性交中において双方が合意したうえで行われるいわゆる加虐行為としての暴行や傷害あるいはこれによる致死の結果については、その違法性が阻却されるためには、ただ単にそれが被虐者の承諾嘱託にもとずくというだけでなく、その行為が社会的に相当であると評価されるものでなければならず、少なくとも相手方の生命に危害を及ぼす危険性の高い絞頸行為によって、性的な満足を高めようとすることは、社会的相当行為の範囲内に含まれないとした事例(東京地判昭和52年6月8日)

ー目次ー
1.結論
2.事案の概要
3.争点
4.裁判所の示した判断基準
5.判断基準の本件への当てはめ
6.量刑の事情
7.お願い
8.免責事項



【1.結論】

懲役1年6月、執行猶予2年。


【2.事案の概要】

 被告人(女性)は、バーで働いていたところ、客A(妻子持ち)と親しくなって肉体交渉を持つようになった。まもなく、Aから性交中に同人の手足を縛ったり、首を絞めたりすることを要求されるようになり、被告人は不本意ではあったものの、そのようにしてやらないとAの性感が高まらないため,やむなくこれに応じているうち、被告人自身もこれにより興奮を覚えるようになった。

 当初、被告人はAの首を手で絞めていたが、そのうちこれに満足できなくなったAは、ネッカチーフやベルトなどで絞めることを要求するようになり、さらにはこれで長い間継続して絞めていないと射精できないようになった。 

 被告人は、昭和51年12月20日午前7時ころ、被告人方居室において、Aと情交中、同人から、いつものように首を絞めることを求められ、最初ネッカチーフ二枚で同人の頸部を絞めたものの、同人がこれに満足せず、「ロープかバンドを持ってきて絞めろ」と要求したため、前記居室の壁に掛けてあったスカート用のナイロン製白色バンド一本を取寄せ、あおむけに寝ている同人に馬乗りになりながら前記バンドを同人の首に巻きつけて前頸部で交差させ、両手で前記バンドの両端を引っ張り同人の頸部を絞めはじめたが、同人から絞め方が足りないとして「もっと絞めろ」といわれたため、さらに力を強めて同人の頸部を絞めつけた。

 そして、右絞頸を約10分間くらい続けるうち、次第に陶然となった同人は、ついに射精するに至ったが、その後もなお興奮状態にあった被告人は、自己の性的満足を得るまで約五分間、そのままAの頸部を絞め続けた。被告人は右のとおり、同人に対し、その頸部を約15分間にわたり継続して絞めつける暴行を加えた結果、同人をして、そのころ同所において、頸部圧迫による遷延性窒息により死亡するに至らしめた。


【3.争点】

 被告人の行為は被害者の承諾によるものであるところ、直ちに被絞頸者の生命・身体に危害をもたらす具体的危険性があるとはいえないものであるから違法性を阻却しないか。


【4.裁判所の示した判断基準】

 性交中において双方が合意したうえで行われるいわゆる加虐行為としての暴行や傷害あるいはこれによる致死の結果については、その違法性が阻却されるためには、ただ単にそれが被虐者の承諾嘱託によるというだけでなく、その行為が社会的に相当であると評価されるものでなければならない。

 どのような場合に加虐行為が社会的に相当とされ、あるいは相当とされないのか、本件に即していえば、同じ絞頸行為でも少なくとも相手方の生命に危害を及ぼす危険性の高い絞頸行為によって、性的な満足を高めようとすることは、右社会的相当行為の範囲内に含まれないものと解するのが相当である。


【5.判断基準の本件への当てはめ】

 関係証拠によれば、本件情交の際、被告人が被害者に対し行ったナイロンバンドによる絞頸行為は短時間のゆるいものではなく、判示のような巻き方で約15分間位という時間被害者の頸部を絞めつづけ、その力の入れ方も情交中のことであるから一定でなく、たまたま一時的に弱まったりしたこともあると思われるが、被告人としては概してかなり強い力を加えていた。

 これにより被害者は頸部に表皮剥脱、皮下出血の外、筋肉出血をも負っていることが認められ、このような本件絞頸行為の客観的態様に照らすと、本件の如き行為は被絞頸者を窒息死せしめるおそれが強く、これを適時に回避しうる十分な保証がない限り、生命侵害の高度の危険性を有する。

 そして、関係証拠によれば、本件のような絞頸行為を行った場合、一般に被絞頸者が強い意識朦朧状態に陥り、自己が死に瀕しても快感を感じているためその状況を的確に認識することができず、また絞頸者も被絞頸者が陶然とした様子を示し、何ら苦痛の表情を表わさず、また絞頸者自身性的興奮の状態にあることから、被絞頸者が死に瀕していることを的確に察知できないことが多分にあると考えられる。

 かつ、本件の場合、被告人において他に致死の結果を適時に回避することを十分保証する特段の措置を講じていたとの事情も存しない。

 以上より、本件行為は、生命に対する危険性を強度に含んでいるものとして、社会的相当性の観点からも許容されない行為であることは明らかであり、いかに被害者の承諾があっても、もはやその違法性を阻却しない。


【6.量刑の事情】

 被告人は、約15分間に亘って頸部を絞めつづけ、その結果、尊い人の生命を奪ってしまったものであり、その責任は決して軽くはない。しかし被告人がかかる行為に出たのは、被害者の強い要求によるものである。これは本件犯行の違法性を阻却するものではないけれども、量刑上は十分考慮すべきものである。
 また、被告人には前科・前歴もなく、若年であって人生のやり直しも可能であるうえ、改悛の情も顕著であって、再犯のおそれもないこと等を総合判断すると、酌量減刑したうえ主文の刑を科し、なおその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。


【7.お願い】

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【8.免責事項】

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あさくら

恋愛法判例百選(仮)

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