近江八幡からの京都リベンジ その6

妙に足取りも軽く大覚寺前まで戻ると、それなりにバスの利用者もいるのか、すでにバス停の周りには人がうろうろしている。時刻表をみると、次の四条烏丸行きは13時24分。あと10分ちょっととタイミングもバッチリ。発車オーライ! 死語の連続使用だなこりゃ。
車窓からの風景は、電車での移動と違って人の表情や仕草まで見えるし、活動する街の企みまでうかがい知れるから楽しい。あ、ランチに良さそうな店がある。あのファミレスは、鹿王院駅から歩いたときに見かけたやつだ。太秦映画村、妙心寺…。バス停名や案内アナウンスからは、かつて京都にやってきたときに歩いた辺りだ、と懐かしく思い出されたりする。乗ってくる人降りる人。暮らしの匂いが漂ってくる。お、なかなか乙な建物があるな。NISSHAって書いてあるけど(あとで調べたら、歴史のある建物のようだ)、どういう会社だろう、とか。

バスはすでに四条通りに入っているのか? 高架をくぐったのはJR嵯峨野線なのかな。いつのまにか今朝、嵐電に乗り込んだ四条大宮も過ぎ去り、四条烏丸には2時過ぎに到着した。

とりあえずは腹が減った。けれどランチタイムはすでに終わっている時間帯。さてどうしようと祇園方面に向かいながら脇道を覗き込みつつ歩いて、なんとなく店がありそうな角を曲がると中華屋があった。自分ながらなかなかの嗅覚。店頭のメニューを見るとそれほどバカ高くはない。もう店を選べる時間でもないのでさっさと入ってさっさと食べることにした。鶏肉とカシューナッツ炒め1100円を注文して待っていると、隣の席で黙々と食べていたおっさんが突然立ち上がり、店の外へと走り出していった。食いかけの料理は、ほったらかし。なんだ? こちらの料理がとどいて、しばらくしたら、おっさんが携帯片手によろよろと戻ってきた。やれやれ、ご苦労さん。ってか、店内で小声で話すとかはできないような内容だったのかな。

腹はくちた。しかし、鼻水はとまらない。なにもしなくても、つつつー、と垂れていく。今朝、ホテルを出るとき部屋にあったティッシュを全部、ってもフツーのティッシュより小さくて枚数だってわずかなんだけど、をもってきたんだけど、それもなくなってしまってる。もう後がない。なので、目に入ったドラッグストアに入って、ポケットティッシュ6個入りを買うハメに。ああ、ムダな出費だ。くそ。

食べたせいで今度はトイレに行きたくなった。今朝はたいして食べてなかったので、さっきの鶏肉とカシューナッツでいまさらながらに大腸が刺激を受けたんだろう。もともと朝食はご飯にみそ汁、焼き魚に野菜と、ちゃん食べる方で、でも便秘というものはしたことがなく、食べたら上から押されてトイレに行く、が体質なんだけど、今朝はほとんど押されることがなくて、たいして出なかった。その出るはずの分が、今頃になって出たい! と言い始めたようだ。
京都大丸まで戻ろうか、と思っていたら都合の良いことに藤井大丸という、京都大丸と関係があるのかないのかよく分からんデパートみたいなのが少し先にあったので、これ幸いとエスカレーターで上にあがってトイレを探したんだけど、でもこの時間帯はみなさん同じようなお腹の状態の人が多いのか、個室はどこも埋まってる。糞っ。
フロアを上がったり下がったり、たまたまやってた(と思ったらまだ準備中だったようだ)ギャラリーで絵を見たりしつつタイミングを見計らい、なんとかウンよくミッションを完遂。これでスッキリと次のステップに移れるぞ!

