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自分にとって大切なものを仕事に関わらせる危うさ

普段テレビドラマはほとんど見ないんだけど、推していたコミックがアニメやドラマになるのは、とてもわくわくする。「セクシー田中さんがドラマ化される」ってニュースを見た時は、Facebookでシェアして「めっちゃ楽しみ〜」って書いていた。

https://www.facebook.com/asako.itagaki/posts/pfbid0jKUauomshfKYxceJQgijcCQv1nXTb7jm37Ny4LUFVLwAYq8WB1iL4mQXmw522khSl

ドラマ化が発表される前から「セクシー田中さんっていう漫画があるのよ、超面白いから読んでみてよ」って周囲のベリーダンス友達に推しまくっていた。登場人物それぞれが抱える生きづらさと関係性と変化とストーリーを楽しみつつ、随所に挟み込まれる「ベリーダンスあるある」ネタはとてもリアリティがあって、漫画の中の世界がとても身近に感じたのは私もベリーダンサーのはしくれだからだ。芦原妃名子先生の他の作品は読んだことがなかったが「絶対作者もベリーダンサーだ」と思って勝手に親近感を抱いていた(失礼で恐れ多い話である)。

ドラマのヒットで、ベリーダンス業界も大いに盛り上がった。まず単純に、認知が上がった。11月、12月に開催されたショーでは「セクシー田中さんを見て、ベリーダンス見てみたいと思って、レストランで見れるって知らなかったんですけど初めて来ました」というお客様が何組もいた。私が所属しているベリーダンススタジオも、毎週のように体験レッスンの方が来て、その日に入会を決める方も多かった。嬉しかった。他のスタジオも同様なようで、年末から年明けにかけて体験レッスンを増やしました、初心者クラス増設しましたという先生達の告知が毎日のように「#セクシー田中さん」のタグをつけてインスタに上がっていた。

ドラマの制作も大御所の先生がベリーダンス監修について、サバランのセットは錦糸町のおなじみのシルクロードカフェにそっくりで(ロケもやっていた)、存じ上げているダンサーの方々がドラマのステージでも踊っていたり日テレ系のイベントに出たり、まさに業界あげての祭りだった。2010年頃のブーム(私が始めたのはそのタイミング)が去った後はどんどん人が減っていたのが、放映と共に一気に息を吹き返したという感じだった。

脚本をめぐるゴタゴタがあったことは全然知らずに毎週オンエアを楽しみ、「このペースだと途中で原作消化しちゃうなー」なんて呑気に思っていた。田中さんが海外修行に旅立つことで物語を強制終了するのは原作の邪魔をしないエンディングとしてこれしかないって納得感があったのに、最後の華ちゃんの結婚式のシーンは蛇足だとおもったけど、でももしかしたら特番の伏線かなってちょっと楽しみになったりもしたんだ。

そして1月、とても悲しいニュースがあった。原作者の「自分の命を削って書いた作品を大切にしてもらえなかった」という思いの吐露がSNSの大炎上につながり、その後何があったのかは見えないけれど、彼女は命を絶つという選択をしてしまった。

彼女は描きながら、田中さんに自身の一部を投影していたのかもしれないと思う。そのくらい田中さんというキャラクターは、リアルで、魅力的で、説得力があった。「ベリーダンスがあるから背筋を伸ばして胸を張れる」と言う田中さんに、私はいつも自分を重ねていた。

ベリーダンスは田中さんの居場所だった。会社で嫌なことがあっても失礼なことを言われても、ベリーダンスがあれば前を向けた。でも、芦原先生は、今回の炎上で、もしかするとベリーダンスという居場所を失ってしまったように感じたのかもしれないと思う。

ドラマの制作が始まり、ベリーダンス界をあげてのお祭りムーブの中で、関係者をがっかりさせたくなくて、この仕事に対するためらいや無力感や、途中でやめたいと思う気持ちに蓋をしてしまったということはないだろうか。先生が大切にしていた仕事の中で、愛していたベリーダンス界の期待を背負って、板挟みで身動きが取れなくなってしまったことも悲しい選択につながる一因になっていたのだとしたら、あまりにも辛い。

ひとりで辛い、悲しい思いをさせてごめんなさい。彼女の想いを知る術はもうないのに、勝手な憶測をしてごめんなさい。でも、こうなる前にどこかで、何かできなかったのかなって考えてしまう。面識があるわけでもないからきっと何もできなかったのだろうけれど。

芦原妃名子先生のご冥福をお祈りします。

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2024.2.16 10:30 加筆しました

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