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Q33 建築物の広告利用

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 最近、奇抜なデザインで有名になったある建築物の写真を加工して、当社の製品の広告を掲載した画像を作成し、インターネット上で公開することにはどのような問題があるか。自ら撮影した写真であれば問題ないか。

Point

① 建築物の著作権
② 建築物の写真撮影
③ 物のパブリシティ権
④ コラージュ
⑤ 第三者の写真の加工


Answer

1.建築物の著作権

 コラージュ写真の作成には、まず、自ら建築物の写真を撮影するかすでに存在する写真画像を入手する必要がある。建築物の写真を撮影することは、有名観光地では日常的に行われているが、実は著作権法上の検討が必要な行為である。なぜなら、建築物も著作物の保護対象として列挙されているためである(著作権法10条1項5号)。
 もっとも、すべての建築物が当然に著作物として保護を受けるわけではない。著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)であるから、「思想又は感情が創作的に表現され、美術の範囲に属する」といえる建築物だけが著作物として保護される。
 つまり、絵画の場合には子どもの描いた絵であっても創作性があるといいやすいのとは異なり、何の変哲もない四角いビルや普通の住宅といった建築物の場合には、そこに建築した者の創作性が表れておらず、著作物として保護されにくいという問題がある。
 建築の著作物として保護されるのは、城郭、宮殿、博物館などの建築芸術が多い。オフィスビルは通常であれば、著作物として保護される可能性は低いものの、新進気鋭のデザイナーによるデザインが、創作性の高い奇抜なデザインであれば、著作物として保護される可能性が高い。

2.建築物の写真撮影

 一般的に著作物を写真撮影し、撮影画像を利用する行為は、著作権を侵害する可能性がある。しかし、建築の著作物については、他の著作物と異なり、「建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合」を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができるとされている(著作権法46条2号)。
 したがって、著作物に該当する建築であっても、これを撮影してインターネット上に投稿することは著作権侵害とならない。
 なお、著作権とは関係ないが、撮影時には、どこから撮影するか、も重要である。当該建築物の敷地内に立ち入ったり、第三者の私有地に立ち入ったりする場合に、それぞれの所有者や管理者の許可が必要な場合があるためである。公道上からの撮影であっても、撮影に際して道路使用許可が必要な場合があることも注意が必要である。

3.物のパブリシティ権との関係

 著名建築物の場合、そのネームバリューや被写体としての価値を考えると、いわゆる物のパブリシティ権との関連で、無制限に利用を認めることは適切でなく、何らかの権利侵害を観念することが可能ではないかという考え方もある。
 物のパブリシティ権が認められるかについては、ギャロップレーサー事件(名古屋地判平成12・1・19判夕1070号233頁)とダービースタリオン事件(東京地判平成13・8・27判時1758号3頁)で判断が分かれていたところ、ギャロップレーサー事件の上告審(最判平成16・2・13民集58巻2号311頁)において「競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても、物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき、法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく、また、競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については、違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において、これを肯定することはできないものというべきである」として明確に否定され、論争の決着をみた(なお、Q31参照)。

4.コラージュの法的問題

 著名建築物の自ら撮影した写真画像を加工して、架空の壁面広告に置き換える行為が、著作権侵害や物のパブリシティ権侵害にあたらないとしても、およそ建築物のイメージにそぐわない画像に置き換えられた画像が出回ることは、建築物のイメージを損なう可能性がある。この点は名誉毀損・信用毀損の問題ととらえることもできるだろう。裁判で争われた事例として、人物写真のフォトコラージュが名誉毀損であるか争われた刑事事件(東京地判平成18・4・21公刊物未登載)を紹介する。この事件は、インターネット上の画像掲示板の運営者が、いわゆるアイコラ画像を掲載し、不特定多数のものに閲覧させた行為について、画像を投稿した者とともに名誉毀損罪の共同正犯を問われたものである。
 裁判所は「本件アイコラ画像は、‥‥‥著名なアイドルタレントが真実そのような姿態を写真に撮らせたとはおよそ信じ難い内容のものであった。したがって、本件アイコラ画像がアイコラ画像であることを前提に享受されている限りにおいては、対象とされたアイドルタレントの名誉(社会的評価)を毀損する可能性は、それほど高いものではなかったといわなければならない」と述べながらも、「本件アイコラ画像は、いずれも極めて精巧な合成写真であって、画像を見るだけでは、これが合成写真であることを見抜くことはほとんど不可能であって、その生々しい臨場感の故に、アイコラ画像についての前提的な知識を有している者に対しても、対象とされたアイドルタレントがあるいは真実そのような姿態をさらしたのかもしれないと思わせかねない危険性をはらんだものであったことは否定できない。‥‥‥のみならず、被告人も自認するとおり、アイコラ画像についての知識を全く有していない者が本件掲示板を見てしまう可能性も否定しきれないのであって、そのような者が本件アイコラ画像を見れば、対象とされたアイドルタレントが真実そのような姿態をさらしたものと誤解することは確実であった」として、名誉毀損罪の成立を認めた。
 本件とは事案が異なるため、直接依拠することはできないものの、「精巧な合成写真であり、コラージュ画像について前提的な知識を有している者であっても、その写真が真実であると誤解させる危険性があるか否か」等が、名誉毀損・信用毀損の成立の検討において、重要なファクターたりうると考えられる。 

5.第三者の写真の加工

 第三者が撮影した写真について、当該第三者の許諾を得ずに、加工して投稿する行為は、複製権・公衆送信権侵害のみならず、著作者人格権、翻案権等の侵害のおそれがある。
 このうち、裁判で著作者人格権侵害が問題となった事例としては、パロディ事件(最判昭和55・3・28判夕415号100頁)がある。この事件では、他人が著作権者である写真を利用したパロディ写真を制作したことが著作者人格権の侵害であるかが争われた。裁判所は、旧著作権法30条1項2号(現著作権法32条1項)にいう引用に関して、「引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならないというべきであり、更に、法(筆者注:旧著作権法。以下同じ)18条3項の規定によれば、引用される側の著作物の著作者人格権を侵害するような態様でする引用は許されないことが明らかである」と引用適用の判断基準を示し、「本件モンタージュ写真に取り込み利用されている本件写真部分は、本件モンタージュ写真の表現形式上前説示のように従たるものとして引用されているということはできないから、本件写真が本件モンタージュ写真中に法30条1項第2にいう意味で引用されているということもできない」と判示した。また、同一性保持権については、「本件写真の本質的な特徴は、本件写真部分が本件モンタージュ写真のなかに一体的に取り込み利用されている状態においてもそれ自体を直接感得しうるものであることが明らかであるから、‥‥‥同一性保持権を侵害する改変であるといわなければならない」と判示した。
 本問の事例でも、複製権・公衆送信権侵害のみならず、著作者人格権、翻案権等の侵害のおそれがあるため、第三者の写真の加工については、より慎重な対応が求められる。

執筆者:中崎 尚


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