1.社会人サッカーチームのチームづくり(月刊トレーニング・ジャーナル2023年12月号、特集/チームづくりの工夫)


藤原浩志・E-WING出雲(島根県)監督兼GM、高等学校数学科教諭

去る9月30日から10月3日にわたって北海道の幕別町運動公園陸上競技場で行われた、全国社会人サッカー連盟主催第30回全国クラブチームサッカー選手権大会優勝した島根県代表のE-WING出雲の監督、藤原浩志さんにチームづくりについてお話を伺った。

特集目次
https://note.com/asano_masashi/n/n6509ce30c67a

社会人チームの難しさ

──クラブチーム全国優勝おめでとうございます。

藤原:ありがとうございます。

──社会人チームということですが、藤原さんは普段はお仕事は何をなさっていますか?

藤原:島根県の公立高校で数学の教員をしています。

──学校の先生をしておられるのですね。チームの他の方も仕事をしながら練習しておられると思いますが、普段の練習はどのようになさっていますか?

藤原:週に2回練習しておりまして、火曜と金曜に2時間程度です。出雲ドームという多目的運動場がありまして、人工芝もあり、かなり広いスペースを使えます。出雲市内の社会人チームがそこを夜間使っています。

──そうすると、ほかの曜日や時間帯はほかのチームが使っているということでしょうか。

藤原:はい。出雲市内で有名なサンフレッチェくにびきFCと女子チームのディオッサ出雲が夜8時まで使われているので、その後社会人チームが色々な曜日でそれぞれ使っています。2時間ですから夜10時くらいまでです。1時間程度の場合は8時〜9時、あるいは9時〜10時でやっているチームもあります。

──練習環境としては人工芝ということで、悪くないといったところでしょうか。

藤原:そうですね。人工芝も最近できたのでしっかり芝が立っていて、選手も非常にやりやすい、県内の人工芝でもすごくよい状況です。

──選手のみなさんは自分の所属があり、お仕事をなさっていて練習のときに集まってくるのですね。

藤原:そうですね、それぞれに家族があり、仕事もあり、中には残業などがあって練習に出られない場合もありますし、家族の状態によって来られない場合もあります。メンバーは結構教員が多いのですが、それ以外にもJAや病院など、いろいろなところに勤めています。

──特定の業種が集まっているというわけではないのですね。

藤原:そうですね、県内で中国リーグに所属しているベルガロッソいわみさんなど、仕事を提供する形態のチームもありますが、私たちは本当にサッカーが好きで、それぞれに仕事をしながら出雲市内、遠くても隣の松江市、雲南市、大田市の人が集まってやっています。


写真1 第30回全国クラブチームサッカー選手権大会で優勝という結果となった

チーム練習での工夫

──この度、北海道での全国大会で優勝ということで練習やチーム運営などについて何かしら工夫などがあったのではないかと思うのですが、いかがですか?

藤原:そうですね、実は全国大会には2年連続で参加していまして、これは山陰でも初のようです。この大会の全国優勝も山陰初となりました。昨年の大会は三重であったのですが一回戦でPK負けでした。多くの方々に応援していただき、ご支援いただいたのに、その期待に応えることができませんでした。

 今年は北海道ということもあり、さらにたくさんの方々にご支援いただき、またその声援、熱を感じまして、我々はこの声にしっかりと報いなければならない、という気持ちでした。この熱がチーム全員にしっかりと伝わってまた気持ちを同じくすることによって団結でき、1戦1戦向かっていけたということが大きかったように思います。試合はいきなり決勝というわけではありませんので、1試合1試合、きちんと地に足を着けて、よい準備ができたことがとてもよかったと思います。

 今年はチーム全員が前日から現地入りして、前日練習もしっかりとできました。また昨年は私が帯同できませんでしたが、今年は私も帯同できましたので、相手チームの映像分析をしてミーティング資料をつくって臨みました。前泊できたおかげで朝もミーティングの時間がしっかり取れましたので、資料を使いながら、サッカーに対するリスペクトを持ち、真摯に向き合うという姿勢が色々なところでうまくつながっていったという感触です。

