水田皮膚病を知ってるかい(4)

明け方、猛烈なかゆさで目を覚ます。私は寝ぼけたまま、左手を右手の甲に重ね合わせ、ほとんど無意識に指の間を擦る。擦っても、擦っても、かゆみは収まるどころか猛烈に増してゆく。あまりのかゆさに居ても立ってもいられず飛び起きて台所へ行く。時計を見ると朝の4時を回ったばかりだ。蛇口をひねり、水を盛大にほとばしらせて手を突っ込む。それでもかゆみは収まらない。冷凍庫から氷を取り出し、私は冷たい塊を手の上で滑らせた。指は真っ赤に腫れあがり、気持ちの悪いブツブツに覆われ、掻きむしって破れた水泡からは体液がにじみ出ていた。

私は皮膚科でもらってきた薬が少しも効かないことに失望していました。皮膚科の先生の反応は、妹から聞いていたものと同じ「毛虫か何かにかぶれたのでしょう」と言うものでした。「田んぼでかぶれたと思うのですが」。そう言っても、先生は(田んぼとこれが関係あるとでも?仮に田んぼだとしたら田んぼにいた毛虫でしょう)という顔です。私が期待していた「日本住血吸虫じゃありませんよ」という言葉は、はるか頭上の成層圏の上に漂っているかのように、病院の空気の中には存在すらせず、自然界の中でのかぶれは虫か草、という決めつけによって、診断は下され、べとべとと粘りのある透明のかゆみ止めがもらえただけでした。

田んぼに毛虫などいません。けれど、そんなことを先生に言ったところでいったいどうなると言うのでしょう。私の周囲には田んぼを作っている人は多く、数人に私の症状を尋ねて回りました。すると、長野の高山村の先生も、隣町の自然栽培を何年もやってるUさんも、隣りの田んぼのNさんも、全員が私のようにかぶれたことはない、というのです。しかし、その頃にはもう「これはやっぱり寄生虫だろう」と、確信をしていました。というのも、ネット上で似たような症状の記事を発見していたからです。

うちと同じく無農薬の田んぼでイベント的に人を集めて田植えをしたら、そのあと数人がかぶれた。という記事。そして、うちと同じ共通項があります。

無農薬田んぼ
田植えをしたら
植えた人の中で
かぶれが出た

ここから得た、私の考察は以下の通り。

これは「無農薬の田んぼを手植えで作る」という、今の日本では極めて珍しい栽培方法を選択した人に発症するため、そもそもの患者数が少ない。また、たとえ、無農薬の田んぼであっても、通常は田植え機を使う。「手植えの無農薬田んぼ」というのは、すごく小さい田んぼか、イベントでの田植えがほとんど。イベントの場合、地元の人ではなく、遠方の人がバラバラに集まってくることが多いため、例え罹患しても、全員がそれぞれ地元の皮膚科を受診する。例えば、同じ地域のものが同じ皮膚科に何人も行けば、皮膚科の先生も「何かこれは普通と違う」と分かるはずだが、別々の皮膚科へ行った場合、先生が見る患者はひとり、あるいはひと家族。なので、特に疑うこともなくただのかぶれと診断されてしまう。

皮膚科の先生がこの水田における特殊な皮膚炎を知らないのは、こういうわけなのではないでしょうか。以下に詳しいリンクがあります。一部抜粋しました。ちなみにかゆみが続いたのは3~7日どころではなく、数週間。そして原因はやはり、寄生虫(の幼体=セルカリア)だったのです。

セルカリア性皮膚炎は患者が水に入った後,早いものでは10分後に自覚症状を認め,遅いものでも当日中に発疹,掻痒感が見られる。掻痒感は3~7日程続き,夜間この痒みのため就寝できないものもある。また,中には水疱形成を来すものも見られる。発疹は約10日程で軽度の色素沈着を残して治癒するが,一部には硬結を残して経過が長引くものも見られる。

諸外国におけるセルカリア性皮膚炎がレジャーなどの水遊びの中で発生するのに比べて,我が国のそれは田植え時に発生することが多く,「水田性皮膚炎(Paddy field dermatitis)」の名で呼ばれることがある。

田んぼの水の上に漂っていたセルカリアが、田植えで何度も水の中に手を出し入れしているうちに手の指の間、手の甲の皮膚から侵入する。右手にばかり症状が集中していたのも、左手に苗を持って、右手で植えるからなのです。

皮膚の中に侵入したセルカリアは皮膚の下で暴れまわる。これぞ皮膚内パンデミック。ああ、なんて恐ろしい話でしょう。自分の皮膚の下に寄生虫が蠢いているわけですよ。ゾッとしませんか?よく薬物乱用の幻覚で「俺の皮膚の中で虫が動き回ってんだよ!助けてくれよ!」というのがありますね。…って、おい!これ幻覚じゃねえ!本当に寄生虫が動き回ってんだよ!皮膚の下で蠢いて!体の中を移動してるんだよ!マジなんだよ!皮膚の中を移動してるんだよ!現実なんだよ!

いかがでしょう。こんな恐ろしい病にかかったことありますか?私はあります。そう、それがセルカリアによる皮膚炎なのです。

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ありがとうございます。好物は「堅揚げポテト塩味」です。
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Yuki

結婚を20年で卒業。伊勢河崎で「中谷武司協会」を経営。クッキー「サトナカ」、民泊「たらちね」「パライソ ウメダ」を運営管理。元夫とこれまでリノベーションした家や蔵は8軒。すべて自分たちの使用に供しました。実家で無農薬米と豆を栽培。尊敬する生き物は虫で趣味…続きはtwitterへ!

おなごがひとりで始める小さな田んぼ

自給の中でも難しい稲作を女がやったらどうなるか、と、写真中心に紹介していきます。
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