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日本人 (成人)でのバンコマイシン母集団薬物動態に関して (PMID: 9558127)

本記事は、主に医療従事者向けに記載をしております。
また、本記事の内容は、私個人が書いていることで、私の所属している施設などとは一切関係がないことを併せてご承知の上、記事をご覧ください。

はじめに

またまた、自分の趣味でいまやっている研究の関連で、バンコマイシンの論文を読み漁っている最中です。

前回の記事に過去のバンコマイシンに関する記事のリンクを貼っているので参考にください(毎度毎度、縦に長くなるので省略します)

今回は、バンコマイシンの論文で日本では最も有名な (嘘かも・・・)論文かなと思うものを読みました。
今回読んだ論文は、日本化学療法学会が作成して、会員向け (2020年12月現在)に公表しているバンコマイシンTDMソフトウェアPATver.1.0の母集団パラメータにも用いられているとのことです。

今回読んだ理由は、ソフトを用いていると、バンコマイシンのAUC、CL、Vdなどを算出してくれるんですが、今までの解析ソフトで見ていた様な値と異なるというか、違和感があったことと、上記ソフトの薬物動態パラメータの算出方法 (コンパートメントモデル等)が記載されていないことなどから、その辺りを深堀したくて読んでみました。

今回読んだ論文タイトル

Yasuhara M, et al. Population pharmacokinetics of vancomycin in Japanese adult patients. Ther Drug Monit. 1998; 20: 139-48. doi: 10.1097/00007691-199804000-00003. PMID: 9558127.

内容の要約スライド

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上記が私なりにまとめた、論文の要約となります。

個人的に気になっていた点と論文を読んで解決したこと

不思議だったのは、論文自体が20年以上前の論文なので、当時は普通だったのかもしれないですが、PMSデータを利用って書いてあったので、2次利用?で論文を書いているようでした。(解釈が間違っているかも)

この報告で、もう1点違和感があったのは、考察の部分で、結果に記載するような内容 →方法にも書いていないようなものを考察でいきなり記載していたりして、本当にこれは良いのか?と思いながら読んでいました。
(私の経験値が少ないだけかだとは思いますが、昔はそれがまかり通っていた?)

この論文で私の疑問が解決しました。

まず、Vdの部分。
化学療法学会のソフトを使うと、多くの症例でV=60 L/body程度で算出されます (ソフト上の表記はLで記載されています)。ソフト上のVがVssなのかVcなのか、なんなのかが定義をされていないんです。
だから不思議だったんですが、論文の内容を読んで、この結果がVssが60.6 Lと算出されていたようなので、やむなしかなと。

あとは、半減期の件。これも、日本化学療法学会のソフトでは、自施設の患者群のデータを用いて解析を行ってみたんですが、腎機能が良い患者群で10時間を超えているという状態でした。
下記はシオノギのバンコマイシン点滴静注用の添付文書のデータです。

スクリーンショット 2020-12-13 0.23.14

上記の表を見ていただいたらわかりますが、半減期 (β)は健康成人で3時間、腎障害A群でも7.4時間なんです。
しかし、自施設の腎機能が良い患者群で見てみると、上記のとおり、10時間を超えている・・・。
これにすごく違和感があったんですが、前述のスライドにも示していますが、今回読んだ論文では、CLcr=85 mL/minの症例で、半減期 (β)は約12時間ということで、添付文書の内容と解離はしていますが、自施設のデータには近いかなということで、これも理解はできました。

ただ、日本化学療法学会のソフトで出した半減期との解離がまだあるので、これが本当にβ相だけのデータなのか、α相も含むものなのかは謎です。
(早く、この辺りの公表をして欲しいものですが・・・)

今回、論文を読んでわかったのは、85 mL/minをカットオフ値として、薬物動態パラメータの算出方法が違うこと、推定CLcrは130 mL/minを超える場合は、一律130 mL/minとみなしているようであること。

あとは、この論文では、AUCの算出については触れられていませんでした。日本化学療法学会のソフトでは、改訂分でAUCガイドに変えるようなので、当然のようにAUCを算出していますが、算出方法を明らかにして欲しいなと。。。

色々な背景を確認しながらソフトを使用しないと、誤った解釈をしたり、ソフトに数字を入れて、数字を追うだけの薬剤師になってしまったりしてしまうなと心配ですね。

おわりに

今回もバンコマイシンの論文に関して読んでしまい、いつもの記事と違うこととして、日本化学療法学会が公表しているバンコマイシンの解析ソフトの薬物動態パラメータの算出で気になる部分を少し掘り下げてみました。

母集団パラメータに持ちている論文の内容を読めば解決するだろうと思いましたが、自分の知識不足も相まってだとは思いますが、解決しない部分もありました。

今後 (来年早々?)、TDMガイドラインが改訂される予定のようです。批判をするつもりは微塵もないですが、現在使用している会員のためにも、ソフトで算出した薬物動態パラメータの算出方法についての解説を早めに出していただけると、私のように中途半端にしか薬物動態を理解していないけど、違和感や疑問を持ちながら使用しているものとしては助かるなと思いました。

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