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こうして僕は初めて「アート」を買いました。

私は数年前まで「ギャラリー」と呼ばれるような場所に足を踏み入れるような習慣はありませんでした。おそらく世の中の多くの人がそうであるように。家は賃貸の集合住宅ですし、アートの良し悪しもわからない、大して教養もない私にとって、「ギャラリー」という場所は縁のない場所、住む世界が違う人たちのための場所、だと思っていました。

絵画を買って家に飾るような人は、お金に余裕のある、優雅な暮らしをしている人というイメージ。また、失礼ながら「絵画の売買」ということ自体に、ある種の「胡散臭さ」も感じていました。

その感覚の原因は、バブル時代、投機目的での売買と思われるニュースが飛び交っていたからでしょうか。あるいは、真贋が論争になるというアート特有の事情からかもしれません。 アートの売買自体、騙し合いのようなもので、そんなものに関わりたくないなぁ、と。

しかし、美術館で働き始めると、その感覚が誤りであったことに気づくのです。

例えば、美術館の窓口に、ギャラリーでの展覧会の告知ハガキを美術館に置いて欲しい、という方が来られます。胡散臭くもなければ、高飛車でもなく、どこにでもいそうな普通の方です(当たり前ですけど)。むしろ、丁寧で控えめ過ぎて、こちらが恐縮するほどの方もいらっしゃるくらいです。

さらに、ギャラリーを運営する方と話す機会も出てきます。彼/彼女らは一様に、「もっと多くの人にアートの楽しみを知ってほしい」とか、「この素敵な若手アーティストを育てたい」という熱意にあふれています。それは、真っ当な会社が自社製品を愛し、社会がもっと便利に、人々がもっと幸せになるように、という想いで仕事をしているのと、なんら変わりがありません。

先日、4回目となる『ART FAIR ASIA FUKUOA』(2018.9.7-9)が福岡で開催されました。

ホテルのワンフロアで、国内外の37のギャラリーが各客室を使ってアート作品の展示販売を行うものです。

美術館にも案内が届くので、私も一昨年、第2回目の時に初めてのぞいてみました。タキシードやドレスに身を包んだようなセレブが集まるような雰囲気だったらどうしようとドキドキしながら。

そこは、美術館とも、ギャラリーとも違う雰囲気でした。まずは、おそろしく、狭い!そりゃそうです。シングルルームなんて、大きなベットに最低限のテーブルがあるだけで、余裕のある空間なんてほとんどありませんから。そんな空間を各ギャラリーが思い思いに工夫して展示している、その様子を見るだけで、「手作り感」が伝わって、温かい気持ちになります。

ふかふかのベッドの上に、ポンっと作品を置いたり、ベッドを壁に立てかけて広い空間を作ったり、シェルフの扉を少しだけ開けて、外からちらりと作品が見えるようにしたり、洗面所の洗面台の中に作品を置いたり…。

限られたスペースの中で、それぞれのギャラリーが選りすぐりの作品を出品しています。油絵、日本画、彫刻、工芸など種類も様々。風景や人物や抽象やファンタジーなど、作風も様々。正直、よく理解できない作品もありますが、「お、これ、いいな〜」と思うものもあります。

そして、美術館と違うところは、「これ、いいな〜」と思った作品を、お金さえ出せば自宅に持って帰れるんですよ!

さすがに何十万もの値が付いていると、美術館同様、ありがたく鑑賞させていただくだけで満足するのですが、数万円という値を見ると、ちょっと考えます。服を買うくらいの値段じゃないですか…。

そう、「服を買うように、アートを買いませんか?」ということなんです。店で「あ、これいいな♪」と思うものを、買っちゃって、持って帰ればいいんです。

そうして、ひとつのアート作品を「自分のもの」として持ち帰ることで、愛着が生まれます。家に飾って毎日眺めていると、自分の心の有り様で、見え方が違ってきます。アートは、自分を映す鏡になります。そして、さらに愛着が生まれます。

そして、今年もまた、アートフェアに行き、ひとつ、自分の家にアート作品が増えました。今年、購入した作品は、昨年、中学生の息子と一緒にアートフェアに行った時に息子が気に入った作品。その時は我慢したんですけど、今年も同じ作家の作品が出品されていたので、買っちゃいました。

去年、アートフェアに息子を連れて行ったものの、そんなに喜んだ風でもなかったのです。そんな作品のことなんて息子は覚えてないかも…と思い、家に帰って「去年、気に入ったって言ってたやつ、覚えてる?」と聞いてみると、「あー、あれやろ。」と、意外にもちゃんと覚えていたのにはびっくりしました。子どもにアートに触れる体験をさせるというのは、時に反応がパッとせずあまり役に立たないかなと思うのですが、やっぱり子どもの感情のどこかに残るものですね。

こうして、私はアートを買いました。

美術館に行くだけではない、こんな「アートの楽しみ方」も、たくさんの人に知ってほしいな〜と思います。それが、アートファンのすそ野を広げ、アーティストが育ち、自分が買えないような貴重な美術品を鑑賞できる「美術館」の必要性を多くの人に理解してもらえることにつながるものと思います。
そして、それこそが、ギャラリーと公立美術館との健全な関係だと思うのです。

写真提供:西山健太郎さん(福博ツナグ文藝社)

「ART FAIR ASIA FUKUOKA」については、こちらの、実行委員長であるGallery MORYTAの森田さんのインタビュー記事もご参照ください。