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『No cognizance』 その6 (未映像化台本)

 密林を歩み進める五人。
 主人公の前方の左右、後方の左右と、四方を囲む形を取る。前方の二人は前を向きつつ、脇越しに後ろの主人公に銃を向けている。後方の二人は斜めに主人公を見やりながら、やはり銃を向けている。
 主人公(M)「・・・・・もうどうでも良くなっていた。正気を無くした訳でもないのにもかかわらず、頭痛は何故だか消え失せていた・・・・・」
 密林を進む五人。
 主人公(M)「俺は追想していたのだ。姉の記憶を端緒として、そいつを手掛かりに過去を辿った」
 歩き続ける主人公のアップに、主人公(M)「・・・・・驚いたことに、俺は奴等のスタッフだった」

10.回想。主人公の主観的な世界。
 主人公(M)「元々、父親が財団の医療関係技術班におり、今回のソルジャープロジェクトにも加わっていたのだが、父に準じて医療の道に進んでいた姉は、その父の補佐を務めていた」
 権威のありそうな五十代らしき父親、メル・ギブソン風。医者然とした姉。

 主人公(M)「俺はボクサーだったのだが、網膜剥離になりかけ、恐ろしくなってその世界でいっぱしになるのを諦めた」
 ボクサー時代の主人公の試合の様子、リング上でライトを浴びた逞しい主人公の姿。

 主人公(M)「人を殴ること以外に能のない俺は、父と姉に頼るしかなかった。いきおい俺は更に下って姉をサポートする役目を、まぁつまり助手をすることとしたのだ」
 父、姉、主人公の三人の職務に当たる様子。

 主人公(M)「姉の、ということは即ち父の補佐と言える業務とは何か。はっきり言おう。それは主にはプロジェクトに適合した、ソルジャーになり得る素材の発掘と調達だ。素材は勿論、この世から消えても問題にならない様な人物が好ましい。畢竟、碌でもないロケーション、シチュエーションに自ら出向くことが殆どになる」
 典型的なソルジャーの絵、幾つかにかぶせて。

 主人公(M)「某国に於ける内戦で細菌兵器が使われた」
 中東らしき戦場の様子。更には地に伏している兵士たちの死体。

 主人公(M)「そうとは知らず、死因不明の複数の遺体に、医師として病理解剖を施した姉だったが、劣悪とも言えそうな悪意に満ちたその細菌兵器は、まるで罠に食いついた害虫が、巣に戻った後に同類たちにまで類を及ぼさせる害虫駆除商品か何かの様に、遺体に触れた者にまで細菌を感染させたのだった」
 解剖に当たる姉の様子、複数。居並ぶ簡易ベッドの遺体たち。

 主人公(M)「しかも、性悪女の要領で、即死には至らない程度に感染させ、じわじわ真綿で首を締めるかの様にゆっくりと症状を進行させることで、本人を死に至らしめるだけでなく、周囲の人々にまで感染を広げ、連鎖的な効果をもたらす仕組みとなっていたのだ」
 微妙な体調不良に、気分の悪さに額に手をやる姉。気遣うスタッフに、平気だと笑顔を浮かべて平常を装う姉。

 主人公(M)「容態が悪化する一方の姉の姿を見て、俺は直感的に悟った。そして、俺自身、姉からの感染による体調の変化を自覚しながらも、なんとか姉を救いたい、その一心で父にすがった」
 戦場に立つテント内の粗末な簡易ベットに伏せる姉、その側で手を取る主人公。願う様な表情。そして、報せを受けて驚きに眼を見張る父親の顔。

 主人公(M)「隔離されつつソルジャープロジェクトの施設に運び込まれた俺と姉は、既に絶望的だった」
 財団が手配した輸送飛行機。客室の一部をビニールテント状に覆い、クリーンルーム化した箇所に横たわっている主人公と姉。

 主人公(M)「父は、まだその時点では実験段階だったソルジャープロジェクトに全てを捧げた。俺たちを救うために。それまでにも増して研究に全力を投じた。身体的活性化の効果を与え、ほぼ自助的に生存維持を果たすのが、このプロジェクトの一つの特徴であったことに一縷の望みを賭けたのだ」
 施設外観。施設内部の研究ブロック。手術室の様な、研究室の様な部屋をガラス窓越しに二階から見下ろす父親。見下ろしている先には、ベッドに検体の様に横たわる主人公と姉。
 父親の表情、目。その眼は決意に満ちている。

 主人公(M)「そして俺は再生した」
 眠っている主人公の顔。

(続く)

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