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『No cognizance』 その10 (未映像化台本)

20.施設内。トレーニングルーム。
 軍隊風の休みの体勢を取っている複数人のHMたちと指導係の人間たちが周りで見ている中、通信機付きのヘッドギアに、拳、肘、膝にはサポーターを付け、床マットの上で総合格闘技風のスパーリングをしている主人公と一人のHM。旋回しながらお互いに間合いを測っている。
 マービン(M)「彼等に意思が無いって訳じゃない。だけども意思はあっても感情は持っていない。つまりまぁ、不自由意思ってとこだよな」

21.施設内。システムの管制室。オペレーターたち以外にマービンや何名かのドクターたちも居て、拡大された主人公を映すモニターに食い入っている。
 マービン「判断力も失ってはいない。だから、一挙手一投足といった具合にああしろこうしろと言ってやる必要はない。要点のみで指示は事足りる」

22.20と同。
 対戦相手のHM、主人公に回し蹴りを連続して放つ。身を躱したり、手で払ったりして避ける主人公。
 更に顔に向けた左右のワンツーを出すHM。細かいスゥエーバックでキュッキュと避け、次の瞬間には踏み込み、右フックでボディを打つ主人公。更に左ボディフック。
 マービン(M)「ただ、最大の長所であるが故の難点は、指示以上のことをすることは決して無いことだよな。ついては、コントロールルームでは絶えず彼等、及び周囲のモニタリングをしなければならないし、網膜に施したスクリーンへの情報投射や通信を以て視覚、聴覚を介した指示改変を彼等に適宜行なう必要がある」

23.21と同。
 オペレーターの一人「HM21、44を倒せ。背後よりかかれ」

24.20と同。
 HM21、主人公を見る。

25.HM21の視界。主人公にマークが打たれている。
 HM21「司令確認」
 進む。

26.20と同。
 主人公の右アッパーが、対戦相手HMの顎を突き上げる。
 ダウンするHM。
 極く近くに迫った背後のHM21に気付く主人公。
 振り向き様に右足刀蹴りでHM21の顔面を蹴り抜く。
 吹っ飛ぶHM21、ダウンする。

27.21と同。
 マービン「状況判断、それだけではなく対応力がまるで違う」

28.20と同。
 ダウンしているHM21、及び周囲に対して身構えを崩さない主人公。
 マービン(M)「それが、HM44の絶対的なアドバンテージってとこか」

29.施設内。14と同様の施設の一室。テーブルと椅子が数脚。
 主人公、対面にはマービンが座っている。そして上座に威厳を備えた五十代、役職者風の男ペリーが着座している。
 ペリー「MKウルトラ計画を知っているかね?」
 主人公「いや」
 ペリー「アメリカのCIA(中央情報局)科学技術本部が主導し、タビストック人間関係研究所と共同で行なっていた洗脳実験でね。勿論極秘裏に」
 主人公、無言。
 ペリー「被験者はアメリカとカナダの国民だ。1953年から60年代末、或いは73年まで行なわれていたとされている」
 黙って横目にペリーを見ているマービン。
 ペリー「時のCIA長官は破棄を命じたのだが、辛くも残されていた数枚の関連文書が1975年のアメリカ連邦議会で公開されたことで世間に周知されることとなった」
 主人公、ペリーに目を遣ったまま腕を組む。
 ペリー「このMKウルトラ計画が発端ということでもない。1945年のペーパークリップ作戦に、1947年にはチャーター計画、ブルーバード計画というものは1950年に実施されている。洗脳計画というものは、これでなかなか歴史も拘泥も深い」
 主人公、頷く。
 主人公「そしてそれは、それ以降も続く者が絶えることはなかったということか」
 ペリー「MKウルトラ計画をそのまま引き継いだ訳ではないがね。我々は直接にはアメリカにもどこの国とも関係が無い。独立した企業だ。全く出自が異なる」
 マービン、そっと頷く。
 ペリー「そして時代も違う。テクノロジーの進歩は人間の視覚、聴覚、筋肉、神経を強化し得たのだ」
 主人公、組んでいた腕をほどき、握った自らの右手を見やる。
 ペリー「洗脳と人体の強化。決して廃ることの無い無窮の夢物語だ。この世に人の諍いがある限りはね」
 主人公「・・・・・何が言いたいんです?」
 ペリー「実戦に出てもらう」

(続く)

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