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これからのエピファネイアの話をしよう

 先日、突如降って湧いた様に現れたエピファネイア産駒デアリングタクトが40年ぶりに無敗、3戦目での桜花賞制覇を飾った。デアリングタクトはそれ程有名ではない中小牧場でその生を受け、セレクトセールに於いて僅か1300万円で取引された競走馬(例えば、アドマイヤビルゴは6億)。この事からも新種牡馬エピファネイアのポテンシャルの高さが窺える。

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2013年、エピファネイアは、自身のダービーにおいては奇しくもキズナの後塵を拝する結果となってしまった。しかし、種牡馬としてのダービーでは、そのキズナに一先ず土をつける形となった。

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 エピファネイアは、母シーザリオの影響か、前進気勢が非常に強く気性のコントロールが難しい。そのため、馬体が気持ちに追い付く3歳の秋まではレースにおいても取りこぼしが多かった。これは、エピファネイア自身が皐月賞、ダービー共に2着に敗れ、3歳秋の菊花賞において競走馬としての一応の完成をみた事からも明白であろう。

これはその産駒にも言える事で、エピファネイア産駒は、順調に一勝した後に惜敗が続き、勝目に遅く二勝目を飾る事が出来ない馬が多いのが現状だ。一方で、個人的には3歳秋以降は、馬体が完成し勝ち星を重ねる馬が更に増えると見込んでいる。また、これらには番組表の影響もあるだろう。2歳の段階では、2400m等の長距離の番組が存在していない。これから徐々に東京での2000mや2400mの3歳長距離戦の番組が増えるに連れて、エピファネイア産駒の成績は更に上昇するだろうと見込んでいる。

なぜならば、エピファネイア産駒は恐らく本質的には長距離を得意とする種牡馬、もっと言えば距離の延長を得意とする種牡馬であるからだ。

JRAに存在している種牡馬の中で、距離の延長を得意とする種牡馬は少ない。具体的には、ディープインパクトやハービンジャー等がそれに当たる。

3歳のクラシック戦線は、牡馬であれば、皐月賞(2000m)→日本ダービー(2400m)→菊花賞(3000m)と、前走からの距離延長を余儀無くされる。そのためJRAにおける種牡馬生命において、前走からの距離延長を得意とする事は非常に大きなアドバンテージとなる。


 エピファネイア産駒が恐らく距離延長を好むであろうと予想される根拠には、大きく二点挙げられる。一点目は、①父エピファネイア自身の競走成績、二点目は、②エピファネイアの血統背景である。

 ①一点目の父エピファネイアの競走成績に関しては言うまでもない、皐月賞2着、日本ダービー2着、菊花賞1着と距離延長を難なくこなしている事、そして4歳時にて、天皇賞秋6着からの400mの距離延長となるジャパンカップを圧倒的なパフォーマンスで制している事だ。また、エピファネイアの母シーザリオも桜花賞で敗れた後にオークスを制しており、また母父のスペシャルウィークも日本ダービーと天皇賞春、天皇賞秋からのジャパンカップを制している事からもエピファネイアの距離延長適正が窺われる。

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 ②二点目の血統的背景としては、エピファネイアは一般にロベルト系と呼ばれる父系に属する。このロベルト系は、豊富なスタミナを武器に昔から日本でその父系を拡大してきた一族である。

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先程上で例に挙げたハービンジャー同様、スタミナを武器に戦う産駒は、短い距離ではそのスタミナを遺憾無く発揮する事が出来ない。これは、例えれば、マラソン選手が200m戦でウサインボルトと戦って勝てる道理が無いのと同じである。その真価は、スタミナが要求されるレースになった時にこそ発揮されるのだ。

ここでこれを読んでいる人には一つの疑問が浮かぶかもしれない。ダービー・菊花賞を制した父の産駒が距離延長を好むのであれば、他のダービー・菊花賞を制した馬の産駒、例えばキズナの産駒も同様に距離延長が得意なのではないか?

