属調or下属調への転調、複調のようなものについて

 XでSoundquestさんが近親調についての話をしていたので、いくつか思い出したこと、考えたことを書いていくつもりです。

属調or下属調への転調について

 この転調は滑らかである反面、転調を気づかせることが難しく、場合によっては調性を曖昧にしてしまうことがあると思っています。
 xx界隈では、この転調は結構色々なところで見られます。自分なりにその理由を考えてみたところ、いくつか思い浮かびました。

1.先人の皆さんがよく使っていた

特にこの界隈においては、創作の際、他の曲の影響が大きいと考えられます。いくつか具体例を見ていきます。

「」- 

(タイトルと作者名を書いたつもり)
一番サビから、
C♯minor→G♯minor→C♯minor→G♯minor→C♯minor→G♯minor→C♯minorと交互に転調していきます。属調や下属調への転調は、そのさりげなさが魅力的だと思います。

「_」- 夏毛

ラスサビ前の、間奏と歌が入ってくる部分。
DminorからAminorに転調して、緩やかにDminorに戻っていきます。なお、Aminorキー上でGm7→C7→F△7と進行していることなどによって、DminorキーとAminorキーの境目がぼやけているように感じられます。それから「夏の静けさと怠けが混ざっていました」という歌詞が続く。個人的に大好きな曲です。

「ヤマイダレ」- ろりたみ

1:09からサビに入りますが、E♭major/Cminorキー、B♭major/Gminorキーのいずれで解釈しても少し違和感があります。むしろ私は、E♭major⇔Gminorという風に、2小節ごとにキーを行き来しているという解釈が自然だと考えています。

2.この転調が生み出す曖昧さを表現に用いている

良い対比になると思う2曲を例にとります。

「ひなたに」- のーふ(詞 - ゆーや)

念入りに準備して下属調転調したように感じられます。

この曲はBminorキーから始まりますが、「じゃもう流れないよな~
」の部分からは、BminorキーというよりむしろEminorキーを匂わせるようなメロディとなっています(g音がf♯音などに流れずに跳躍している)。それから、Em→G6→Amという、Eminorキーとして解釈した方が自然な進行をして、その少し後にベースがf♯→b→eと動いてEminorキー(Gmajorキー)への転調を完了します。
微妙な心情を表しているように(個人的に)思います。
なお、1:00あたりで歌手が交代するときの転調も好きです。

「タコがふたたびやってきた」- けだるぎ

(転載しか見つかりませんでした)
前の曲とは対照的に、こちらは、あえて突然属調転調したように思えます。

一番サビ直前までは疑いもなくCmajor/Aminorキーですが、サビ頭で、Gmajorキー上のⅣ△7→Ⅲm7→Vsus4→Ⅰ7→Ⅳ△7が突然出てくるので驚かされます。また、Gmajorキー上でのVsus4→Ⅰ7→Ⅳ△7は、Cmajorキー上でのⅡsus4→Ⅴ7→Ⅰ△7でもあるので、転調しているのかどうか初見では混乱すると思います。
他にも、メロディでc音が跳躍して使われていたり、f♯音がしばらく不在であったりするのも、転調を分かりにくくする要因の一つと考えられます。
ひょっとしたら、作者さんは、聞き手が混乱することを意図していたのかもしれません。


複調のようなものについて

ときに、スケール外の音がメロディに使われてないのに、メロディが別の調で歌っているように聞こえることがあります。これは私の独自研究であり、感じ方には個人差があると思いますが、このような状況を、「複調のようなもの」と呼ぶことにします。
伴奏にたいしてメロディが属調or下属調で乗ると、共通音の多さから、複調のようなものが成立しやすいです(もっとも、作者が複調を意識したかはわかりませんが)。複調のようなものは、属調or下属調転調と相性がいいです。界隈においては、下属調で乗るパターンの方が多い気がします。

「電子の海」- Xeltica

(またしても転載でごめんなさい)
曲はGmionrキーで始ますが、メロディはCナチュラルマイナースケールで歌っている様に聞こえます。その理由を考えてみると、「c→e♭→gという流れの所為」とか、「フレーズがc音で終わっている」などが思いつきます。もっとも、Gナチュラルマイナースケールの中に収まるので、人によってはそう感じないかもしれませんが。
また、1:27の「僕には~」からは、伴奏とメロディともにCminorキーになっています。この「まとまった感」が個人的に好きです。

「中間報告書」- すずぬい

伴奏がAminorキー、メロディがDminorキーの様に感じられます。
コードを鳴らすリズムも含めて、ある種のスタイリッシュさを感じます。

「すなくじらにさよなら」- nori

こちらの曲も面白い。0:47~のサビについて、「そらを およいでいく」と「よるを のみこんでく」のメロディが同じことに気づきます。この二つでは、伴奏がそれぞれC♯minorキーとF♯minorキーとなっています。「複調のようなもの」と似た状況になっていることに気づくでしょう。また、この二つのメロディで、ハモりについては異なっていて、それぞれの伴奏に調和させようとする心遣いも感じられます。
2:30からサビのメロディを思わせるようなソロが入りますが、ここも興味深い。最初は伴奏、ソロ共にF♯minorキーですが、少し後に、伴奏だけがソロを残すようにC♯minorキーに転調しています。この「取り残された感」がたまらない。noriさんの曲は、属調or下属調転調が面白いので、ぜひ他の曲も聞いてほしいです。

また、「複調のようなもの」を効果的に使う方法については、私はまだ十分に理解していません。これを理解したら、より繊細な表現ができるようになると信じています。

すべあな界隈の曲が少なくないか?

ええ、その通りです。すべあな界隈において、上記のような技法が使われている曲を、私はあまり知りません。これは、すべあな界隈についてのわたしの知識不足でもあると思います。
「K²」において一番と二番の間で、B♭△7によってEminorキーとBminorキーがほぼ完全に分離されています。また、「白鳥は未だ歌わず。」では、AminorキーとEminorキーの複調が発生しています。ひょっとしたら、すべあな界隈は、xx界隈とは少し違った調性のありかたなのでしょうか。

参考資料

ここまで読んでくれて、ありがとうございました。
2800文字以上になるのには自分でも驚いています。原稿用紙7枚以上ということになりますからね。これから音楽理論の話題について皆さんと話すことが出来たら嬉しいです。

2024年3月20日

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