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《オフィーリア》 -ジョン・エヴァレット・ミレイ


モルヒネ
−ケシの未熟果実に傷をつけて得られる白乳色の液体を固めてたアヘンから精製するアルカロイド。オピオイド拮抗作用がありガンなどの疼痛管理に使用される。

私たち薬剤師には非常に馴染み深い薬であり、
多くの患者さんを救ってきた素晴らしい薬。
モルヒネが精製されるケシは、実はとても可憐で美しい花だ。

ケシの花が印象的な絵画に、ミレイの《オフィーリア》がある。

《オフィーリア》 ジョン・エヴァレット・ミレイ

初めてのこの絵を見たとき、
私は息ができなかった。

こんなにも美しく儚いものを見てしまったという背徳感と高揚感は忘れられない。
外気に触れさせると穢れてしまうような儚さで
私はこの絵を飾らずに閉まって、時折こっそりと眺めていた。

オフィーリアはラファエル前派の中で最も人気のあったジョン・エヴァレット・ミレイの晩年の作品だ。

オフィーリアはシェイクスピアの戯曲ハムレットの一節を切り取っている。
恋人のハムレットが誤ってオフィーリアの父を刺し殺しまったショックから発狂した末、川で溺死してしまう。

「すてきな花輪を、垂れた枝にかけようと、
柳によじ登ったとたん、意地の悪い枝が折れ、
花輪もろとも、まっさかさまに、涙の川に落ちました。

裾が大きく広がって、人魚のようにしばらく体を浮かせて
―そのあいだ、あの子は古い小唄を口ずさみ、自分の不幸が分からぬ様子―

まるで水の中で暮らす妖精のように。
でも、それも長くは続かず、服が水を吸って重くなり、
哀れ、あの子を美しい歌から、
泥まみれの死の底へ引きずり下ろしたのです。」

オフィーリアの死は、文学史上最も美しい詩的表現として賞賛されている。

オフィーリアの美しさを際立たせているもの中に赤い花は、ケシの花。
ケシの花は眠りと死の象徴だ。

オフィーリアはまどろみの中、絶望とも幸福どちらとも言えない表情で死に沈みゆく。


オフィーリアの絵のモデルになったのは、ラファエル前派で活躍したエリザベス・シダルという女性だ。
彼女は恋人のロセッティ(ラファエル前派の一人)の浮気関係に憂い、最期には家庭薬だったアヘンチンキの過剰摂取で死んでしまう。

オフィーリアを見ていると、そのモデルとなったエリザベス・シダルにも思いを馳せてしまう。