薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンス (IDSA)を読み解いていく -CRE編 その4-

本記事は、主に医療従事者向けに記載をしております。また、本記事の内容は、私の所属している施設などとは一切関係がないことを併せてご承知の上、記事をご覧ください。

はじめに

先日、IDSAから公表された、薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンス[1]について、記事にしています。

この内容を少しずつ読み解いていくという内容で記事を書いています。

初回は、導入部分の抗菌薬に関するセクションについて、内容を読み解いていきました。

2-4回目は、ESBLについて記述されている部分について読み解いてみました。

前回までは、CREについて記述されている部分の導入部分、Q1, Q2について記事を記載しています。

今回は、CRE編その4として、Q&Aの内容 (Q3)を読み解いていこうと考えています。

Q3. カルバペネマーゼ検査の結果が得られない、または陰性の場合、エルタペネムには耐性だが、メロペネムには感受性があるCREによる尿路感染症以外の感染症の治療に好ましい抗菌薬は何か?

耐性GNRガイドライン[1]の内容は下記のとおりとなっている。

推奨: カルバペネマーゼ検査の結果が得られないか、または陰性の場合、エルタペネムには耐性だが、メロペネムには感受性があるCREによる尿路外感染症に対しては、メロペネムの長時間投与療法が好ましい治療法である。
根拠:CREによる尿路外の感染症で、メロペネムに感受性が残っている分離株のほとんどがカルバペネマーゼを産生しないため、メロペネムの持続注入が推奨される。カルバペネマーゼ検査が陽性の場合は、たとえメロペネムに対する感受性が示されていても、メロペネムは避けるべきである。
Ceftazidime-avibactamは、尿路外のエルタペネム耐性、メロペネム感受性のCRE感染症に対する代替治療法である。しかし、パネル (専門家達)はセフジジム-アビバクタムの活性を維持するため、すべてのカルバペネム系薬剤に耐性のあるCREによる感染症の治療にはセフジジム-アビバクタムを使用することを推奨している。カルバペネマーゼ産生がある場合、感染症はメロペネムMICにかかわらず、原因菌がメロペネム耐性であるかのように治療すべきである。専門家達は、CREに起因するエルタペネム耐性のメロペネム感受性感染症の治療に、メロペネム-バボルバクタムまたはイミペネム-シラスタチン-リレバクタムを使用することを推奨しているが、これらの薬剤には、メロペネムの長時間投与療法以上の大きな利点はない。

エルタペネム (ertapenem)は, カルバペネム系抗菌薬です。日本国内で入手できないですし, 使用も不可です。
エルタペネムの特徴は, 総説 [2]では下記のとおり特徴が述べられています。
●他のカルバペネム系抗菌薬との違いとして, 緑膿菌などに活性を有さない
●半減期が長く, 1日1回投与が可能となっている. 
●複雑性腹腔内感染症, 急性骨盤内感染症, 複雑性皮膚軟部組織感染症, 市中肺炎, 複雑性尿路感染症などにおいて, セフトリアキソンやピペラシリン/タゾバクタムとの比較試験で, 有効性および安全性について非劣性であることが示されている。
などというような特徴を有している薬剤です。

ガイドラインの内容によると、エルタペネムに感受性がなく、メロペネムに感受性がある場合は、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌 (CRE)であるが、カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌 (CPE)では無いことが多いということです。

カルバペネマーゼを産生する菌でもCREである場合もあるし、CREで無い場合もあります。
また、CREでありながら、CPEの場合もあれば、CPEで無い場合もあります。
この概念は、"多剤耐性グラム陰性菌感染制御のためのポジションペーパー 第2版" [3]に記載をされている下記の図が参考になると思います。

画像1

つまり、Q3が示しているのは、上記図の下側の濃いグレーの部分を指しているということになるのではないかと考えられます。

続いて、メロペネムの長時間投与療法についてです。

画像2

上記のFig1について、従来投与法(30分で投与)で1g 8時間ごとに投与した場合が細かい点線、長時間投与 (1回3時間かけて投与)で1g 8時間ごとに投与する場合, 実線が長時間投与 (1回3時間かけて投与)で2g 8時間ごとに投与する場合の血中濃度推移 (シミュレーション)を示しているものになります [4]。図に示されているように, 従来投与法より長時間投与にした方が, 1回投与量が同じでも, 血中濃度が高い時間が長時間持続していることがわかります。

