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『No cognizance』 その9 (未映像化台本)

15.施設内。ジム。ソルジャーたちが無理目なトレーニングをしている。ベンチプレスといった重量系、ランニング系、スイム系等々。
 それ等を室外のガラス窓越しに傍観しているドクターBと主人公。
 ドクターB、窓に目を向けたまま、主人公には向かず「信じようがどうだろうが君の勝手だけどね・・・」
 主人公(M)「父はもう居ない。・・・・・彼はそう言ったのみだった」と、傍らのドクターBを見やる主人公。
 主人公(M)「何やら言い難そうな表情を浮かべたこの男を眼にし、悪戯に問い質しても無駄なことだと感じた俺は、それ以上の問いを避けた。・・・・・いずれ自ずと真実は知れる・・・筈だ・・・・・」
 トレーニング室の様子と、窓越しに見える主人公とドクターB。
 ドクターB「あっ。いけねえ」
 主人公「?」

16.施設内。別のトレーニング室。体育館の様な床にマットが広く敷かれており、ソルジャーたちがレスリングをしている。低い体勢から組み付き、関節を決める。上下ひっくり返ったり、関節を決め返したりしている様。遠巻きには先の隊長の様な軍人風の人間が見て、指導をしている。窓の外からやはりそれらを見ている主人公とドクターBという構図。
 ドクターB「悪い。自己紹介がまだだった。俺はマービンだ。ドクターの一人で、勿論職務は君たちのケア」
 マービン、主人公に対して右手を差し出す。
 主人公「・・・・・」複雑な表情でその手を見下ろす。
 差し出されたマービンの右手。
 主人公「・・・う〜ん・・・・・」
 マービン、主人公と自分の右手を見比べてから、「まっ、いーか」と苦笑を泛べ、手を引っ込める。
 主人公「済まん・・・」
 マービン「いやぁ」と引っ込めた右手を空に翳す。
 主人公「俺は・・・・・」と言った直後、? といった感じで声が詰まる。
 その主人公の様子をさりげなくも探る様な目で捉えているマービン。
 不意に、空気を変えるかの様にマービン、主人公から見て直角方向に一、二歩「う〜んと」
 マービン、主人公に体を向けて「俺は君たちの本名を知る立場にはない。便宜上の呼び名を付けさせてもらおうか」
 主人公「ん・・・俺は・・・・・」また声が詰まる。
 その様子を見た上で、調子を変える為に軽い口調のマービン「うん。そんじゃさあ」
 主人公「待ってくれ。俺は・・・・・」
 マービン「どーした? 名無しじゃ意思の疎通もあったもんじゃないじゃないの」
 主人公「そうじゃなくって・・・・・あ、いや・・・ううん・・・・・」
 マービン「・・・・・」主人公を見つめる。
 主人公「・・・・・」俯きがち、どこも見ていない。
 マービン「HM44(エイチエム・フォーティフォー)」
 主人公、顔を上げ、マービンを見る。

17.ディスプレイのアップ。
 「Higher Man Project」

18.施設内。システムの管制室らしき部屋。何人ものオペレーターたちが自分のディスプレイを監督している。ソルジャーたちの映像、様々なデータ、グラフ、それらの画面の左上ヘッダには、「Higher Man Project」。その部屋をやはりガラス窓越しに眺める主人公とマービン。
 マービン「Higher ManでHM。高等な、更なる高み、上位の人間」
 主人公、ほぼ無表情で「よくも言ったもんだ」
 マービン「そう言うなよ。志だよ。君の父上達によるさ」
 主人公、マービンに顔を向ける「44と言うのはつまり?」
 マービン「被験者の通し番号ってこと。まぁ、その・・・そういうこと」右肩をそびやかす。
 主人公「・・・・・そうか」
 システム管制室に改めて目を向ける。じっと眺める。その主人公を横目で見やるマービン。

19.施設内。主人公の自室。
 両手を枕にし、ベッドに横たわっている主人公。虚空に目をやっている。
 主人公(M)「マービンと話していた時、自分の名前が思い浮かばなかった・・・・・。父や姉のことも・・・やはり名前が出てこない。しかし、取り戻した記憶は確固としていて間違いの無いものだ・・・・・」
 主人公の当惑の目(M)「・・・・・どうして・・・・・」

(続く)

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