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06_ 細胞外小胞:EVって何だろう?

EVは細胞が出す小さなカプセルです。このカプセルには出発細胞のメッセージが入っていて、血流に乗って全身をめぐります。EVのメッセージは特定の細胞が受け取ることができると考えられていて、臓器間のコミュニケーションが行われることによって健康が維持されています。
しかしEVの中に入っているメッセージには、良いものと悪いものがあります。

細胞外小胞:EVは、正式な総称

EV(細胞外小胞;Extracellular Vesicles)はすべての細胞が出すナノ粒子で、細胞間のメッセージを運んでいます。EVは2012年に学会(国際細胞外小胞学会;ISEV)が定めた正式な総称です。エクソソームは、動物や植物の細胞(正確には真核細胞)から放出されるEVのひとつで、EVにはエクソソームのほかに、細菌が出す膜小胞(MV;Menbrane Vesicle)など、様々な名前で呼ばれてきたものがあります。

一般に、細胞外小胞として分類されているのは、エクソソーム、微小胞(MV)、アポトーシス小胞があり、細菌由来の膜小胞(MV)は出てこないことがあります。実際は、体液中にはエクソソームも微小胞も流れていて、腸内細菌が出す膜小胞もあります。これらは区別することができません。

2012年に設立された国際細胞外小胞学会ISEVで、EVの研究方法の基準づくりが進んでいます。EVは非常に小さいので、分析の仕方などを細かく決めないと、EVの効果なのか、ほかの成分の効果なのかわからなくなります。ISEVが設立されてまだ10年余りですが、論文数がうなぎ上りに増加しています。そのほとんどは、エクソソームに関する研究です。

若返り美容やアンチエイジングで話題となっているエクソソーム

エクソソームは、いったん細胞内の袋(エンドソーム)に入った小胞が細胞の外に放出されたものと決められています。ヒトが出すEVには、エクソソーム以外にも、細胞から直接出芽して飛び出す微小胞(MV;Micro Vesicle)やアポトーシス小胞があります。

エクソソームはいったん細胞内の袋に集められてから放出される

エクソソームにはマイクロRNA(miRNA)やメッセンジャーRNA(mRNA)、タンパク質などが内部に包まれています。これらの積み荷が若返り効果などの作用を生むと考えられています。

しかし、いいことばかりではありません。エクソソームの大事な役割のひとつは、細胞内の老廃物を運ぶことなのです。たとえばエクソソームの中にはα-シヌクレインが含まれていたり、膜にはアミロイドβやタウタンパク質、異常プリオンなどが含まれることがあります。

これらの変性タンパク質を含むエクソソームは、血液脳関門を越えて脳内に入り、パーキンソン病やアルツハイマー病、プリオン病などの神経変性疾患を発症させることがわかってきたのです。

エクソソームはこれらの病気の原因となる一方で、これらの変性タンパク質を取り除いて神経を保護する役割も果たします。エクソソームは両刃の剣なのです。

エクソソームの構造

細菌由来のEVは細胞の膜から直接放出されます。細菌由来のEVは膜小胞(MV;Mebrane Vesicles)といわれてきました。
最近はBEV(Bacteria EV)ともいわれています。下の表はエクソソームと細菌由来EVの比較です。
細菌由来EVについての最近の話題では、「腸-脳軸」が一番でしょう。日本語では「脳腸相関」という言葉を使います。これは腸内細菌が脳に重大な影響を与えていることを示しています。

腸-脳軸

大腸菌などの多くの腸内細菌は、アミロイドβやα-シヌクレイン、異常プリオンなどの変性タンパク質をつくることがわかってきました。しかもそれはエクソソームに乗って脳内に運ばれていることが確実と考えられています。その結果、アルツハイマー病やパーキンソン病、プリオン病などが引き起こされる原因になっている可能性があります。つまりエクソソームと思われているものに、腸内細菌由来のEVが含まれているということです。

エクソソームと細菌由来EVの比較

次回の予定

07_若返り美容で人気のエクソソームは、老化のリスクがある?
今回はエクソソームと細菌EVを比較してみましたが、どう感じられましたか。最先端の技術には表と裏があるので、すぐ飛びつかずによく調べることが必要ですね。
先行しているエクソソームも、実際はいろいろと問題を抱えています。いわゆる培養上清には、エクソソームのほかにも老化物質が含まれていたり、がん細胞から出たエクソソームも含まれる可能性があります。次回はその話をします。

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