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アイシングに魅せられて


 タイトルの上の写真を見て欲しい。これはすべてお砂糖で作られている。
過去に私が作った作品の中でも、自他ともに認める私の代表作『ヴィクトリアンレディのお気に入り』

この作品の、中でも巾着型のポーチの周りのレースのフリフリ。宙に浮いているのが分かって頂けると思う。この部分がロイヤルアイシングを使って絞ったものだ。もちろん、それなりのテクニックはあるのだけれど。

 真っ白な粉砂糖と卵白。材料はそれだけ。

卵白の中に、粉砂糖を入れたら低速のミキサーで混ぜていく。圧倒的に粉砂糖の分量が多いので、メレンゲと違って泡立ちはしない。最初は透明がかったクリーム色だったものが、空気を抱き込むと、だんだんと真っ白に変化する。生クリームのように軽くはないけれど、卵白が空気を抱き込むことで、ふんわりとしたお砂糖のクリームが出来上がる。これをロイヤルアイシングという。

ロイヤルという称号があるように、イギリスでビクトリア女王の時代のウェディングケーキのデコレーションとして使われ始めた。イギリスを始め各国で今でも、シュガークラフト、シュガーアートという名前で親しまれている。

 日本では、残念ながら、シュガーアートやシュガークラフトという言葉は、それほどポピュラーではない。それよりも、10年ほど前からアイシングクッキーという、クッキーにロイヤルアイシングを使ってデコレーションしたものが流行だしたので、そちらの方がポピュラーかもしれない。

よく、アイシングだから冷やすの?と聞かれるけれど、お砂糖でデコレーションしたものをアイシングという。シナモンロールの上にかかっているお砂糖もアイシング。卵白以外にお水やレモン果汁で作ったアイシングもある。

でも、卵白がポイントなのだ。

卵白がしっかりとした繋ぎの役目をしてくれるので、思った以上にいろんな細工もできる。


 私がシュガークラフトに出会ったのは、32歳の時だった。結婚して5年目。欲しくて欲しくてたまらなかった子供に恵まれず、自分が子育てに捧げようと思っていた時間とエネルギーを持て余していた私は、それに代わるものを必死で探し、そして巡り会ったのがシュガークラフトだった。

恋に落ちてしまった。

シュガークラフトの魅力にしっかりと捉えられてしまった。世界的なシュガーアーティスト、ニコラス・ロッジという良き師に恵まれた事も大きかったと思う。寝ても覚めても、シュガーのことばかり、シュガークラフトが生活の最優先事項となった。

 シュガークラフトにもいろんなジャンルがある。大きく分けると、お花を作るシュガーフラワー・ロイヤルアイシングで絞ってつくるパイピングワーク・お人形などのモデリングの3つ。

中でも私が一番夢中になったのがパイピングワークだった。

おおよそ3年ほどで一通りテクニックを習うと、オリジナルの作品作りに精を出すようになった。毎年夏に行われる大きなコンペティションへの出品が、一年の集大成だった。

 コンペティションへの出品というのは、楽しいだけじゃない。生みの苦しみや、他人との比較、そして最後にジャッジという結果が出る。そう言った感情を差し引いても、やっぱり楽しいの気持ちがはるかに上回る。

自分の納得できる作品が出来れば良し。でも力を出し切れずに終わってしまうと、苦い気持ちがいつまでも残ってしまう。

一番の理想は、自分が納得できる結果で、良い結果のジャッジが出ること。自宅で作品を作っているときは、なかなか良い出来かもと思っても、会場に行くと、他の人の作品の方が何倍も素晴らしく見えて、自分の作品を持って帰りたくなる気持ちを、何度も味わった。でも、そんな気持ちを何度味わっても、作る事をやめようと思った事は一度もなかった。それほど、シュガークラフトに恋焦がれていたから。

 40代になると、別居・離婚を経験し、無謀にもシュガークラフトを思い切り仕事にしたいと決心して、独立開業してしまった。世間知らずだったから。

独立開業してからの私とシュガークラフトの関係は、ちょっと微妙。だって好きなものばかりを作る訳にはいかないもの。

嫌いになったわけじゃないけれど、少し背を背けてしまったり、少し離れようととしてみた事もある。いつの間にか、以前のようなワクワクとした感じや、美しい物を追求する事を忘れてしまった私がいた。


 でも、神様は絶妙なタイミングでメッセージをくれる。

ある人の口を借りて、「好きな事に蓋をするな!趣味をど真ん中におこう」という言葉を伝えてくれた。その言葉を聞いてから、ずっとそのフレーズが耳に残っていた。好きな事。趣味…それは私にとっては、深く考えるまでもない事だった。

バラバラだったピースがすべてあるべき場所に納まった。

   すべての霧が晴れた気持ち。
自分の好きな事を思い切りやって行く、仕事のアイディアが今の私にはある。

長い間抱えていた矛盾や葛藤、上手くいかなかった事、すべて回収してこれからの人生につながって行く道が見えてきた。これからの人生のど真ん中にロイヤルアイシングをどーーんと、置くのだ。

これからの私は、たのしいを伝染させていく。




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