そのまま四条通りを東に向かうのは去年の5月と同じ行程。四条大橋の手前で、道路の向こう側には先斗町が見えるけど、でも、そっちへは行かない。そして道路のこちら側には、例のヴォーリズ建築の中華屋・東華菜館本館が、どうだ、と言わんばかりに誇らしげな偉容を見せている。

入って内装も見たい気はするけど料理がバカ高いので一生入れないと思うけどね。そして、四条大橋の下を流れる鴨川には語りあう青年男女。べつに羨ましくなんてない。

四条大橋を渡り終えれば京都南座があり、去年は橋幸夫コンサートやってたなあと記憶を蘇らせていると、このあたりから喧噪が賑々しく行き交うようになってきた。レース地の着物を着た日本人だか中国人だか知らんけど、な方々が歩道にうじゃうじゃちゃらちゃらしだした。そうか。去年の5月はまだまだ観光もインバウンドも復活してなかったから雰囲気も大人しかったけれど、もう完全にかつての観光地京都が姿を見せ、騒ぎ出してる感じだ。

な歩道を、もう少し先まで歩いていくと、目的の花見小路にたどりついた。去年はここまでくる手前で右に折れ、建仁寺の方に向かっちゃったんだよな。

花見小路は祇園のメインストリート、らしい。京都には何度か来てはいるんだけど、おおむねお寺さんウロウロが多くて、飲む食う遊ぶにはまったく興味がなかった。って、いまもないけど。金もないし。
いまどきのガイドブックをめくると、どこそこのスイーツがどうとかランチはここでとかお洒落な京都の夜をとか写真つきでどどどっと掲載されているけれど、京都を訪れる娘たちは地図を片手に街をウロウロより、レンタル着物をまとい、めあてのスポットで紹介されている店々をクリアしていく方が多いのかね。だいたい祇園とか先斗町とか、貧乏人には関係ないところ、という思い込みもあって、いっこうに足が向かなかったんだけど。今年の始めにNetflixで是枝裕和監督の『舞妓さんちのまかないさん』という連続ドラマが配信されて、それがなかなか面白かったんだよ。なので、その舞台となった祇園も、ちょいと覗いてみるか、という気分になったという次第。

というわけで花見小路に足を踏み入れてみたんだけど、家並みはなんか映画のセットみたいな感じで、そこをレンタル着物姿の男女とか、わいわい女子連とか、観光客がぞろぞろ歩いているんだよね。ここは太秦映画村か原宿か? どーもつくりものめいていて、いまいち心が動かされない。
とはいえ横道もあるようなので入り込んでみると、なんと、ほんの数メートル歩いただけでうるさい観光客の姿がなくなった。路地も建物も静まりかえっていて、なんとはなしに近寄るな光線が感じられるけど、でも格子戸を開ければそこに人の息づかいが感じられるような雰囲気がある。

どうやら、こうした路地での撮影は禁止らしく、そういう貼り紙もあった。まあ、そうだろうな。暮らしと商売とが一体になったエリアで見ず知らずの人間がうろうろしているだけでもうっとうしいはず。そのうえレンズを向けられたらいい気持ちはしないだろう。そんな路地路地をくねくね徘徊していると、奥の方の家のなかで、なにやらTVカメラが撮影している様子がチラリと見えた。なにかの取材なのか。でも少人数で、ひっそりと行われている様子。
うろついていると、たまに界隈の関係者らしい人とすれ違うけれど、忙しなく用件を遂行している風で、こっちのことなど目に入れてもくれない感じ。しゃなりしゃなりのかわいい舞妓さんとは遭遇しなかったけれど、この地域の人が入るような甘味処があって、そこには舞妓なのか見習いなのか、みたいな女の子が連れだって入っていくところはちょっと見かけた。しかし、あれだね。メインストリートをぞろぞろ歩いている観光客は、こっちの方まで入ってこないんだな。かの書き割りみたいな通りで満足しちゃってるのかよ。もったいない。いや、こっちの方までやってこないから、路地の面白さが毀されていないのか。

さて、もう花見小路はいいや。べつに店に入るわけでもないし。雰囲気はアバウトに味わった。というわけでメインストリートに戻り、突き当たりまで行くと、そこは建仁寺の裏手になっていて。去年もうろついたあたりだ。なのでそのまま寺の境内を表側にぬけるとそこは八坂通り。めざす六道珍皇寺はもう間近だ。(2023.04.20)

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