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バルゼレッタ barzelletta vol.22

イタリア家庭料理

~オリーブへの道~

翌日気持ちのいい朝を迎え3階から下の台所に行くと

もう朝食の準備が始まっていた。
シニョーラは大きな巨大エスプレッソポットでコーヒーを沸かしている。


ん~~いい香り。


濃厚なエスプレッソは朝に飲むカプチーノやカフェラッテには必須だ。


牛乳を鍋に入れて温めて、とシニョーラに言われ
パックを見てみるとロングライフミルクとありぎょっとする。


この辺りは牛よりも羊の酪農が主なので
フレッシュ牛乳が貴重品。気候風土上、仕方ないか、と後から納得。

なんでもある日本とは、違う、と思い始める第一歩だったかもしれない。


宿泊客は夜遅くまで夕食、おしゃべり三昧後の翌朝なので朝寝坊するかと思いきや、8時も過ぎるとみな民宿のダイニングテーブルに集まってきた。


ドメニコが奥で私を呼んでいるので倉庫に入ると、
中は真っ暗。

この民宿は石の家なので明かりの入らない倉庫はひんやり。

目を凝らすと

棚にびっしりのガラス瓶が並んでいる。



そして奥から何やらぴちゃぴちゃと水の滴るような音がする。

なに?と聞くと、

ドメニコは「貯水槽だよ」と。


なんと屋根に貯まった雨水を家の中の貯水槽に送りこめるようにできているそうで、その水はトイレなどに使っているそうだ。


年間を通して降雨量が少なく、
また周りにまったく山がないので降った雨を蓄える森がない為

水には昔から苦労しているそうだ。

農業をする上でも、生活をする上でも水のないことは、貧しさに繋がる、
昔から貯水槽はこの辺りの家にはみんなあるんだよ、とドメニコ。

なんともはや、しみじみ~と
水の豊富な国に住んでいた私からすると水がないことを本当に想像するのは難しい。

少しずつ、この水のなさがどういうことを意味するのかがわかったのだが、

貯水槽の水をぼんやりと眺めていると、
先ほどの瓶のならんだ棚にドメニコが私を誘導する


よく見ると瓶は全部保存食!


いろいろなものが並んでいるが、

瓶のふた部分にシールが貼ってあり、
作った日付とイタリア語らしきつづりがある。

つづりが独特でまったくわからない。読めない。


さらによく見ると

ジャムのようなもの、果実のシロップ漬け、
ナッツの乾燥したもの、トマトソース、などなどなど。

見ているだけでわくわくするものばかり!


ドメニコは

さあ、それとそれと、それをとって、と
数個のジャムを私に渡して台所に持っていくよと。

素焼きの深皿に5~6種類の瓶を入れて
宿泊客の集まるダイニングテーブルにそれらを2セット並べ、

一人ずつに大ぶりのカップ、
そして紙ナプキンを三角に折りそこにナイフとティースプーンをのせ、

わらじのような大きく平べったいパンを厚めにスライスしてかごに乗せたら準備完了。

私にもどうぞ、と
朝食は普通に宿泊客、家族と一緒にとる。


イタリアの朝食はいたってシンプル。
暖かい飲み物とパンとジャムだけ。


こんだけ!?とびっくりしたが
昨夜あれだけ遅くまで飲み食いして、お腹が空いているはずもない。


私は先程の瓶を開けてパンにつけてみようかと。

いい香りがぷ~んと。
リンゴやマーマレード、そしてサクランボにあんずに、かりんに。。。


全種手作り!


少々私には甘かったが

どれもフルーツそのものの香りと味がしっかりして
そしていかにも『マンマの手作り!』

味にキレはなかったが(笑)
手仕事で作りました~
鍋で長時間煮込みました~
混ぜ物は一切ありません~

というどっしりしたナチュラルな味が感じられた。

分厚いパンにたっぷりつけて
カフェラッテとともにいただく。


ドメニコもたっぷりジャムをつけて
そしてカフェラッテにそのパンを浸しながら食べている。

私もさっそく真似してみる。

これがまたいい~

ブオーノ!


とてもシンプルな味だが、フィレンツェからほとんど自炊だったこともあり、

傷心でイタリアにわたり自分が自分でなかった時を振り返り、

料理修業が出来ることに、やっとほっとしたのか。


昨夜、夜寝ている最中に自分が本来の自分にリセットされたようだ。

初めて母の味、人のぬくもり、イタリア人のお母さんの味を感じることができた。


昨夜の驚くおいしさの夕食もだったが、
家庭料理って、こういうんだ、

イタリア国内のレストランや日本のレストランで出てくる料理とは全く別物、
味わい、食べた後に残る感覚、それぞれまったく違う。

醤油や味噌こそ使わない、
すべて初めての味なのだが

なんとも懐かしく、素朴で、食べ慣れた味!

ほっとるする!

私は3Fの客間からみた眺めのよさをドメニコに褒めながら

“あの窓から見える果てしなく続く森は一体何?”

と聞くと、


ドメニコは、“あれは全部オリーブの木だよ!”と。

“オリーブですって!”

私は復唱してしまう。


ここはイタリアでも有数のオリーブの産地だったなそういえば!
ドキュメンタリーでもそう言ってたではないか。

しかしあれがオリーブの木とは。

ドメニコは、
じゃ朝ごはんがすんだら畑に連れてったあげるよと。
ぺらぺらしゃべっているのだが、私はこの時はまだ彼が何を言っているか理解できないでいた

畑に行ってわかった。

ドメニコは、

アーモンド、オリーブを主体に
ありとあらゆる野菜を有機栽培しており、パックして地元の消費者に届けているそうだ。

なんとまあ、わたしが日本でやってたことじゃないの。


野菜の畑はこじんまりしており、また一種類の作物の範囲が狭く、点在している。
また、畑と道路の間には石垣で塀があり、

野菜を点在させるのは
天災や病虫害からの被害を最小限に抑えるため、

石垣は、
山や腐葉土がないので石垣に虫の住める環境を作るため、


畑の周りには樫の木が数か所植えてあり、そこには石垣の虫めがけた鳥も来るんだ、
植物連鎖を作ってるんだよ、

なんてことを言っていた。


なるほど~~と
この厳しい風土なりの工夫がドメニコの畑からうかがい知れた。


アーモンドの木や
オリーブの木を間近で見て、

初めて見るこれらの木々はなんとも不思議な気持ちになった。

オリーブは緑色の実をたくさんつけており
なんとも愛らしい。


これがオリーブオイルになるのか、と思いながら、
昨夜の料理がまた脳裏をよぎる。

あのドロドロの黒い液体。

今夜は、直になめさせてもらおうっと。

ピーマンとトマトなどをかご一杯収穫し民宿に戻るともう昼の支度だ。

シニョーラがまたあの真剣なまなざしで台所に立っている。







次号に続く 

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