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58.5cm/1.83kgのミナミマゴチの記録

自分の力だけで、大きな魚をとりこむ。
そんな経験がようやくできた。

そこは私が最も数多く通う沖縄本島北部・今帰仁のとある川の河口。
めったに誰も来ない、マングローブに縁どられた生命観豊かな深い緑色の川だ。
たとえ何も釣れなかろうが、私はそこで過ごすことそのものが大好きだ。

この前の土曜日。夜のエギング以外では、ずっと一人きりの釣りをしていなかったので、この日は久しぶりにウルトラライトタックル(ロッドとリールで230gほど)でライトゲームをしようと決めていた。会社の先輩と家呑みをしたので寝たのは深夜2時だったけど、朝7時には起きて出かけた。

この場所ではいつもトップウォーターでチヌ狙い。でもチヌが反応してくれることはめったになく、代わりにクワガナー(コトヒキ)やメッキ(ひらアジの幼魚)、カマスなどが食ってきてくれる。けれどこの日は、反応はあるものの全然のらない(針にかからない)。それでも、冬に反応があるだけでありがたいんだけどね。

たぶん1時間以上ねばっていて、ねばりすぎている(時間の使い方が「浪費」に傾いている)と分かっていたけれど、時折魚の気配があるので、何か釣れるだろうという期待を捨てきれない。
最終手段で「チヌ職人」というワーム(シリコン素材の柔らかいルアー)をボトムずる引きする。まさかのその一投目!

未だに底のずる引きだと根掛かりと魚の当たりの違いがよくわからない。でもリールを巻くと重い、というより少しずつしか巻けない。この時、魚のひきと呼べる感覚(生き物らしい振動)はなく、おそらく魚はまだ釣られたことに気が付いていない。ただ重い。

けれどだんだんと水面に引き上げられるにつれ魚が暴れ出す。大きな扁平な魚体が見え巨大なコチとわかったとたん私は「ヨッシャー!」と小さくつぶやいていたけど、すぐに焦りの方が勝る。大きい。あれをどうやって釣り上げる?

その時間は満潮が近づいていて、海に近いその場所は川べり(陸地)がどんどんなくなって行っていた。私はその場所ではいつも長靴をはき、時に水に浸かりながら釣りをする。街中の河川と違い足場は川と陸続きだけれど、潮が満ちてきていて魚を上げるべき陸地がほとんどない。おまけにマングローブに囲まれているので、竿をとりまわすのも難しい。

最初はぜんぜんひかなかったのに、最後はあっちへこっちへ走ろうと暴れた。泳力はない方の魚だけど、魚体が大きいので力が強い。ドラグが鳴ってラインが出ては巻く、のくり返しで徐々に川べりに寄せていく。わずかに残された砂地の上に寄せる間、暴れるコチのヒレやトゲ、木の枝にラインがかかって、ランディング目前で切れる悪夢がずっと頭でリピートされていた。コチの口は平たく硬く、針も外れやすい。

とにかく丁寧にやり取りをした。空気を吸って弱って泳ぐ力がなくなってきてから、竿と、手でつかんだラインを引っ張ることでゆっくり砂の上に引き上げる。

ミナミマゴチ

めったに魚のサイズを測ることはないんだけど、そのときは珍しく、カバンの奥底に沈んでいた100均の小さなメジャーを取り出した。自己計測で60cm弱だった。

前にオニヒラアジを狙っていた時釣れた、針をのんでしまった小さなコチは、あっという間に弱っていき、リリースを断念したことがある。

けれどこのコチは大きいがゆえに体力も生命力も強く、口が大きいのでエラまで傷つくこともなく、陸にあげてもまだ長い尾で砂をかくように暴れた。潮が満ちてきて砂地も水に沈みつつあったので、目を離したら逃げられる。そういう状況で、私は写真を撮ったり、針のかかり方を良く観察した。

針は比較的硬いところに、しっかりとフッキングされていた。今まで何度もコチをバラしていた(針を外された)から最後まで怖かったけど、糸さえ切れなければとれるかかり方だった。

コチをキャッチするまでに枝や魚体に触れて傷ついたラインで持ち上げるにはコチは重い。私はおそるおそるフィッシュグリップで口のところをはさみ、なんとか車まで運んだ。途中、原っぱの上でタックルとともにゆっくり写真を撮った。もう逃げられることはない。

ナイフを持っていなくて、締めて血抜きをすることができない。まだかろうじて生きていたので、私は釣具店に人生初めての検量に行った。

さすがにここに載せるのはひかえますが、コチと一緒に写真も撮ってもらいました。そういえば、現場で自撮りもしました、初めて(笑)

魚体が大きく骨も固く、さばくのはとても大変でした。でも苦労して釣り上げ、がんばってさばいた高級魚コチの味は格別!鯛などの脂の強い魚とはまた違うけど、こんなにうまみと甘みのある白身は初めてです。しかも、2日、3日と熟成が進むほどに甘く柔らかく、とろけるような舌触りになります。自分で一から捌くと、状態のいいまま保存できる。お店で柵などで買うとできない体験。それに、内臓までいただくことができます(写真左側が胃袋の湯引き、右側の黒いのが皮の湯引き。写真はありませんが、胴の身と卵と肝の煮つけも作りました)。


カースビー(ゴマフエダイ)、チヌ(ミナミクロダイ)、コチ…この場所は、私に思い出深い魚と出会わせてくれる場所です。



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