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『”こっち”に居たいの』(短編小説)

この作品は、ならざきむつろさん企画リレー小説『片想い~l'amour non partagé~』の11話目です。
企画詳細:https://note.mu/muturonarasaki/n/nb994a7209d23

10話目:candycandyさん「走れ! 歩くん」(https://note.mu/candycandy/n/n2f943ceff473)を受けています。

マガジン『片想い~l'amour non partagé~』(登場人物全員片想い。)(https://note.mu/muturonarasaki/m/m336ee66c2ea7)

*次の人がイメージしやすいよう、最後に登場人物の設定を記載しています。


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「だぁからぁ~、そんなに催促したってムーダーなーのーっ‼
私はまだ“こっち”に居たいって言ってるでしょ?
使者ならさ~、ちゃんと“あっち”のエラい人に伝えといてよね‼
…つーか、キミたちも暇だよね~。ずーっと私の周りを飛び交ってるけど、イヤにならない?…あぁもう!…シッシッ」

ふう…やっと離れてくれた…。
といっても、しばらくしたらまた戻ってくるんだけどね…。
ちなみに”あっち”から派遣された使者っていうのは、子ネコ?…みたいな?…リスみたいな?…手のひらサイズで、見た目は超カワイイの。真っ白い羽根が生えてるしさ。飛び方もふわふわしてて。
ただねぇ…こうも毎度毎度、耳元で「ジョーブツ ジョーブツ」って騒がれると、さすがにうんざりしてくるよね。ったくぅ…。

ん? 私の名前?…あ~、えぇと…今の名前は何て言ったんだっけ? 長くて覚えられないの。ああいうのってよくわかんないけど…信女系?
つーか、まだ秦野 唯(はたの ゆい)の方が断然しっくりくる。うん、当分はこれでいこうっと。
ちなみに、ちょうど別件でマスコミが賑わってたお陰であまり話題にならなかったから知らないかもしれないけどさ、一ヶ月ほど前に、この公園で通り魔に殺害された女子高生いたでしょ? あれが私。
そっ、つまり私はすでに死んでて、幽霊になってる…というわけ。

で? なんで成仏しないのかって?
まぁ簡単に説明するとさ、お葬式に参列してくれたみんなの涙を見てたら、なんか無性に悔しくなってきちゃったんだよね…。
だってさー、これから夢を見つけて追いかけていこうって時に、いきなり道を断たれたんだよ?
まだ高校二年だったんだよ? 17年しか生きてなかったんだよ?
そりゃ、私は何のために生まれてきたんだろう!?…ってなるじゃん。
それにさー、恋だって、ちゃんとしたかったよ。うん。まっとうな恋っていうか、ラブラブキュンキュンなやつをさ。
…あ、ちなみに、これでも私って結構モテたんだよね。ストーカーまがいなのから、今時ラブレター書いてくる純情派までよりどりみどり。
で、何人かと気まぐれで付き合ってみたりもしたけど、やっぱりそういう相手とは続かなくてさ。
あぁ私は自分が本当に好きになった人じゃなきゃダメなんだなぁって。
ようやく大事なコトに気付けたっていうのに、そんな矢先にタマシイが体から切り離されちゃったっつうね。

そういうわけで、夢とか恋とか心残りなことを抱えたまま成仏なんてできるかー‼…って、悔しさと怒りでハラワタ煮えくりかえっちゃって。
え? 幽霊にハラワタがあんのかって? いいじゃん細かいことは。
とにかく、殺ったヤツを見つけて、復讐のひとつでもしないと気が済まないって思ったの!
ただね…犯人の顔、チラッとしか見えなかったんだよね。だから見つけ出せるかちょっと心配ではあるんだ。襲われたとき、ほら、あれ…クロロ…ホルムだっけ? なんかサスペンスでよくやってる…布に薬品含ませてガバっと覆うやつ…あれを嗅がされて気を失ってたから、そっから記憶がないんだよね。まぁそのお蔭で…っていっちゃあ何だけど、痛みや苦しみを感じることなく逝けたから、いわゆる怨念まみれの怖い幽霊にはならなかったっていう部分はあるんだけどね。あれ? なんの話だっけ…?
…あー、そうそう、そりゃ、犯人を呪ったって、この気持ちが晴れるわけじゃないよ?
けど、そいつは今も平気な顔で生きてるんだ、夢だっていくらでも叶えられるんだ、恋だってできるんだーって思ったら、せめてギャフンと言わせるくらいはやりたくもなるでしょ!? お灸的な意味でさ。
そのくらいは閻魔さまも多めに見てくれるんじゃないかなぁって。

