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オケ団員の給料が低いのは、なぜ?

なぜオーケストラ団員の給料が低いのか。これは私が長年思っていたことです。オーケストラ業界から他業界に転職して、気づいた事、お金にまつわるアレコレを、年末の第九の季節に寄せて、綴ります。

◇オーケストラ団員の給料って、妥当なの?

多い団体で年に160回以上の演奏会をこなすプロオーケストラ。奏者によっては、1か月にオフは1日なんてこともあり、その業務の質と多忙さの割に、給料は決して高いとは言えません。

そもそもオーケストラ団員になるためには、小さい頃からレッスンに通い、楽器を購入し日々練習、有名な教授に師事して、音大入学、そして大学卒業後には留学したり、時には100倍以上の競争を突破し…ようやく就くことができるのです。

本人の卓越した努力と才能はもちろんのこと、こんなにも労力とお金がかかっているのに、この給料って理不尽じゃないの?と常々思っていました。

誰もがなれない=市場価値が高いんじゃないの??

例えばコンサルティング業界の人達って、会社に入るまでも入ってからも競争率は高いけど、その分給料も高いよ??(その分たくさん働いてるから残業も多いけど…)

オケ業界もコンサル業界も、人が提供するサービスで対価をいただく点では同じです。それなのに、属する人々の給料は大きく違っています。

日本では、オーケストラ連盟の正会員(プロオーケストラとして登録されている団体)は25、準会員を含めるとその数は36です。その中で、上場企業のような給料や福利厚生と比肩できるところは、ほんの一握りではないでしょうか。

運営方法にもよりますが、自治体の外郭団体や、放送局が母体のオーケストラなどでは、雇用待遇は比較的良好です。

一方、民間の(自主運営の)オーケストラでは、経営状況や方針によってかなりの格差があり、在籍◯年で世間の新入社員の平均年収を下回る場合も…残念ながらあります。

そもそもオーケストラの演奏家って職業なの?と世間の人に疑問に思われることもあります。もちろんプロであれば、演奏をしてお金を得る、つまりオーケストラから固定給が支払われているのですが、ご存知ない方も多いのです。

◇では、オーケストラはどうやって収入を得るの?

オーケストラとしての収入は大きく分けて以下の4つに分類されます。

1 チケット収入

主催する演奏会(自主公演、あるいは主催公演とも言います)の、チケット売上です。例えば、平均チケット単価4000円として、2000席が完売したとすると、1公演あたり800万円の売上となります。

主催公演の数は団体によってまちまちです。演奏会ごとの収支を見ると、人件費、会場費、販売促進費など費用がかさみ、赤字になることも多いため、お金が潤沢にあるオーケストラほど自主公演の数も多くなります。

2 助成金と寄付金(あるいは母体から支払われる運営資金)

赤字の主催公演に関して、文化庁や各種団体に申請し、趣旨が合えば、助成金をいただくことができます。同時に、個人や法人からも広く寄付金を募ります。

あるいは、母体となる放送局や自治体から年間の予算が最初から充がわれる場合もあります。

3 コンサート収入

主催公演以外の演奏会は、依頼公演と呼ばれたりします。これは、ホールや企業に1回、ないし複数の演奏会を購入していただくものです。この場合、オーケストラには「演奏料」が支払われます。場合によっては、企画を一任され、マネジメント料として別途手数料をもらう場合もあります。

4 その他

グッズやCDなど商品を販売するほか、放送料など演奏の二次使用で得る収入もあります。

◇1人1時間当たり、稼ぐ効率は?

オーケストラが収入を得る際、効率が良いのか悪いのか?オケ業界とコンサル業界を比較してみます。

3 コンサート収入の場合を例に、団員1人が1時間あたりで得られる金額を考えてみます。

まず、依頼元(劇場や企業などの主催者)に1回の演奏会を500万円で買ってもらうとします。
大きめの編成で演奏員、事務局員、ステージスタッフ含め100名が稼働。練習は前日4時間、当日は12時からゲネプロ開始、休憩後本番で5時終わり、計9時間の稼働とすると、

1人1時間あたりの稼ぐ力は、
500万÷100人÷9時間=5555円。

(※全員が揃う練習時間だけを計算。譜読みなどの個人練習の時間は含まれません。)

在籍30年でも首席奏者でも、一律です。曲の編成が標準より大きく、人数が多い場合は、実費に基づき標準価格に上乗せして請求することはありますが、若手演奏員が多いから売値を安く、とか、ベテランが多いから高値で、ということはできません。

一方、コンサル業界の場合。パートナー(役員)クラスの人が、企業にチャージする(=収入として得られる)のを1時間10万円、一番職位の低いスタッフでも1万円とします。企業の予算によって、このチームの構成員を調整できるため、予算がある場合は、パートナーレベルの稼働を高く、予算がない場合はスタッフレベルの稼働を多くするようチームを組むことができます。
つまり、1人1時間あたりの稼ぐ力としては、1万円〜10万円。

このように、オーケストラの稼ぎ方は決して効率が良いものではなく、収益を上げにくい構造なのです。コンサルの例と比較すると、約2倍から10倍の差があります。そしてこれは、およそ各々の年収の差に相応するのではないでしょうか。

※上記の数字はあくまでも一例です。

◇お金だけではない、やりがい

ただ、オーケストラの存在意義って必ずしもお金じゃなくて、芸術性、創造性、公益性そして教育目的など多岐に渡ります。演奏家にとっても、良い音楽を奏でることこそやりがい、喜び、存在意義となる…のであれば尚更、収益を上げることのみを追求する訳にはいきません。

雇用待遇の改善が進み辛いのは、次のような理由があるのではないでしょうか。

そもそも音楽を続けられる人というのは、金銭的に余裕がある方が多いです。

また、オーケストラのポストは限られているため競争率も高く、給料が低くても入団したい人はたくさんいます。

そして団員は空いた時間に、大学の講師なり、スタジオの録音の仕事、他の演奏の仕事を行い、給料の他に、副収入を得ることは可能です。

このような理由で、何が何でも改善が必要だ!革新的に取り組もう!という状況にはなりにくいのではと思います。

◇でもやっぱり、給料を増やしたい…

オーケストラ団員の給料を上げるには、どうすれば良いのか?それはオーケストラの収入を増やすか、支出を減らすかですが…具体的な方法については、別の機会に考えたいと思います。

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