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極度の肥満症例におけるバンコマイシンの薬物動態に関する検討 (Pharmacotherapy. 2015 Feb;35(2):127-39. doi: 10.1002/phar.1531. Epub 2015 Feb 3. PMID: 25644478.)

本記事は、主に医療従事者向けに記載をしております。また、本記事の内容は、私の所属している施設などとは一切関係がないことを併せてご承知の上、記事をご覧ください。

はじめに

久しぶりの投稿です。

2020年に入り、バンコマイシンのTDMに関するガイドライン(米国版)が改訂され、バンコマイシンの投与設計等に関して、今後、大きく変わりそうな気配です。これは、以前に記事にしていますので閲覧いただけると参考になるかもしれません。

そんな中、特殊な背景を有する患者群での投与というところは、症例数は少ないものの、珍しいがために、薬剤師自身がそういう症例に遭遇したことが無いと、一般的な症例の対応と同様に当てはめて、対応をしがちです。

しかし、特殊な患者群では、その患者群での投与法法や考え方という部分が必要です。

米国では、2017-2018年のデータでは、成人の肥満の割合は42.4%と非常に肥満の割合が多いです [1]。肥満大国だからこそ、肥満症例に医薬品の投与をした際の薬物動態を確認し、適切な投与方法を検討されています。以前に、バンコマイシンを肥満症例に投与する際に、AUCを指標として投与量を調整するかトラフ値を指標に投与量を調整するかで、投与量が異なるか、腎機能障害の割合がどうなるかということを報告している内容をまとめています (下記リンクの記事を参照ください)。

今回も、バンコマイシンを肥満症例にどう使うか?という疑問を解決してくれるような内容の論文を読みましたのでまとめてみました。
ただ、今回はただの肥満ではないですよ。BMIが40 kg/m^2を超える極度肥満の症例 (英語では、論文のタイトルのとおりですが、extremely obese patientsと表現されています)を対象とした報告です。

日本では2016年のデータですが、肥満の割合は男性32.0%、女性27.0%であり [2]、米国と比べると少ないんですが、案外多いんです。

ただ、極度の肥満の症例でバンコマイシンを使用するっていうのは、滅多に遭遇しないのでは無いかと思います。しかし、こういう報告はしっかりと知識として知っておくと、有事 (該当する症例)に遭遇した際に役立つ時がきっときます。

ということで、今回は、その論文の内容を記事にしていきます。

論文タイトル

Adane ED, Herald M, Koura F. Pharmacokinetics of vancomycin in extremely obese patients with suspected or confirmed Staphylococcus aureus infections. Pharmacotherapy. 2015 Feb;35(2):127-39. doi: 10.1002/phar.1531. Epub 2015 Feb 3. PMID: 25644478. [3]

主な内容は下記のとおりです。

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本文を読んでいて気になる点がいくつかありました。

例えば、本研究は、下記の式を用い、初期投与設計をピーク値およびトラフ値の推定値を算出しているようです。

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式の用語は下記のとおりです。
Rin=輸液率(用量/t)、t=輸液の長さ、T=輸液終了からトラフ濃度までの時間、V=分布容積、k=排泄率、τ=投与間隔、およびT’=τ-(t+T)
つまり、ベイジアン法を用いている訳ではないということですし、初回投与設計は、わざわざトラフ、ピークをどうしたいかを考え、投与量を算出しているということで、かなり業務量的に煩雑になるのではないかと考えます。

もう1点は、結果に記載をされているものですが、体重が重くなると排泄率は減少、半減期は延長するようです
→つまり、クリアランスが悪くなるということのようです。
なお、いずれの体重でも腎機能に応じて、排泄率は増加、半減期は短縮するという当たり前のような結果も記載されています。
(Figure 4がそれにあたります)

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このため、体重増加は、クリアランスが悪くなるようです。
しかし、BMI>40 kg/m^2の症例では、4000-5000mg/日を投与すれば、AUC/MIC>400を達成できると記載されており、少し矛盾も感じてしまいます。
あと、本検討は、年齢の中央値が43歳という点もポイントかと思います。このためか、ほとんどの患者で腎機能はそれほど悪く無いようです。

このため、比較的若年で高度肥満の症例かつ腎機能が悪く無い症例では日本のガイドラインで定められている4000mg/日を超えないこと [4]とされていますが、4000-5000mg/日を投与すると良いかもしれないという程度の結果でしょうか。

最後に

今回は、バンコマイシンを特殊な患者集団に投与する時にどうすれば良いかということを確認した論文を読んでみた内容をかいつまんで記事にしてみました。

なかなか、欧米のような極度の肥満症例という患者に出会すことはないかと思いますが、そういう症例がくれば、体重換算で4000mg/日を超えても投与を考慮することがあるということは知っておいても良いかもしれないですね。

引用文献

[1] CDC National Center for Health Statistics. Prevalence of Obesity and Severe Obesity Among Adults: United States, 2017–2018. NCHS Data Brief No. 360, February 2020 (https://www.cdc.gov/nchs/products/databriefs/db360.htm 2020年11月20日アクセス)
[2] 厚生労働省. 平成30 年国民健康・栄養調査結果の概要.  (https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08789.html 2020年11月20日アクセス)
[3] Adane ED, Herald M, Koura F. Pharmacokinetics of vancomycin in extremely obese patients with suspected or confirmed Staphylococcus aureus infections. Pharmacotherapy. 2015 Feb;35(2):127-39. doi: 10.1002/phar.1531. Epub 2015 Feb 3. PMID: 25644478.
[4] Matsumoto K, Takesue Y, Ohmagari N, Mochizuki T, Mikamo H, Seki M, Takakura S, Tokimatsu I, Takahashi Y, Kasahara K, Okada K, Igarashi M, Kobayashi M, Hamada Y, Kimura M, Nishi Y, Tanigawara Y, Kimura T. Practice guidelines for therapeutic drug monitoring of vancomycin: a consensus review of the Japanese Society of Chemotherapy and the Japanese Society of Therapeutic Drug Monitoring. J Infect Chemother. 2013 Jun;19(3):365-80. doi: 10.1007/s10156-013-0599-4. Epub 2013 May 15. PMID: 23673472.



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