そんなわけで、死んでから一ヶ月経ってもまだ地上にいるわけなんだけど…。
最近ちょっと心境の変化があって…あ、幽霊にも心境の変化とかあるんだよ。一応ね。
実は…犯人よりも先に出逢ってしまったんだよね…心トキメク人に‼
マジで今更感がすごいんだけど、私にとってはこれが本当の初恋と呼べるものなんじゃないかな…なんて。

彼の名は野原歩(のはら あゆむ)。
ベンチに置かれたスポーツタオルに油性ペンでそう書いてあったから間違いないと思う。
走るのが好きみたい。大学で駅伝でもやってんのかなぁ。
え? 顔? フツーかな。背も体格もフツー。
外見に惹かれたわけじゃないよ、別に。当たり前じゃん。
なんていうかさ、歩さんの…(わ! 「歩さん」だなんて、初めて名前呼んじゃった♡)…ひたむきに走る姿がかっこよくってさー。えへへ。
揺れる髪とか、ほとばしる汗とか、はずむ息とか、盛り上がった筋肉とか。
あー、美しいな…この人、生きてるんだ…夢に向かって人生をイキイキと現在進行形で走ってるんだぁ…みたいなことを思いながら見つめてたら、そっからもう目が離せなくなっちゃって…。
昔、誰かが「人って自分に無いものを求めて恋をする」みたいなことを言ってたけど、これがそうなのかなぁ。
とにかく、こんなふうに誰かを好きになるなんて思わなかった。
ほんと人生わかんないよね…って、人生終わっちゃった私が言うのもアレだけどさ。

それからあれよあれよという間に、“こっち”に残りたい理由が逆転しちゃったっていう…。
「歩さんの傍にいたい」って気持ちが花マル急上昇、みたいな…ふふ。

けどさ。彼、好きな人がいるみたいなんだよね。
公園でよく見かけるカメラ女子。大人のきれいな女の人。
その人を見るときの歩さんの表情が違うの。間違いなく恋してるって感じ。
そういうのってさ、ほら、わかるじゃん。彼女の近くまで来ると、急に視線が泳ぎ始めたりしてさ。
たぶん…歩さんはその人に会いたくてこの公園をジョギングのコースに入れてるんだと思う。
そういうとこ、なんだか私と似てる気がするから…わかるんだ。

でね、歩さんったら、なんでかその女の人と知り合いみたいで、カメラに向かってピースとか投げキッスとかやってんのね。それ見るたび苦しくなってさ、奥歯をぐっと…え? 幽霊に奥歯があるかって? 察してよもう!
とにかく、歯がゆいわけなの!
いや、もともと幽霊なんだから両想いなんてなれるわけないんだけどさ。
つーか、彼は一生、私のことなんて、名前も、存在も、この気持ちも知らないまま生きていくんだってことくらいは、わかってるつもりなんだけどね。
でも、そう簡単に割り切れないって。好きなもんは好きなんだから。

だから昨日なんかは、ポーズをとる彼の後ろで、思いっきりアッカンベーしちゃった。あはは。
変な写真になってなきゃいいけどね♪

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【片想いされている人】
野原歩(のはら あゆむ)
20歳。平均的な大学生。市民マラソンに参加する予定。公園で自主トレに励んでいる。

【片想いしている人】
秦野 唯(はたの ゆい)
一ヶ月前に通り魔に殺された美少女の幽霊。享年17歳(高校二年生)。
性格は気さくで明るい。
自分を殺した犯人を探して呪うべく、犯行現場である公園付近を浮遊する毎日だったが、歩に出逢い恋をしてしまう。

唯ちゃんに片想いしているのはだあれ?
AngelRabbitsさんの心温まるお話はこちらです♪
『ぼくは知っているよ』
https://note.mu/vdgg/n/n6c6829841c26

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