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クレバーなイギリス弁護団のカッコ良さ 「否定と肯定」

さて、いくら私がナチス関係の映画が好きとは言え、すべてを観ているわけではありません。近年になってナチスもの、第二次世界大戦のドイツ軍を描いた作品は格段に増え、去年話題になった「ダンケルク」も裏を替えせばナチスものと言えます。1935年〜1945年のヨーロッパを描くには、ドイツ軍抜きに考えることはできませんからね。

超悪として描いても全く文句を言われない、制服がカッコいいので画面的に映える、という2点だけでも充分活用価値がある上に、(私のように)ナチスというだけで見に来る人がいるし、相次ぐ新資料の発見も追い風となっている模様。

中でも、ナチスの大量虐殺の象徴でもあるホロコーストは「シンドラーのリスト」、「ライフ・イズ・ビューティフル」、「サラの鍵」など、何度も映画の題材に登場してますが、そんなホロコーストが虐殺に使われていなかったとしたらどうなるでしょう。

この映画の中ではいくつか重要な論議がされていて、そのひとつが「ガス室」と言われた殺戮計画。風呂に入れると言って、全員の衣服を脱がせ、狭い部屋の中に入れて、そこに毒ガスを充満させて殺していた。という、有名な話で、私もずいぶん前は、ユダヤ人を殺す目的で収容所へ集めていたと思っていました。

しかし、実際には少し違うっぽい。ヒトラーはユダヤ人を一カ所に集めて、そこからドイツ国外へ移住させようと「最初は」していた。ドイツの領土からユダヤ人を追い出したかっただけ。最初はゲットーを作って、ユダヤ人を集め、そこから強制収容所へ移送して、そこからまた、ドイツの国外へ放り出す計画だったわけです。

けれど、戦況が悪化し、移送地の確保が不可能になった時、収容所にはユダヤ人がどんどん送り込まれてくるし、収容所は溢れそうになる。流行病でどんどん収容者が死んで行く。そこへまた人がどんどん送られて来る。みたいな循環。

そこまでは双方とも認識が一致、その先のガス室で大量殺戮があったかなかったか、という点で意見が別れています。この議論がネット上にも数多く存在し、みんな大好き、ユダヤの陰謀論と相まって、今でもかなり熱く語られています。

歴史は勝者のもの、生き残ったものが歴史を刻みます。ある意味、刻み放題なわけです。歴史を考える時に常にそういうことを頭に入れておく必要があります。歴史というのは結果の逆引きで学んでいかないと、真実が見えてきません。

ヒトラーはユダヤ人が憎くて、ドイツ国外へ排除するため、強制収容所に集めていた。最終的に殺戮した。

そう時系列で学ぶのと、

なぜユダヤ人は強制収容所で殺されることになったのか。

という疑問から出発するのとでは、辿り着く過程がまったく変わります。私が興味も持っている八甲田山の雪中行軍でも、

なぜ、明治の若い軍人が戦争をしてないときに、雪山で200人も死ぬことになったのか。

という疑問が出発であって、最初から明治の軍に興味を持っていたわけではないですし、私が満州国に興味があるのも、日本の戦争の歴史に興味があるわけではなく、NHKのテレビで、夜中に定期的に放送されていた、「中国残留孤児」のことが大人になって

あのテレビに映っていた人たちはいったい何だったのか

という疑問の発生からきています。そう思うと、本当に知らないことだらけで、大学で歴史を学んでいた自分としては、いったい何をやっていたんだというばかりです。

映画は、予告編ほど緊迫感はないし、弁護団の人たちは海外ドラマ「シャーロック」かと思うくらい、イギリス的に描かれていて大変魅力的だけど、相手に弁護士がいないので、弁護合戦のようにはならない。主人公の女教授はいかにもアメリカの勝ち気なおばさん。適役の教授はある意味、罪のない根っからお花畑の差別主義者。これといった見どころもなく終った感じでした。

映画はスクリーンで。どちらさまもステキな映画ライフを。

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