──週に2回の練習で自分たちのサッカーを組み立てていくのはなかなか難しい面があると思うのですが、その辺りはいかがでしょう。

藤原:そうですね、週2回というところで本当に質と強度を保つのが精一杯と申しますか、メンバーは火曜、金曜の練習日以外で各自それぞれジムに通ったり、違うチームの練習に出たりして、トレーニングを積んでくれていますが、そこで質と強度を維持してコミュニケーションをとって、というのはなかなか難しいところはあります。人数が集まらないこともあります。

 普段はチームのLINEがあるので、そこで年間のトレーニングメニューの組み立て方などはシェアしています。今回の大会に関しても資料のパワーポイントをPDFにして送ったり、映像もポイント、ポイントで切り取ってチームに流したりしています。そういう形でも週に2回しか集まれないというところを補完していくようにしています。土曜や金曜の練習の前日にちょっと資料を見ておいて、と送っておいて当日もう一度確認して話す、とかそういう努力はしています。集まれる時間が限られているからこそ、そうした事前の準備、資料の共有などは重要だと思います。

 ただ社会人サッカーなので、卒業などでたとえば3年で入れ替わるというわけではなく、3年前に今25歳くらいの選手が入ってきてからメンバーが変わっていないので、それは気心が知れているというか、みんなの中で色々なことがイメージしやすいですし、様々なことを共有もしやすい面もあります。その中で私が掲げているのは相手を常に意識して戦術的柔軟にということですが、自分たちのよさも出しながら相手のストロングポイントも消すように動くということです。今回の大会は寝食を共にしてミーティングもしっかりとできたので、そこがよかったのではと思います。

──対戦相手それぞれにストロングポイントがあって、それをどう潰していくかということですね。

藤原:はい。資料として映像を探して共有したり、試合結果も県大会、予選を含めて分析し、得点力などを考えながら、対戦相手すべてのチームのデータを揃えました。またライブ配信もあったので、そこで試合の分析をしてチーム全体の特徴と個人の特徴を選手にしっかりと落とし込んで、相手のストロングポイントを消すためにはどう動かなければならないかということと、あとは自分たちのよさを出すためにはこうしたらいいというストーリーでミーティングを行いました。

──攻撃型だとか、守りが固いといったようなそういう分け方になりますか?

藤原:そうですね、サッカーはよく4局面と言われます。攻撃から守備、守備、守備から攻撃、攻撃、と4つに分けてやりますが、攻守共にですがそこを意識して映像を見ていくと、攻撃力のあるチームが多くて、そこを我々はどう守備していくかというところはしっかりと対策を考えていきました。

──とくにこの選手をマークして止めよう、となってきますか?

藤原:そうですね、そのチームの特徴として得点力のある選手やチャンスをつくれるような選手に関してはポイントでこういう持ち方をするとかこういう抜け出しをするとか、そういう部分は個人の特徴を掴んで対処するようにしました。全体のビルドアップというか組み立てに特徴があるチームもあったので、分析をするのが楽しかったです。全国で色々な特徴のある選手がいて、チームがあって、細々としたところでは違いがあったりして、そのことをきちんとチームの選手に伝えておくというのは大事だなと思います。

──そういう専門のスタッフがいるわけではないのですよね。

藤原:基本的に私が自分のサッカー人生の上で学んだことを活かしてというか、お世話になった指導者のやり方を見ながら真似をしたり自分なりの工夫をしたり、という感じでやっています。

──選手兼監督兼アナリストみたいなところも含めて、お一人でやってらっしゃるということですね。

藤原:そうですね、ほかのチームだと分析官がいて、それも2人、選手のスプリント数などを見て分析する人と映像を見て分析する人と分かれていたりします。そこを兼ねている感じでしょうか。


写真2 練習は人工芝のグラウンドで行っている

自チームの強み

──E-WING出雲の強みというのはどこにありますか?

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