠隔医療の国内市場規模は2019年には199億円になると予想されています。

*) 2017年矢野経済研究所の報道発表資料より

2015年から継続して市場を牽引しているのは遠隔医療画像診断市場と遠隔病理診断市場です。

2018年以降の市場の伸びの予測の中には、遠隔診療が含まれていますが、現状は少し異なった状況にあります。元々は、2018年の診療報酬改定により遠隔診療が全面解禁される or ポジティブな影響があるという前提の元の市場予測でした。しかし、2018年の診療報酬改定では遠隔診療は一部規制された形での診療報酬設定となった為に遠隔診療市場にはマイナスの影響になりました。

具体的には以下3点が2018年の診療報酬改定の結果としてまとめられました。

①オンライン診療科が新設

②オンライン診療科の適応範囲が限定的なものに留まった。
・緊急時に概ね30分以内に当該保険医療機関において診察可能な体制
・当該保険医療機関内において行う
・対象疾患を限定(特定疾患療養管理料など、小児科療養指導料、てんかん指導料、難病外来指導管理料、糖尿病透析予防指導管理料、地域包括診療料、認知症地域包括診療料、生活習慣病管理料のいずれかを算定している初診以外の患者で、かつ当該管理に係る初診から6月以上経過した患者)

③オンライン診療科の診療報酬が低く抑えられた
オンライン診療科の新設以前はスマートフォン等を使ってオンライン診療を行っても、電話等再診の扱いであり、その点数が注目されたが、点数は70点、オンライン医学管理料(100点)と合わせても、1カ月当たり170点と低く抑えられた。

遠隔医療市場の構成(各ビジネスモデルのステークホルダー)

次に遠隔医療市場の構造を見ていきます。以下の図でもある程度分かるように、一口に遠隔医療と読んでも様々なステークホルダーがいます。それぞれの市場の詳細については、各々別記事にて既存参入企業や市場構造について紹介します。

遠隔医療画像診断・遠隔病理診断
Doctor to Doctorのビジネスモデルです。僕はここの領域はそんなに詳しくないので、書けることがあまり無いです。

遠隔診療・遠隔医療相談
Doctor to Patientのビジネスモデルです。遠隔診療では診断や薬の処方などが行えますが、遠隔医療相談では医療知識の提供や受診勧奨などに止まります。医師が行う遠隔医療相談と、その他医療従事者が行う遠隔医療相談ではビジネス上の毛色が違う為に、別の枠組みとして表記してあります。

遠隔服薬指導・医薬品配達
Pharmacist to Patientのビジネスモデルです(英語にすると分かりにくいですねw)。調剤薬局の薬剤師が遠隔地の患者さんから処方箋を受け取り、オンラインで服薬指導を行って、医薬品配達を行うようなサービスです。現状はまだオンラインでの服薬指導が解禁されておらず、また医療用医薬品の配達も解禁されていない為に、日本ではまだサービスはほとんどありません。

遠隔健康管理
民間企業などの非医療機関が提供するサービスになります。現状ではほとんどが、BtoBやBtoBtoCの形式で提供されています。一部、遠隔医療相談サービスや食事指導サービスなどではBtoCの形態を取っています。但し国民皆保険などが浸透している日本の市場環境では、まだBtoCのモデルは浸透しにくく、現状では以下の3領域でマネタイズが行われています。

①健康経営を推進したい企業向けサービス(BtoBtoE)
②データヘルス計画を実施する健康保険組合の保健事業外部委託(BtoBtoC)
③損保・生保の保険付帯サービスとしての健康管理サービス(BtoC)

遠隔医療におけるユーザーフローと今後期待されるソリューション

遠隔医療が社会に浸透していくことにより、医療のサービス提供フローは以下のようになると考えられます。実際にはユーザーの基本属性と対象疾患によりユーザー体験のフローは異なるのですが、ここでは簡易的な括りでまとめさせてもらっています。

1次スクリーニング
AI Botによる簡易問診や、遠隔医療相談などが考えられます。簡易なチェックにより、実際に医療機関を受診すべきかどうかのスクリーニングが行われれます。ここで収集されたデータは、疾患別やライフスタイル別でクラスタリングしやすく、製薬企業の一般患者向けマーケティングなどに活用されていく事になるでしょう。

