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桃源郷に秘められたシンボル。

*ブーティ村 ロマネスク様式のサンタマリアネーヴェ教会 *

ロマネスク様式の教会

両脇がオリーブ畑の急な坂道を、えっちらおっちら登っていきます。振り向くと山に囲まれたブーティ村が日の光を受け緑に浮かんでいます。

太陽を受けた銀色のオリーブの葉がキラキラ光り、無造作に掛かる梯子は、いままで剪定でもしていたのでしょうか。時(とき)を切り取ったような瞬間。

1500年代のメディチ家が農園として別荘を作る、たぶんずっと前からオリーブオイルを生産している、歴史ある土地です。大きく畝るような皺を持つ、立派な古木も目につきます。

オリーブの木々から、教会の後ろ姿が見えてきました。人里離れたところに建立されたロマネスク様式の教会。

ロマネスクって感じの後ろ姿に、ワクワクします。

ロマネスクというのは紀元1000年前後に現れた様式です。どっしりと背は低く、自然に溶け込むような素朴な姿で、そこに何世紀も佇んでいます。

自然に対する畏怖の念と感謝。それに信仰心を調和させたようなシンボルが石に彫られていることが多く、稚拙なその図象は微笑ましく、稚拙であるからこそ伝わってくる、人の温もりを感じることができます。

ロマネスク様式のあとに登場するのがゴシック様式です。ゴシック様式は神に近づこうと、空に伸びるように縦に高くなり、大きな街に建立されるようになります。彫られるモチーフも聖書から多く取り入れるようになりますが、ロマネスクは土着信仰の面影も残されていてプリミティブでシンプル。

さて、表に回ってみましょう。

オリーブの銀色の葉、山々の新緑のグラデーションと、緑の合間をずっと歩いてきたそこに、真っ赤な薔薇が目に飛び込んできます。

静けさのなかに佇む美しさ。まるで俗世とは別世界に足を踏み入れたようです。しばし心を無にして、この桃源郷のような世界に身を委ねます。

シンプルな教会を華やいで魅せる、香しき真紅の薔薇。どんな花でも、どんな薔薇の色でもこの教会には映えるけど、なぜ薔薇、なぜ真紅。自生なのか、それとも誰かが植えたものなのでしょうか。

この村の住人が、教会の周りを草むしりをしたり掃除をしたり、時には剪定をしたり、自然と人間が共存して、この美しさは保たれているのでしょう。

毎年変わらず初夏になると繰り返されるこの風景。時間と自然の紡ぐ美しさ。自然を尊重する人の美しさ。いろいろな美というものに思いを巡らせます。

風の通る気持ちの良い木陰に椅子を持ち寄り、ブーティ村を眼下に眺めながら、ひとりの時間を過ごしたり、近所友達と談笑を楽しんだり、この小さな広場は村人の憩いの場でもあります。

車はほとんど通らず、聞こえてくるのは鳥のさえずりと風の音。薔薇の香りが風に広がり漂います。

古代ローマ人の建設する劇場は、海が眺められたり丘の高台だったり、眺望が良く清々しい風が吹き抜ける場所に建てられていることが多く、自然の恩恵や美しさを取り入れながら、余興も存分に楽しめるように作られています。その演出効果に感心することしきりですが、イタリア人もその流れを汲んでいるのでしょう。

1000年代から1200年代にかけて建立された、サンタマリアネーヴェ教会。ネーヴェとは「雪」の意味。

夏に突然雹が降ることがありますが、それを当時の人々は「夏に降る奇跡の雪」と捉え、聖母マリア様の名前と掛け合わせて「サンタマリアネーヴェ」と命名された教会がいくつもあります。この教会もそのような由来を持つのかもしれません。

散りばめられたシンボル

ロマネスク時代、神はシンボルや幾何学模様で表されます。音楽も建造物も、数字で解析をすると、神聖な数や比率に基づいて作られていることがあり、隠された秘密のメッセージを解き明かすようで心を奪われます。

教会の扉口の上になにか彫られています。

薔薇の花

花弁の数が異なる花。「薔薇」でほとんど間違いはありません。薔薇はギリシャ神話では愛の化身ヴィーナスを表し、キリスト教になると「忠実な愛」となり、ときにマリア様を表し、ときに復活を表します。

