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離婚してから元夫のかわいさを知る話

昨日、武司くんとお寿司を食べに行きました。

私「どうする~各自好きなもの食べる?それとも相談して決める?」
武司「いや、なんて言うか…相談やな」

彼は回って来るお寿司の下手に座りました。そのほうが何が回って来るのかがよく見える。私は上手なので、直前まで何が回って来るのか分からないという状況。それで、まあいつものことなのですが、武司くんが食べたいものを注文したり、自分が食べたい皿を取るわけ。けど、まあ、ほぼ「相談」はなし。それも当然。彼はこういう人なんです。

私が「ハマチどう?」と聞くと「うーん」と渋い顔。その間にもうハマチは回って行ってしまう。1皿には2貫乗ってるから、それを1貫ずつ食べる。そうすると色んな種類が食べられますね。結局12皿のうち、私が食べたいと思って取った皿はひとつだけで、残り11皿は武司くんが選んだもの。しかも、同じサバを2回取ってる。

「お!これこれ」と武司、サバの皿を取る。
「それ、さっきも食べたやん」
ハタと気づいて皿をまじまじと見る武司。
「これは…これはうまかったからや」
「けど、2皿もいらんやん」
「うまいものは2皿食べるんや」

懸命に自己を正当化させる武司。彼は貧乏旅行が好きで、ボロ宿も好きなんですが、当然ご飯なんかもチェーン店ではなく、よう分からん地元の店に行くのよ。それで、一度すごい衛生的にヤバイお店に入ったことがあって、その時も「うん、なかなか味のある店や」とか「大将のキャラがいい」などと自分のチョイスをがんばって正当化しようとする。これがすごい面白い。いやいや、さっき隅っこをネズミみたいなんが走ってったよ…私が耳打ちしても、

「そいういのは……ええんや」

とか言う。「なんで!?ネズミやで。やばいやん!」だが武司は言う。「……ネズミくらい、自然界にはおるからな」。いやいや、自然界ちゃうやん、店ん中やん!

さて、すし屋の話に戻ると、私はクリームチーズとしば漬け入りのお稲荷さんが食べたかったので、お稲荷さん食べる?と聞いた時の武司。

「稲荷か…稲荷は自分で作ろう思っとる」

などと言ってしみじみしている。いやいや!それ今度の話やろ。今私がここで食べたいの。稲荷を。

「稲荷は………自分で作ろう思うんや。うん……」

いやー、だからー。私がここで食べたいのよー。って、これ読んでる方は(別にレーンから勝手に取って食べたらいいじゃないの)と、思うかも知れませんが。ちがう!違うんや!そういうのちゃうんやこれ!こうやって武司の反応見るのが面白いんやで。なんかめちゃかわいいやん。色々言わせたいやん。だから稲荷だけじゃなくて、こういうのほかの皿でもやるんです。いちいち反応して面白い。もう自分の食べたいものとかどうでもよくなる。

これね、多分もっと若かったりしたら「何よ!自分の好きなもばかり食べて私も好きなもの食べたい!」ってケンカになるんです。してたもの、私。けど、こういうのが彼の面白いとこ、って離婚してから分かった。それは、適当な距離を取ったからだと思う。夫婦という、いわば二人でワンセットで考えるのと、個人と個人で考えるのとでは私の場合、全然違っていたわけです。結婚したままだったらずっと不満を胸に抱いたまま相手を恨み、好きなものすら食べられない自分を可哀そう、って思ってたはずなのね。

今になって中谷武司という、30代、40代の頃尖ってた彼がなんか60歳を前にこなれて面白かわいくなってきてる。私は離婚して今ごろ気づいたけど、結婚してても、そういうのに気付ける人はいっぱいいると思う。「男は女の好みのものが食べられるよう気を配るべし」なんてデートのマニュアル通りのことをしてくれたら、それはそれで嬉しい思うよ。けど、「稲荷?なんでも君の好きなもの食べたらいいよ」って言葉を聞いてうっとりするより、「稲荷は……自分で作ろう思うんや…」を聞いて笑い転げるほうがいい。そう思うようになったの、離婚して。例え稲荷が食べられなくてもね。

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