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[投稿|レビュー]色彩、形態、象徴 櫻井伸也展「AZZURRI」(GALERIE PARIS)|上田和彦

《united colors》、2016年、ミクストメディア、30×30 cm

《united colors》、2016年、ミクストメディア、103×72.5 cm

《united colors》、2013年、ミクストメディア、91×91 cm

五月の良く晴れた日に、横浜のGALERIE PARISでの、櫻井伸也展のオープニングへ伺う。作品は自然光に照らされ、周囲の白壁へと、色彩を放射している。作品が光を受け止める時、絵画が生み出された場所、此処ではない何処かを強く暗示させる。それは単純に、場所による光を透過させる環境の違いを示しているだけではなく、絵画は常に、ひとつの光源(太陽)が見せる、複数の、一回的な経験を伝達していることを意味する。

水玉等の柄をプリントした支持体に、濃厚なメディウムを混ぜた油絵具によって、有機的な形態を充填し、絵具が完全に固まる前に、象徴的な形象(十字や髑髏等)を型押すという手法は、昨年までと同様だが、今回は青(AZZURRI)を大きなテーマとしている。加えて、型押しによる象徴的テーマを画面の内部に沈潜させるために、オールオーヴァーで、スタティックな画面構成を採用していたこれまでとは異なり、キャンバスはコンポジションによって複数に分断され、複数の青や緑などの近傍色によって、明快でありながらも、複雑な階調が作られている。それらによってもたらされた画面の流動性は、昨年の作品のような、カラフルでありながらも抽象的で無名的世界が広がる印象を離れ、地中海的な海の感触のようなもの(土地に根差した色彩や明るさや風のような)を具体的に感じさせるものだった。

生まれ故郷のHIROSHIMAを念頭に置いたキノコのような形象、海を思わせる青と十字架や髑髏など、櫻井の絵画においては、常に生と死を巡る記号的象徴が、色彩と形態の律動的な運動によって、互いに激しく入れ替わりながら、複数のキャンバスを移動し、往還してみせる。近年の、象徴性に対して、抽象性が勝った画面展開は、作品の強度を増すことに貢献していた。そして、今回の流動的な画面展開は、強度を増したキャンバスを、もう一度象徴性が渦を巻く、画家の心的世界の根源へと立ち返らせるもののように感じられた。形式的な造形の道筋が周到に準備されながらも、内容を失わない(むしろせり出してくる)稀有な画家だと思う。



上田和彦|UEDA Kazuhiko

1975年東京生まれ。画家。共著に『組立-転回』(編著、2014年)、『ラッセンとは何だったのか? 消費とアートを超えた「先」』(フィルムアート社、2013年)など。論文に「芸術の価値形態」『組立 ART Infrastructure』(2009年)、「方法としての反復」『ART CRITIQUE』n.02(2012年)、「ジャクソン・ポロック 基底面の攻防」『kader0d』vol.7(2012年)など。


展覧会情報

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