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第12話 口座凍結

ファイナンシャルプランナーという資格がある。

ありえないくらい簡潔に説明すると、「あなたの経済状況を分析し、やりたいことや困ったことがあればお金の使い方をアドバイスしますよ」という仕事だ。

当然、介護一筋である私がそんな高等な資格を持っているはずはない。

しかしあろうことか、そんな私にファイナンシャルプランナー(以下 FP)として仕事を依頼する男がいた。




もちろん、あさあさのじんだ。



私  「おやおや、なにが起こったのですか?」

あさ  「確認しに行ったら、7、8年前に住んでた世田谷区の健康保険代だかが一部未納になっていたらしい。まったく気づかなかった。2万円くらい余計に返済しなきゃいけない」

私  「2万円だけなら払っちゃえばいいでしょう」

あさ  「鐘無」


この男は壊滅的に金がないのだ。


あさ  「どうにかして月の稼ぎを4、5万ほど増やしたいのですが、なにか良い方法を知ってませんか?」

まともな人間ならわかることだが、月の稼ぎを4、5万増やすというのは容易ではない
彼と同世代なら手取りの約13%増し、あさじんに至っては33%増しだ。もっと身の丈を知るべきだろう

しかし、頼られたからには期待に応えねばならない。なぜなら私は介護士でもあるからだ。


私   「あさじんさん。資産運用というのはお金を増やすことだけではなくて、減らさないようコストを削減することも大事だよ。まずは一ヶ月の支出をまとめてみましょうか」

あさ 「わかりました」

あさじんは一日かけて月の支出やその項目を思い出していった。恐縮ながらFPとして以下にまとめさせていただいた。数値は概算である。



あと4,5万くらい欲しいな(笑)、と思った。彼の給料はコンプラの関係で明記できないが、概ね上記の支出と合わせてキッチリ±0になるよう計算されている。ちなみに、ギャンブルは変動するため計算外らしい。

私  「できることは、まずフリー雀荘へ行かないこと。それと食費を減らすことです。自炊してみてはどうでしょう?」

あさ  「自炊と言っても僕は料理なんかできませんよw」

私  「肉が好きなら、大量に買って冷凍しておけばいいじゃない」

あさ  「なに馬鹿なことを言ってるんですか?冷凍専用の肉は高くつくし、そもそもうちには冷凍する機械もないですよww

また母国語を喋り出した。彼と5回ほどキャッチボールをすると、高確率で母国語が出てくる。
それを解読し、意思疎通を図るのが介護士の仕事なのだが、一般人は脳をやられる可能性が高いので非常に危険だ。


私  「スーパーで売っている牛肉は冷凍庫で簡単に冷凍できます。まずは冷凍庫を買いましょう」

私が最適解を与えてやるも、彼は「そんなわけあるかwww」とだけ残して既読をつけなくなった。しばらくして、真実にたどり着いた彼はツイッターに移動していた。



彼のように、自分の歩んできた人生・知識こそ正しいと信じて疑わず、自分が基準になってしまっている人は多い。そして間違えたら「他にも間違えてる人はいるだろう」と下を見て責任を逃れを始める。これはとても危険なことだ。彼はそれを身をもって教えてくれている。

私  「下を見て安心していてはいつまで経ってもこのままだよ。いまの生活から抜け出したいなら、悪いところを改善して、もっと上を見なきゃ」

あさ  「はい・・・わかりました」

あまりわかってなさそうだ。とりあえずフリー雀荘と外食を控え、家計簿をつけ始めることをオススメし、そこは彼も納得してくれた。



約一ヶ月後。

私はたわし君と共に、あさじんさんがオススメするハンバーグ店へ来ていた。単価は1500円程度でなかなか良い雰囲気である。

この度、FPとしてあさじんさんを担当することをたわし君へ伝えると「フリーは絶対行くっしょ笑」と呆れていた。

その数日前にも、あさじんはこんなツイートをしていたのだ。

どうやらクスリをやっているらしい。恐いので言及しないことにする。


彼は生粋のギャンブル中毒ではあるが、それだけでなく、彼にとってフリー雀荘は現実逃避のためのオアシスなのだ。
勝つこともあるので、外食さえ控えるならこれは仕方ないと考えていた。外食さえ控えるなら。



ガチャ、とドアが開く音がして、お客さんが入ってきた。チラっと見ると、なんとそこには私の顧客がいた


私   「ねえねえ、あさじんいるよ」

たわ  「え、まじ?ほんまやww」

私  「あさじんさ〜ん( ̄▽ ̄)ノシ」

私が手を振って声をかけるが完全に無視される。いつものことですね。


店員さん 「大変申し訳ございません。ただいま混み入っておりまして、お席が空き次第ご案内ということでもよろしいでしょうか?」

あさ 「%#?%◎&@□・・・」


彼は母国語を発してスマホをいじりはじめた。そのあと我々が手を振っても微動だにしない素晴らしいスルーをかましていた。



あさじんと同じ空間でハンバーグを食らっていたころ、私のスマホにLINEメッセージが届いた。


あさ  「なんか例のハンバーグ屋に来たら、たわし君がご家族の人と食事してるんだが、話しかけていいのだろうか?


まったく意味がわからない。ついにあさじんの母国語で私の脳がやられたのかと思った。

この時点で10回以上も対面している私の顔を忘れているのは相貌失認ということでかまわないが、なぜたわし君に声をかけるかどうかを、その場にいないと思っている私に聞くのだろうか?
賢い方ならわかるだろう。

それはもちろん私が介護士として彼に認められているからだ。



私 「あさじんからこんなメッセージが届いたんだけど」

たわし 「ばけもん」



LINEはフルシカトして、帰り際にあさじんに声をかけた。

私  「やあ、あさじんさん。わたしだ」

あさ  「%#?%◎&@□!!!」

私  「ハンバーグ美味しかったですよ。あと、できれば顔は覚えてほしいな」

あさ  「%#?%◎&@□・・・」




後ほど、あさじんからLINEが送られてきた。

あさ  「いやぁ、外食は控えろと言われてたのに、まずいところを見られてしまいました」

私  「それはいいけど、家計簿は?」

あさ  「今度やります」

私  「ありがとうございました」





【 第13話 米朝首脳会談 】

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