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近づくほどに、遠い夏。


季節はもはや春を忘れて、随分と遠いあの夏へと続いていく。


夏とは、なんだ。


気温30℃では表せないシーンが、そこには沢山詰まっている。盆踊り、かき氷、海、線香花火、浴衣姿の君、溶けたアイスクリーム。

夏ってのは毎年訪れるけれど、それは随分と遠い。近付こうとすればするほど、遠く感じる。僕らは夏に囚われ、溺れていく。

そして何度も何度も、あの夏に戻りたいと願う。しかし、それはもう二度と訪れることのないもの。胸の中にだけ、記憶の中にだけそれは現れる。

僕たちは今を生きている。もう戻れないはずの今を。でも、今を捉えるのは本当に難しい。しかし、一度過去になってしまえば記憶というフィルムを通して簡単に自分を捉えられる。

本当は恵まれていたことを知り、本当は楽しかったことを知り、本当は伝えたかったことを知り、本当は幸せだったことを知る。

そして、後悔をする。何度も何度も記憶はあの夏を映し出す。印象のないシーンはカットして編集し、華やかな色レンズを何枚も重ねて上映するのだ。



きっと、これから先ずーっと思い出す夏。



そんな夏を、今年も過ごせるかな。



ま、ゆっくりいこう。



さくら


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