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カルバペネマーゼ産生Providencia rettgeriに対する治療選択はどうするか?


本記事は、主に医療従事者向けに記載をしております。また、本記事の内容は、私の所属している施設などとは一切関係がないことを併せてご承知の上、記事をご覧ください。
(タイトル上の画像は, CDC HPより引用。 https://www.cdc.gov/drugresistance/index.html)

はじめに

先日、薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンス (IDSA)[1]に関する記事をいくつか記載しております。

ガイドラインのうち、CREの内容も上記に一部記載をしております。

しかし、ガイドライン [1]の本文を見ていただいている方はご存知かもしれませんが、CREの治療オプションについて、日本で入手できない薬剤が多いこと、米国発のガイドラインなので、KPC産生菌を中心に書かれているという点が日本国内でガイドラインの内容を落としにくい状況です。

今回、自施設で遭遇したCREについて、少し掘り下げようと思います。

微生物は奥深いです。

Providencia rettgeriとは?

Providencia rettgeri (プロビデンシア・レットゲリ)は
●腸内細菌科に属するグラム陰性桿菌.
●正常糞便細菌叢に存在する.
●病原性は弱いが主としてcompromised hostに尿路感染症,下痢症,肺炎などをおこす.
という特徴があるようです [2]
その他の特徴として, 
●稀に院内感染を引き起こすことがある [3]
●多剤耐性菌によるアウトブレイク事例もあり
●一般的にゲンタマイシンおよびトブラマイシンに耐性があるが, アミカシンには感受性がある[3]
● (Providencia属に対しては,) 抗菌治療の選択肢としては, セフトリアキソン, イミペネムおよびトリメトプリム-スルファメトキサゾールがある [3]

以上のような特徴があるようです。
Providencia rettgeriは、グラム陰性桿菌で, 日和見感染で尿路感染症などを起こし, 耐性菌によるアウトブレイクを起こすような菌のようです。
恐ろしい・・・。

経験した事例

個人情報保護および守秘義務の観点から詳しくは記述できません(すみません)。
ある患者の入院時の尿培養からProvidencia rettgeriが検出され, 院内微生物検査室での簡易検査では,  メタロ-β-ラクタマーゼ (MBL)産生菌であることがわかりました。
感受性はMBL産生菌なのでカルバペネム系抗菌薬を含む抗菌薬はほぼ感受性を示さなかったですが, タゾバクタム/ピペラシリンのみ感受性を示す傾向がみられました。また, 前述のProvidencia rettgeriの特徴とは異なり, アミカシンの感受性はなく, ゲンタマイシンには感受性を示し ( ただし, ゲンタマイシン: MIC=4でSのブレイクポイント上限), ST合剤にも感受性を示さずというような感受性パターンでした。

MBL産生菌とは?

MBL産生菌とはカルバペネマーゼのうち, Ambler分類ではクラスBに含まれるもので, IMP型 (日本での検出が多い), NDM型 (インドでの出現が新聞報道等過去にされ有名), VIM型が含まれます。
今回経験した症例では上記のうち, どの遺伝子型が有しているカルバペネマーゼかは不明です (院内では簡易検査までしかできなかった)。
MBLの特徴については下記の図に簡単ですがまとめています (図の参考資料と本文の参考資料の番号はそれぞれ独立していることはご承知ください)。

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今回経験した症例ではどういうアプローチをすれば良いか?

何度も記載するようですが、症例の詳細は記載できませんが、結石性尿路感染症と診断され, 入院時より, タゾバクタム/ピペラシリンを投与されていました。
入院後, もともと入院時より留置されていた尿道留置カテーテルは入れ替えを行われ, 膀胱鏡の結果, 結石の嵌頓もなかったとのことでした。

ICNから相談を受けた時点では, 幸い発熱を認めず, 尿量もある程度確保できている状態でした。
抗菌薬加療としては, 耐性グラム陰性菌の治療ガイダンス[1]を参考にするとセフタジジム

前述のとおりの感受性パターンであったため, セフタジム-アビバクタム+アズトレオナム、またはセフィデロール単剤での治療が推奨されています。しかし, これらの薬剤は日本で入手が困難なものが含まれており, このままでは治療オプションがない状態です。
ガイダンス[1]では, 併用療法は推奨されていませんので, 併用療法も考慮できない .
そういう点を考えると、今回、たまたま使用されていた、タゾバクタム/ピペラシリンでの治療を継続するというのが抗菌薬加療のオプションとして考えられました。

まあそもそも, 入院後早急に状態の改善を認めており, 輸液負荷だけで経過をみるという方法を考慮するということも提案しました。

では, 他にオプションはあるかという点です。

日本では, 多剤耐性グラム陰性菌に対して, チゲサイクリン (商品名:タイガシル)やコリスチン (商品名: オルドレブ)が使用可能です。

コリスチンはどうしても使用しないといけない状況であれば, 副作用に留意しながら使用の考慮をしても良いかもしれません。

しかし, チゲサイクリンは, Providencia属には無効とされています[4]。
このため, チゲサイクリンはProvidencia rettgeriの治療オプションとしては選択できないということになります。

最後に

いかがだったでしょうか?
CREの治療に関しては, 日本国内ではまだまだ治療オプションが少ないことが問題です。
また, 医療従事者が利用可能な日本独自のCRE (カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌: CPE)の治療ガイドライン的なものも存在していません。
2020年10月現在では, CREやCPEに対する治療方法の正解はなかなか見つかりません。
このため、各施設の感染症診療に精通している医療従事者が情報を集約し,検討していくしかほかないと考えます。

参考資料

[1] Pranita D. Tamma, et al.Infectious Diseases Society of America Guidance on the Treatment of Antimicrobial Resistant Gram-Negative Infections. (https://www.idsociety.org/practice-guideline/amr-guidance/)
[2] 抗菌薬インターネットブック (http://www.antibiotic-books.jp/germs/53)
[3] O'Hara CM, Brenner FW, Miller JM. Classification, identification, and clinical significance of Proteus, Providencia, and Morganella. Clin Microbiol Rev. 2000;13(4):534-546. doi:10.1128/cmr.13.4.534-546.2000
[4] 日本化学療法学会. チゲサイクリン適正使用のための手引き作成委員会, 『チゲサイクリン適正使用のための手引き2014』(http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/chigesaikurin2014.pdf)


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