蕾をつけ開花し枯れて地面に帰る。再び季節が訪れ、蕾をつけ開花し枯れて地面に帰る。永遠に繰り返される自然の営みを、復活とみたのです。

4枚の花弁と8枚の花弁の薔薇の花。

4の数字で構成されるものには、どんなものがあるでしょう。

世界を構成する四元素「火、水、大地、空気」
四季(春夏秋冬)
方位(東西南北)
→ 人間の世界。生きている世界。

8の数字で構成されるものには、どんなものがあるでしょう。

8を横にすると♾️になり無限大。時のない空間。そして宇宙。復活を表すこともあり、大地と空を結ぶ数字とも言われています。
→ 永遠の世界。神の世界。

花を囲む丸は宇宙を表し、神と人の世界を繋ぎ合わせます。

薔薇の上下の模様は、無限大のシンボルの繰り返しにも、植物の蔦のようにも見えます。終わりのない世界や復活を表しているのかもしれません。

サンタマリアネーヴェ教会の薔薇は真紅の色ですが、赤はキリスト教では「慈愛」を表現します。

ロザリオ(ペンダントが十字架になっている数珠)も薔薇という意味のローザ(Rosa)が元になっており、マリア様が頭に掲げる薔薇の花の冠からきています。

ゴシック様式の教会には薔薇窓が作られるようになりますが、この薔薇窓も同じ流れで表現されるようになったのでしょう。

そんな風に眺めてから改めて教会を見みると、美しさはもちろん、建立されたときの人々の想いも感じることができるのではないでしょうか。

教会側面の扉口の上にもシンボルが彫られています。

正面扉口の薔薇の上下の見られた無限大のようなシンボルを中央に、右と左と上に彫られているもの。

結び目

左側のシンボルは、古代ローマ時代にも用いられていた「ソロモンの結び目」とも「ゴルディアスの結び目」とも呼ばれています。誰も解くことのできない難解な問題。という意味でも捉えられていますが、ここは教会。

教会でのこの「結び目」は、大地と空を結ぶもの。丸みを帯びる4箇所は「誕生、成長、発展、死」という人の一生を表しているとも解釈されています。人は生まれ死を迎える運命ですが、時間は変わらず永遠に回り続けます。

中央に刻まれているのは星。星は空にあり、精霊を表すとも言われています。サンタマリアネーヴェ教会の星は5つの点で結ばれた正五角形。ペンタゴンとも呼ばれ、最も美しい比率で表現された黄金分割が至る所に隠されている神秘の五角形です。

紀元前ギリシャ時代のピタゴラスも愛したペンタゴン。古代ローマ時代崩壊後もなお、この正五角形を描くための計算術が脈々と引き継がれていたことにも驚かされます。

教会の扉は、俗世から神聖な場へと移るための境界です。その扉の上に、完璧に美しい正五角形の星が彫られているのは、精霊や神聖を表すものなのでしょう。

コンパス

右に彫られているのはコンパスです。なにを意味しているのでしょう?

教会を建立するにあたり事業を依頼された石工組合が、組合章として彫ったものとされています。

建築に必要不可欠な定規とコンパス。Wikipediaにはこう記されています。

中世ヨーロッパでは、建築はあらゆる分野の技術に精通する必要がある「王者の技術」とされ、建築学や職人の社会的地位は高かった。また、技術の伝承についても厳しい掟が設けられた。

この石工組合が、自分たちの技術を誇示するために、敢えて描くことの難しい正五角形を記したのかもしれないと、想像が広がります。

上述に参照したWikipedia。調べたキーワードは「フリーメーソン」。

フリーメーソンのシンボルのひとつはコンパスです。サンタマリアネーヴェ教会は実はフリーメーソンが関わった教会のひとつで、正五角形に秘密のメッセージが隠されていると、まことしとやかに伝えられている教会なのです。

キリストが磔刑に遭う前日に祈ったのがオリーブ山の麓にあるゲツセマネの園。オリーブ畑に建つサンタマリアネーヴェ教会は、キリストの祈りをも表現していのかもしれません。

教会と自然と妖精と。

教会からさらに奥へと進んでいくとジャスミンの香る小道に出会います。

ジャスミンの道を抜けると、そこは山です。木々の葉に太陽の光が落ち、涼しい日陰を作ってくれます。

「妖精の小さな滝」と「ナヴァレ泉」への入り口です。

小さな滝。出会えました。本当に小さくて見落とすところでした。この滝からナヴァレ泉へと続いています。

教会の鍵を管理している村の人があいにく外出していて、教会内部を見ることはできませんでしたが、代わりに、教会の裏手に泉があるから行くといいよ。と言われて、向かった妖精の住まう山。

日本では、神社の境内の周りに木々があり、そこに流れる美しい気を感じ清々しい気持ちになりますが、ブーティ村のサンタマリアネーヴェ教会と自然豊かな裏山も、それに通じるような気持ちの良い空間でした。

いつかまた、ロマネスク様式の教会へとご案内したいと思います。

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