見出し画像

『No cognizance』 その8 (未映像化台本)

12.回想。再び主人公の主観的な世界。
 主人公(M)「兎にも角にも、俺たち姉弟は命を永らえた。だが、その後が悪かった」
 通路を歩く主人公、姉、衛兵A、B、C、ドクターA。

 主人公(M)「俺たちは自由を奪われた。人間としての尊厳と共に」
 自室に当てがわれたベッドと便器だけの個室。ベッド縁に腰掛け、前屈みになり、虚空を睨む主人公。

 主人公(M)「父も為す術が無かった。俺たちは人間兵器としての扱いを享受する以外に選択肢は与えられなかった。洗脳。それが俺たちが生き続ける唯一の道だったのだ」
 オペレータールームのモニターを見ている父親。多数のモニターの内の一つには姉、他の一つには主人公、他のモニターにはそれぞれその他のソルジャーたちを映している。ソルジャーたちは施術用のチェアに体を預け、目を瞑ってベッドギアを付けている。操作を受けているのだ。
 主人公、そっと目を開く。虚ろな表情。そこに思考力は感じられない。

13.現在。静寂を以て密林に佇む施設の外観。

14.施設の一室。テーブルと椅子が数脚の取調室の様な部屋。
 居るのは主人公一人のみ。椅子に座ってテーブルの食事を摂っている。サラダにパン、水のグラスとポット、そして肉を中心としたプレート。食器、プレートは全てFRP製。
 主人公(M)「しかし・・・・・それでも尚、俺は良しとした。洗脳が解け、状況が理解出来なかった為に一旦は逃亡をしたが、歯向かう気はとうに失せていた。何はどうあれ命を救われたのだ。今は亡き姉と共に、父親と彼等によって」
 空のプレートは既に四枚で、主人公は五枚目を食している。
 主人公(M)「ましてや、父や姉、なにより己自身が計画に連座していたとあっては、否も応もあったものではないではないか」
 ドアが開く。ドクターBが入室してくる。三十代のスッキリとした、屈託無さげで理知的に見える白人男性だ。
 目だけを向ける主人公、無言で食べ続ける。
 ドクターB、ニッと笑む。
 テーブルに寄り、主人公の対面の椅子に座りながらドクターB「食べてるな? もっと食え。ちゃんと食えよ。特にタンパク質は通常人を遥かに凌ぐ君たちの筋肉組織にとって、必要べからざるものなんだからな。幾ら食したとて摂り過ぎということはない」
 主人公、無言で平らげた五枚目をガランと放り、グラスの水を煽る。
 ドクターB、自分の左こめかみを指差して、笑みで「その顔の外傷はどうってことはない。多少裂傷した程度だ。すぐ治るさ」
 主人公、飲み干し「ふーーー」と声を出してグラスをテーブルに自然落下の勢い的にタンと置く。眼は真っ直ぐにドクターBに据えている。
 真っ直ぐ見返しているドクターB。
 やがて、主人公「・・・・・質問してもいいか?」
 ドクターB「どーぞー」
 主人公「頭痛が治まったのは何故だ」
 ドクターB「理由は複合的だ。と言ってもそんなに難しい話でもないんだけどね。(指を一本立て)まず君がプログラムを拒否することをやめたこと。(もう一本指を立て)それからシステムの方でも君に対しては洗脳機能については停止させたこと。はい、この二っつね(Vサイン)」
 主人公(M)「確かに俺は抵抗をやめた。彼等を受け入れる気になった。でも洗脳を切ったのは一体どうして・・・?」
 主人公「再洗脳しないのか?」ポットを手にして、グラスに水を注ぎだす。
 ドクターB、右腕を椅子の背もたれに回して気安い雰囲気で「わざわざ君を迎えに行って死んじまった、あのレクチャー管理者も言っていたじゃあないの」
 主人公、改めてドクターBに目を遣る。
 ドクターBに、隊長の回想がかぶる。
 隊長の回想「実を言うと、我々は困惑しているんだ。やはりソルジャーの行動能力には、人格・・・と言うより自意識の有無によってこんなにも違いが出てしまうのかということにな。システムの見直しを図る為にも貴様は必要だ」
 主人公「・・・・・」グラスに水を注ぎ終え、ポットをテーブルの傍らにそっと置く。
 ドクターB「君は貴重な・・・うーん・・・・・(一思案)」
 急に顔の前にバチン! と両手を合わせたドクターB「悪い! 実験対象!」
 ドクターB、ニカっと笑って「・・・貴重なサンプルなんだなぁ、君はさ」
 主人公、特に激するでもなく、やや困惑しながらドクターBを見据えている。
 ドクターB、手を下ろし、笑みのまま「まぁ、幸いにして君も落ち着いているし、この際我々としては最適解を求めるべきでしょう」
 主人公「・・・・・どうするんだ?」
 ドクターB「具体的にはこれからさ。君を最終的にどう扱うべきかはまだ良く判らん」
 主人公「(唸る)ううん・・・」
 ドクターB「未決定。それだけに過ぎんってことさ、今はね」
 主人公、目を瞑り、鼻からスーッと一息吸ってから、「ふーーーっ」と口から息をつく。
 主人公(M)「まぁ、いいさ。一度は尽きかけた命だ。好きにするさ」
 主人公、目を開けて上目遣いにドクターBを見る(M)「ただ・・・・・」
 主人公「もう一つ、訊いてもいいか?」
 ドクターB、無言で右の掌を上げ、どうぞと促す。
 主人公「父はどうしている?」 
 ドクターB、笑みを浮かべたまま「・・・・・・」まじまじと主人公を見つめる。

(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?