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基本的にはそうだと言う事ができるが、これは正確ではない。誤解している人が多いのだが、距離延長が得意と一言で言っても、これは単純に前走より距離が伸びるという意味ではなく、より正確には、前走よりもスタミナが要求される流れを得意とするということである。そのため、重要となるのは種牡馬としての父にスタミナを担保する血統的背景が有るか、という点になる。三冠馬を排出したステイゴールドも、先程述べたハービンジャーも父系に存分にスタミナを担保する血統背景を有している。一方で、キズナはスピード型の血を母から積極的に取り込んでいるばかりで、キズナの血統背景にはスタミナを担保する血統が欠けている。よって、キズナは距離延長を好むとは一概には言えないのだ(もっとも、キズナは距離延長が不得意と言っているわけでは決してない)。

エピファネイアの凄さはここにある。つまり、豊富なスタミナを備えていながら、それをしっかりと東京コースでも通用するようなスピードに転化する事が出来るのが、エピファネイアなのだ。

恐らくここにはエピファネイアの馬体の作りが関係している。エピファネイアは他の馬よりも前駆が遙かに発達しており、そのため通常、馬は後駆で地面を蹴って走るのだが、エピファネイアはどちらかと言えば、前駆で地面を掻く様な走り方をする。その結果、スタートしてからのテンでの加速に優れ、先行し易く、先行できれば父シンボリクリスエス同様そのまま豊富なスタミナとスピードで押し切って勝ってしまう。

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また、エピファネイアの力の秘密にはその走り方も大いに関係していると考えている。エピファネイアはかなりのピッチ走法だ。これは恐らく、母シーザリオの母父サドラーズウェルズの影響だと考えているのだが、エピファネイアはストライドではなくどちらかと言うと、ヨーロッパの競走馬、例えばエネイブルの様にピッチで走るような走法を取る。そのため、小回りでタフな中山競馬場もこなすし、重い馬場も得意なのであろう。小回りタフな中山も、加えて先行できれば豊富なスタミナで長距離の府中も押し切ってしまい、重馬場もこなす。これ程万能とも言える種牡馬は後にも先にもそれ程出ないかもしれない。

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また、これを読んでくれている多くの人にとっては、ここからが最も重要かもしれないが、エピファネイア産駒の馬券における取捨としては、3点挙げられる。

一点目は、①芝であれば母方にサンデーサイレンスを持っている馬の方が良いであろう。これは後述するエピファネイアの種牡馬としての価値の高さにも関係してくる。現状では中山、上述した直線の長いコースの特に長距離戦、重馬場では特に狙い目かもしれない。また、中でも②母方にキングカメハメハの血を持っていれば直線の長いコース、東京、阪神・京都の外回りを大いに得意とするであろう。加えて、③中山コースでは母方にサンデーサイレンスを持たない馬も穴を空ける時がある。これは父シンボリクリスエスの影響か。

 ②の理由として、エピファネイア自身は、前駆で地面を掻く様に走るので、先行して得意な形に持ち込めば強かったし、これは産駒にも同じ事が言える。一方で、母系からキングカメハメハの血を取り込んであげれば、キングカメハメハの豊富な筋肉量によって後駆、主にトモの筋肉量が増えるため、溜めれば末脚も切れるようになる。これは直線の長いコースで有利となるであろうし、デアリングタクトは正にこのパターンだ。

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余談だが、サートゥルナーリアもリオンディーズもキングカメハメハを持っているため、シーザリオとキングカメハメハは個人的にニックスなのではないかと考えている。


 エピファネイアの種牡馬としての価値はこれからより一層上がるであろう。その理由としては、エピファネイアは日本競馬において最も重要なサンデーサイレンスのクロスを程良い加減で生み出す事が出来るという点にある。三冠馬オルフェーブルは、ノーザンテーストの4×3のクロスで走ったが、エピファネイアの産駒は、全産駒数のおよそ4分の3の馬がサンデーサイレンスの4×3のクロスを持っている。言ってしまえば、ほぼ全ての産駒がオルフェーブルになる素養を備えている事になる。その分気性のコントロールは一層難しくなるであろうが…。そのため、いつかエピファネイアから三冠馬となる様な怪物が生まれる日が来るに違いないであろうし、そう確信している。

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 また、日本競馬においては父ディープインパクトの繁殖牝馬にどれだけ種付け出来るかが、その種牡馬としての生命、ひいては今後の日本競馬全体の進歩にとって非常に重要となってくる。その為、レイデオロ、エピファネイアの様に、ディープの肌に迷う事なく種付けすることの出来る父系の活躍は、間違いなく今後の日本競馬の発展を占う上での分水嶺となるであろう。デアリングタクトの勝利、一先ずのエピファネイアの活躍によって、日本競馬の未来は明るそうだ。

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