見出し画像

【アラスカ旅日記】 口笛を吹くとオーロラがダンスするよ


フェアバンクスのダウンタウンの一角に立派な観光案内所がある。
そこではフェアバンクスの自然、生活、歴史、民族をテーマとした展示があり、小さな博物館のようでもあった。

『ネイティブアート展示販売』と手書きの張り紙に目に止まり、矢印で示された方向へ歩いていくと奥まったところに集会室のような部屋があった。
ドアは閉じられており、入ることに一瞬躊躇したが、ガラス越しに中を覗くとお茶のみしながらにこやかに談笑する二人のご婦人が見えたため、
「こんにちは」
とゆっくりドアを開け、中に入る。

おそらく先住民の血を引く方だろう。
顔立ちはアジア系で親近感が感じられる。
日本にいるおばちゃんたちそのまんま、だ。

室内にはこの地域の伝統的なビーズ細工の手芸品が並べられており、ご婦人の一人は作品の製作中、もう一人はあいさつと共に
「ねぇ、あなた日本から来たの?私の姪が去年東京に旅行に行ってね・・・」
とすぐに私をおしゃべりに巻き込んでくださった。

アメリカに来てから時々「韓国人?中国人?」と聞かれることはあったが最初から「日本人?」と聞かれることはなかったので、驚きもしたし嬉しくもあった。

日本人同士なら大抵の場合「この人は日本人だなぁ」とすぐわかるし、韓国の方、中国の方とも雰囲気から察しがつく。
しかし他の国の人々には微妙な違いを見分けられないのも頷けるし、それだけではなく、そのくらいアメリカでは韓国と中国の存在感は大きいのだろう。

しかし最初から日本人かと聞かれたあたり、アラスカでは日本人が馴染み深いのかもしれない。

実際、フェアバンクスで見かけた観光客は日本人も韓国人も中国人もたくさんいたが、それはきっと近年になってからのことなのだろう。少し前までは日本人観光客、もしくは日本からの移民の方が一般的だったのかもしれない。

しばらく雑談していると、ご婦人が[Yasuda Frank]と書かれた一枚のA4コピーを手渡してくださり、こちらには写真があるからと奥へ案内してくださった。
資料に目を落とすと、彼の経歴がびっしり書かれている。

Frank Yasudaは1868年(明治元年)石巻市生まれ、22歳でアメリカに渡った日系アメリカ人1世で、第二次世界大戦下は日本人強制収容所にも収監されたという。
アラスカに新しい村を作り、その献身により「アラスカの恩人」と称えられているそうだ。彼の生涯については新田次郎の「アラスカ物語」にも描かれているとのことだった。

この時は正直あまりピンとこなかったのだが、翌日アラスカ大学博物館に立ち寄った際に、日系移民についての展示スペースが確保されており、アラスカと日本人との関わりの深さを感じたのだった。

ここでも日系移民の情報に出会うとは・・・

『ここでも』というのには訳がある。

もともとファミリーヒストリーを調べることが趣味でそれをまとめるためにnoteを始めた私は人のルーツというものに関心がある。
しかしアメリカに来てからは私自身のルーツ探訪は少しお休みしているし、その趣味を広げる機会はほぼないだろうと思っていた。
ところが、アメリカに来て出会ったランゲージパートナーのご主人が日系4世であったことから、アメリカへ渡った日本人の話に興味をひかれることになる。
彼女は日系三世である義母から聞いた話や関連する図書について貴重な情報を教えてくれる。

二世である義祖父母の代では第二次世界大戦下に強制収容所での経験があるということ、三世の義母も戦後も差別を受けてきたこと、四世の夫は明らかな差別ではなく、マイクロアグレッションという無意識的な差別を感じながら生きているということ・・・

明治初期にアメリカに渡った日本人、つまりジャパニーズアメリカンのルーツに関する話題に触れ、より身近な問題として関心を寄せるようになった。

ルーツを探すことが私の趣味の一つだ。ライフワークでもあると思う。
ルーツ探しはアメリカへ来ていったん休憩かとも思ったが、やはり私はこういうことに呼ばれるらしい。

「貴方なりにしっかり学びなさい」と言われた気がした。


こんなオーロラを見たかった…

「ところであなたもうオーロラは見たの?」と問われる。
「オーロラは口笛を吹くとダンスするのよ、口笛よ、口笛。」

ちょっと吹いてみたけれど、心もとない小さなヒューという音しか出ずに笑いが起きる。私は口笛が上手ではない。
「まずは口笛の練習が必要ですね、とほほ」と肩をすぼめる。

オーロラには吉凶様々な言い伝えがあるらしい。
どうせなら、こんな楽しい言い伝えを信じたい。

話が弾んですっかり忘れていたが、そういえば夫には何も告げずにこの部屋にふらりと入ってしまったことを思い出し、ご婦人二人に挨拶をして部屋を出た。





この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?