また、健康保険組合が抱えているレセプトデータ(医療費支払いのデータ)や健康診断データもスクリーニングの対象データとなります。

受診勧奨・医療機関送客
1次スクリーニングの結果、実際の医療機関での受診が必要だと判断された場合、次のステップになるのが医療機関への送客です。細かくステップを分けると以下のようになります。
①医療機関への受診勧奨
②医療機関 or 医師検索
③医療機関の診療予約

医療機関受診・対面診療
疾患によって対面診療が良い場合と遠隔診療でも可能な場合とそれぞれあるので、最適な使い分けがされていく事が望まれます。
このフェーズで重要になるのは電子カルテ関連のソリューションだと考えられます。医師は診察前・後の電子カルテへの入力作業で多くの時間を奪われています。そうした時間を減らすための入力補助や問診データからの事前準備などは重要なソリューションになっていくでしょう。また、電子カルテと個人の健康管理アプリ(PHR: Personal Health Record)への連携も、患者体験を変えていく上で必須の要件となるはずです。

継続診療・治療期
疾患によって医薬品治療があまり重要でない場面もありますが、多くの疾患ので医薬品による継続的な治療は起こり得ます。その場合に遠隔での服薬指導・コンプライアンス管理(きちんと薬を飲めているか)は、治療効果を期待する為にも重要なソリューションとなります。また、慢性期の疾患管理プログラムや在宅医療の補助は今後ますます重要度を上げていくでしょう。

医療費支払い
患者向け遠隔医療サービスのキーファクターとなり得るのが医療費支払に関するソリューションです。保険市場および健康保険組合、医療機関にとって医療費支払に関するインセンティブはとても強く働きます。今後、予防に関するサービスを中心に、患者向け疾患管理・健康管理サービスと医療費支払に関するビジネスが紐付いていく事が想定されます。

遠隔医療は医療のビジネスモデルを変え、対象ユーザーを拡大する

最後に遠隔医療が医療のバリューチェーンにどのような影響を与える事になるのかをまとめて終わりにします。

遠隔医療におけるユーザーフローと一部被る面もありますが、医療のバリューチェーンで考えた場合、遠隔医療はどのような影響を与えるのでしょうか?一般的に医療のバリューチェーンは以下のような図で考えられる事が一般的です。

登場するステークホルダーは主に5分類されます。

Government: 政府
医療に関する法律・政策などを実施します。

Payer: 医療費支払者
治療を受けた患者に変わって医療費支払を行います。日本では国民皆保険制度がある為に健康保険組合が主にその役目を担っています。

Provider: 医療サービス提供者
医療サービスの提供者です。主に病院などの医療機関が想定されますが、医療従事者を抱える民間企業などもそれに当たります。

Supplier: メーカー・小売
医薬品や医療機器の供給者です。主に製薬企業や医療機器メーカー、医薬品卸などが該当します。また、小売業者としてドラッグストアや調剤薬局などもこれに当たります。医薬品のオンライン販売が一部解禁された事で、楽天やAmazonなどのEC企業も該当するようになりました。

Patient: 患者
医療サービスの場合、UserなのかPatientなのかで微妙にビジネスモデルやステークホルダーが変わってくる為に、この様な書き方になっています。

さて、遠隔医療はこの様な医療のバリューチェーンにどの様な影響を与えるのでしょうか。

上記の遠隔医療市場の構成の項目で述べた様に、遠隔医療のビジネスモデルやステークホルダーは様々存在します。その結果、これまで硬直的だった医療サービス市場は大きな変動が起こっていくと考えられます。ビジネスモデルに変化が起こる事で、これまでのビジネス環境で強いポジションを持っていた企業・医療機関と、遠隔医療の新しいサービスを提供していく企業とのパワーバランスが変わっていく事になるでしょう。Providerには新規参入が増えていくでしょう。また、特にPayer, Supplierのビジネスモデルは影響を受けていく事になるでしょう。その結果、これまで遠隔診療の対象となっていなかった、利用者・患者が遠隔診療の恩恵を受けられる様な社会になっていくことでしょう。

以上が、遠隔医療市場の外観になります。今後も引き続き市場毎、対象疾患毎の視点から遠隔医療に関する記事を公開してく予定です。

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https://twitter.com/aritaku03

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