画像3

Fig2は, どのMICの菌までカバーが可能かの確率について記載をされています。三角でプロットされている従来投与法に比べ, 丸でプロットされている長時間投与法の方が, 高いMICまでカバーができる確率がわずかですが増加しています[4]。
これらのように, 長時間投与法により, より高い血中濃度を維持し, MICが高い菌までカバーできる可能性があるため, 長時間投与法が推奨されていると考えられます。

ただ、CPEの場合は、メロペネムの感受性があっても、メロペネムの使用は避ける方が望ましいことが併せて記載がされています。
当該ガイドラインの基本的な姿勢として、違うクラスの抗菌薬併用療法は避けるということが記載されており、CPEの場合は、推奨薬としてβ-ラクタム系抗菌薬/β-ラクタマーゼ阻害薬 (BL/BI)の組み合わせ製剤が挙げられていますが、以前から記述しておりますように、これらの薬剤は日本では入手ができません。

このため、日本で入手可能な薬剤でのオプションで記載をされている、日本独自のガイドラインが必要なのではということを繰り返し記載をしておりますが、早めに検討していく流れが必要なのではと考えます。

なお、日本化学療法学会では, 基礎研究 (in vitro)ではありますが, コリスチンやチゲサイクリン以外の治療方法として併用療法について検討をされているようです [5, 6]。
ちなみに, 上記の化学療法学会の検討よりも遥か前に、ケースレポートですが, CPE-CREによる菌血症に対して, メロペネム+アミカシンの併用療法について報告をされているものもあります。

最後に

日本で検出されているCREのうち, CPEはIMP型です。また、日本では入手できないBL/BIが複数存在している状況です。
こういう状況を鑑みると, 日本独自の耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイドラインについての検討が必要なのでは無いかと思います。

参考文献

[1] Infectious Diseases Society of America Guidance on the Treatment of Antimicrobial Resistant Gram-Negative Infections. (https://www.idsociety.org/practice-guideline/amr-guidance/)
[2]  Zhanel GG, Johanson C, Embil JM, Noreddin A, Gin A, Vercaigne L, Hoban DJ. Ertapenem: review of a new carbapenem. Expert Rev Anti Infect Ther. 2005 Feb;3(1):23-39. doi: 10.1586/14787210.3.1.23. PMID: 15757455.
[3] 一般社団法人 日本環境感染学会 多剤耐性菌感染制御委員会 編: 多剤耐性グラム陰性菌感染制御のためのポジションペーパー 第2版, 2017.
[4] Daikos GL, Markogiannakis A. Carbapenemase-producing Klebsiella pneumoniae: (when) might we still consider treating with carbapenems? Clin Microbiol Infect. 2011 Aug;17(8):1135-41. doi: 10.1111/j.1469-0691.2011.03553.x. Epub 2011 Jun 2. PMID: 21635663.
[5] 多剤耐性菌に対する治療戦略ワーキング委員会:
CRE/CPEマウス大腿部感染モデルにおけるカルバペネム系抗菌薬およびアミノグリコシド系抗菌薬の併用療法の有効性評価 (http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/tazaitaiseikin_1909_2.html)
[6] CREに対する併用療法の検討
―多剤耐性菌に対する治療戦略ワーキング委員会報告―
CPEおよびnon-CPEに対するコリスチンおよびチゲサイクリンを用いない併用療法のin vitro併用効果 (http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/tazaitaiseikin_1909_3.html)
[7] Nakakura I, Ogawa Y, Sakakura K, Imanishi K, Hirota K, Shimatani Y, Uehira T, Nakamori S, Sako R, Doi T, Yamazaki K. IMP-6 Carbapenemase-Producing Enterobacteriaceae Bacteremia Successfully Treated with Amikacin-Meropenem in Two Patients. Pharmacotherapy. 2017 Oct;37(10):e96-e102. doi: 10.1002/phar.1984. Epub 2017 Aug 23. PMID: 28699652.

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