多人数の指導をする際のポイントは何ですか 森下 茂(月刊トレーニング・ジャーナル2023年6月号、連載 トレーニングコーチが直面する課題 第3回)


森下 茂・School of movement認定マスターコーチ

連載目次
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ギリギリのプログラムに

 多人数を指導する上で難しいと感じることの1つが、どのレベルに合わせてプログラムを実施していくかです。とくにフィールドでの持久力トレーニングやアジリティトレーニングを実施する際に、どのレベルに設定して目標やタスクを決めたらよいかは悩ましいところです。おそらく、この問いに対する最適の答えは「チームにより、人により、状況により、時期により、目的により違う」になるかと思います。でも、それではこの問いに対する答えは終わってしまいますので、私が経験し、感じていることを書きたいと思います。

 結論から言うと、7割くらいの選手が達成できるかできないか、ちょうどギリギリのプログラムにするのがベターかなと思っております。これくらいの負荷設定にしたときが全体的な空気感がよいことが多いのかなと。逆に、2〜3割くらいの選手しか達成できないプログラムだと諦めてしまう選手が多くなるのか、エナジーある空気感になりづらいように思います。そこで持久力トレーニングを実施する際には、選手個々の持久力を把握し、体力に応じてグループ分けをし、それぞれのグループにちょうどよい目標タイムを設定することが大切になります。

「森下さんのフィットネスは、目標タイムに入れるかどうかギリギリなのでキツいんです」と、選手に言われることがあります。この負荷設定は、効率よく選手の持久力を向上させるだけでなく、「頑張ったらできそう」というレベル感だと、選手それぞれが勝手にチャレンジしてしまい、結果として全体の雰囲気もよいものになるのではないかと感じております。そして、これは数値化することができないような身体操作系のトレーニングでも同じように思います。できそうでできない、その辺りのプログラムを提供することができるかどうか。そのためには、実施しているエクササイズがうまくできない選手が多いときには、それに固執せずに、違うエクササイズに瞬時に変更できるだけの引き出しを、我々が沢山持っている必要があります。

 以前にテレビで観たのですが、保育園児をやる気にさせる4つのスイッチというものがあります。「ヨコミネ式」と呼ばれる4つのスイッチの1つに「チャレンジスイッチ」があります。「難しすぎず簡単すぎない、ほどよく難しいことに子どもは、興味を持ち、スイッチが入るため、子どもの成長を把握し、ひとりひとりにあった課題を与えます」。これは、なにも保育園児のみならず大学生でも大人でもまったく同じように思います。いかに選手個々に対して、チャレンジスイッチを与えられるか、エクササイズの選択、負荷設定が大きな鍵になるかと思います。

テンポ感が大切

 多人数指導するときに大切だと思うことの2つ目に、テンポ感があります。

 テンポ感が悪くなる原因に、我々の説明が長すぎることがあります。エクササイズの説明やデモンストレーションが長すぎる、これは本当によくある運動指導者がやってしまう光景です。炎天下や雪が降りそうなくらい寒い日、そんな日でさえも、我々の説明は相変わらず長いこともあります。これは本当に要注意です。

 そして、テンポ感が悪くなる原因の1つに、1人の選手にかかりきりになってしまうことがあります。あるエクササイズがうまくできない選手に対して、その場でなんとか動きを改善したいと感じ、よかれと思ってアドバイスを始めます。もちろん、ケガのリスクを伴うようなときには介入は必要です。しかし、その場で指摘して、何とかしようとしても、そこでは改善できないケースがほとんどのように思います。しかも皆の前でエラーを指摘されると、人によってはモチベーションをも低下させてしまうかもしれません。では、どうしたらよいでしょうか。

 これは1つのアイデアですが、個別のエラーがあったときには個別では指摘せずに、うまくできている選手がいたときには全体の前で褒めるようにする。これは私の師匠から教わったことなのですが、多人数指導の場合には、これはかなりいい感じです。1人(少数)のエラーがあったときには、セット間のタイミングで、全体に対して「このエクササイズでは、こんなエラーが出やすいので、次にやるときには気をつけてやってみよう」と伝えるのです。本来は、そのエラーが出ている選手に伝えたいことを全体にシェアする形です。もちろん、それだけで選手のエラーを修正するのは難しいです。ですから可能ならセッション後や、別な時間に個別でアドバイスするのがベターのように思います。うまくいかないことを全体の前で修正しないで、うまくいったことは共有する、それがテンポ感も保ちながらも空気感のよいセッションには大切なように思います。

選手同士が教え合うように

「人が成長する一番の方法は、人に教えることだ」とは、確かドラッカーの言葉ですが、まさに私もそう思います。

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