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金属材料の強化手法と転位の運動について 〜1〜

今回は金属(材料)を強化する方法について見ていきます。例えば、鉄鋼系統の金属は多くの構造物に使われる基礎的な存在です。そして、構造物を安全で長持ちさせるには、強化手法の理解が必要不可欠です。

金属の強化手法には「加工硬化」・「析出強化」・「固溶強化」・「結晶粒微細化」の4つがあります。ミクロな視点で見ると、いずれの方法も「転位」の運動を抑制することが共通します。

今回は手始めに「加工硬化」について紹介します。

金属の性能を表す指標

一般的に金属(材料)の性能を調べることを目的に、試験機と試験片を利用した引張試験が行われます。引張試験を通して「応力ーひずみ線図」を描き、各種性能(指標)と照らし合わせます。

現実に描かれる「応力ーひずみ線図」はもう少し複雑ですが、概形は下記のグラフのようになります。

応力ーひずみ線図から確認できることのひとつは、弾性変形から塑性変形に遷移するタイミングを測る「降伏強度」です。または、破断までの最大応力を測る「引張強度」です。これは「強度」として評価します。

もうひとつは、試験片が破断するタイミングでの変形量を測る「破断ひずみ」を確認します。これは「延性」として評価します。

このふたつが金属(材料)の性能を調べるための、主な指標です。一般的に、強度と延性はトレードオフの関係にあることが知られていて、どちらを優先するかは状況によりきりです。

転位の運動と相互作用

引張試験で描かれる「応力ーひずみ線図」はマクロな視点で見た金属(材料)の性能評価です。これを理由付けて説明するには、ミクロな視点が必要になります。その際に使われるのが「転位」という存在です。

転位の説明は、以前の記事に詳しく書いています。簡潔に言えば、塑性変形を起こす際に必要不可欠な線欠陥であり、この運動が塑性変形の進行に役立ちます。

ミクロな視点で塑性変形を説明することは、金属の性能を原理に則して表すことにつながります。改めて、金属の塑性変形の過程(転位が発生・運動すること)を示すと、下記の通りです。

塑性変形が起こる初期の頃に、転位が増殖して様々な所で発生します。転位単体の運動や転位群による相互作用を見ることで、塑性変形の状態を理解するのです。

ここからは転位に着目して、金属の性能向上がどのような過程を踏まえて行われるか見ていきます。

金属材料の強化手法 〜加工硬化〜

加工硬化とは、金属が塑性変形を起こしながら硬化する現象です。一般的にどの金属でも見受けられる現象でもあります。

すでに説明した通り、金属の塑性変形は転位の運動により発生します。そして、元から存在する転位が運動するだけではなく、塑性変形で生じたひずみにより、新たな転位も生まれます。

このように転位が次第に増殖して、金属内部で転位が密になると、転位は互いに絡み合います。これはあやとりと似ていますが、転位が絡み合うと、転位自身が動くことが難しくなります。つまり、絡み合う転位群を動かすためには、より強い力が必要となるのです。

塑性変形の進行とともに転位群が徐々に絡み合い、塑性変形に対する抵抗が強くなることを「加工硬化」と言います。なお、転位はあくまで欠陥なので、転位が増殖し切ると金属は破断に向かいます。

おわりに

今回は金属(材料)の性能を評価する指標について、マクロとミクロの両方から見ていきました。また、金属の強化手法として「加工硬化」に関して、転位の運動などの原理に基づいて説明しました。

加工硬化には様々な硬化則が存在しています。これは物理的と同時に数学的なモデルでもあるので、ここでは説明を割愛しますが、機会があればまたお話ししたいと思います。

次回は「析出強化」「固溶強化」について、また転位の関係から説明します。

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